『進撃の巨人』 第5巻・第6巻 諫山創

巨人は光合成で動くってよ


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第5巻。エレンは巨人化することで、トロント地区の奪還に貢献するが、改めて正式な審問を受ける。保守的な憲兵隊は検査後の処刑を主張し、偵察兵団のエルヴィンはエレンの巨人化能力を、ウォールマリア奪還の切り札に使おうとする
エレンは審問中に「おれに投資しろ!」と叫ぶが、偵察兵団のエース、リヴァイ隊長は縛られた彼をボコボコに。偵察兵団が武力でもってエレンを統制してみせるというポーズで、隊長の冷酷さをこの一場面で表している
リヴァイ隊長とエレンは見た目が似ていて、エレンが戦士として成長する延長に隊長がいる、そんな関係に思える。もっともエレンがその道を選択するかは分からないが
その後は、ミカサ、アルミン、ジャンといった新兵組の偵察兵団入り。そして、新兵の訓練とエレンの生家への偵察を兼ねた遠征が始まる

第6巻。偵察兵団の進軍中に謎の女巨人が現われ、経験豊富な部隊を混乱させていく
平原では立体機動の助けとなる足がかりなく、精鋭であっても苦戦はまぬがれない。まして女巨人は、愚鈍な他の巨人とは違って知恵があり、急所であるうなじへの奇襲も背後に目があるのかという超反応で返り討ちにしてしまう。巨人界にニュータイプ現るである
ここまで動けるやつがいるならば、人類が巨人に追い詰められるのも分からなくもない
アルミンは女巨人が顔を確認してきたことから、同じ知恵のある“巨人”エレンを探していると直感する。鋭過ぎる勘で、頭がキレるというキャラクターがようやく開眼だ
とはいえ、この事態をまるで想定していたみたいに、リヴァイ兵長は森に女巨人を誘いこみ、エルヴィン団長が待ち伏せる場所に連れて行くのは不可解。遠征には単にエレンの生家調査だけでなく、別の目的があったと考える他ない

巨人に対抗する兵士のなかでも精鋭中の精鋭である偵察兵団だが、その作戦行動には疑問が多い
エルヴィン団長は入団の際に、偵察兵団の死亡率は九割と大戦末期の日本軍みたいなことを言い出すが、もしそれが額面どおりなら部隊はとうてい維持できない。生き残った者が精鋭となって帳尻を合わせるといっても、九割死ぬ前に実技試験で振るい落とすべきだろう。ハッタリであっても、指揮官として無能と言っているようなものである
今回の作戦に関しても、エレンの生家に巨人の秘密があるという根拠薄弱な情報に基づいて、偵察兵団の大部隊を投入しており、多大な被害を出している。大規模な部隊を出したら動きが遅くなるのだから、リヴァイ兵長らの精鋭だけを出して偵察させればいい
もし正当化するならば、実は女巨人の存在を知っていて、巨人の秘密を知るために捕獲したかったと考えるしかないのだ


前回 『進撃の巨人』 第3巻・第4巻
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『アルスラーン戦記14 天鳴雷動』 田中芳樹

相変わらずの文章力


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デヴァマント山から来る魔軍の一団に対して、ナルサスの献策によりアルスラーンはペシャワール城を放棄した。その好餌へラジェンドラ王の率いるシンドゥラの軍勢に、チュルク軍まで侵入、魔軍の介入よりチュルク軍は全滅。復活した魔人イルテリッシュは、魔軍の力に手ごたえを掴み、空からチュルクの首都を強襲するのだった。その一方、ミスル王国を掌握したヒルメスは、ナバタイ王国を迎え撃つべく大河を遡るが、思わぬ伏兵を受ける

漫画化、アニメ化の影響か、前巻より間もなく出版されていた
前巻から引き続き、アルスラーンの主従以外の場所が面白い。イルテリッシュ『魔界転生』の宮本武蔵よろしく、完全に自立化してチュルク王国の征服をはかる。魔人の君主に人間社会が統治可能かと疑うものの、あんがい生前(?)より頭が回るようになっているので、上手く行きそうな勢いである
作者の筆が乗っているのは、ミスルにおけるヒルメスだろうか
4年の時の流れを感じさせないアルスラーン主従に比べ、しっかりと年輪を刻み人間の幅が広がっているし、パルスの他に人はなしという世界観の中で、無警戒の凡夫が実は一世の梟雄だったという意外性もジュブナイル小説からはみ出している
なんとなく積読の山に入っていたが、読んでみるとあっという間に読破できた。余計な描写がなく、簡明で軽快な文章で頭のなかへするすると入ってしまうのである

魔軍はイルテリッシュのおかげか強化された
空飛ぶ猿たちも、空からの攻撃を徹底するようになった。今まで死んだ死人の数だけいるような大軍であり、前巻まで普通のおっさんに応戦できたものが、普通の兵士では苦戦するのだ
幹部クラス(?)の妖怪として人に化ける“鳥面人妖”も加わり、パルス側を大混乱に陥れる。まあ、追い詰められてもいないのに、自ら正体を現すのは謎すぎるが(苦笑)
これまでパルスに人材が集中し過ぎて、人間界に相手となる存在がいなかったところ、蛇王から発せられる超自然の力、妖怪、天変地異によって、調整されたかのようである
ともあれ、作者が予告していたように十六将がまた一人と死んでいく場面は唖然とするほかない。なんでそんなに簡単に殺せるのだろうか
こんな死に方をしては十六将のうちに入らないではないか、と危惧するような有様で、予想どおり地味な人からお亡くなりになっているのだ(苦笑)
人材が集まって死んでいく展開は、当初から『水滸伝』を意識しているだろうけど、それを貫徹する必要はあるのだろうか
最初から予定を決めてしまって、書いていくうちに立ち上がるキャラクターたちを転がしていかない手法は、長編ファンタジーと相性が悪く遅筆を招いている気がする


前巻 『アルスラーン戦記13 蛇神再臨』

関連記事 『魔界転生』
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『ビッグ・ノーウェア』 ジェイムズ・エルロイ

警察が腐敗しずぎの50年代


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1950年、1月のロス。若き保安官補アップショーは、遺体が獣に引き裂かれるという異常殺人に出会い、その解決に情熱を注ぐ。その死体解体現場を発見するものの、市警の管轄を不法に入るというミスを犯してしまう。一方、離婚危機を抱える警部補コンシディーンは、義理の息子の親権と名声を手に入れるため、赤狩り作戦に乗りだす。暗黒街の始末屋バズ・ミークスは、金のためにその作戦に組し、アップショーもまた異常殺人の捜査協力を条件に、左翼組織への内偵を試みるが……

『ブラック・ダリア』に続く、LA暗黒街シリーズの二作目である
ときは冷戦が始まって間もない1950年。ハリウッドでは赤狩りの波が何度も押し寄せ、作中ではエキストラと裏方の組合UAESが待遇改善のデモを起こしている。それを潰したい大実業家ハワード・ヒューズ暗黒街の帝王ミッキー・コーエンは傘下のティームスター(全米トラック運転手組合)に対抗のデモを打たせている情勢だ
この赤狩りを潰すためにUAESの弱みを握ろうと、アップショー、コンシディーン、バズ・ミークスがそれぞれ違う動機で誘い込まれる
前半はこの赤狩り作戦とアップショーの追う連続異常殺人が別枠として始まるが、下巻に入ると一気に交わりだし、次々に秘密が噴出して主人公たちを七転八倒させる
そのピンチのなかで、アップショーの正義感が無頼漢バズ・ミークスに乗り移り、冷淡なコンシディーンをも動かすという漢気の連鎖がたまらない
あまりに筋が複雑過ぎて、最後に作中で解説せざる得ないのは、ミステリー小説として不手際(笑)かもしれないが、いろんな意味で濃い名作である

前作がブラックダリア事件を題材としたように、本作でも実在の人物、事件が重要な位置を占める。そこに作品オリジナルのキャラクター、事象が乱入するので、どこまでが事実なのか、素人には判別できない(苦笑)
日本版WIKIにも確認できないスリーピーラグーン事件は、1942年にメキシコ系青年が殺されたことに対して、警察が無関係のメキシコ系移民を多数逮捕した冤罪事件である。背景にはアングロサクソン系白人のメキシコ系移民=バチューコに対する偏見があり、太平洋戦争の開戦で日系移民が収容所に入れられたことにより、よりメキシコ系に差別の対象が移行したという
主人公たちの視点ですら強烈な差別表現が次々に登場し読者を鼻白ませるが、これも50年代の苛烈な時代を再現するため。メキシコ系移民、黒人、同性愛者といったマイノリティがどういう扱いを受けていたか、掛け値なしに映し出されている
役人の出世のために行われる赤狩りに対しては、コンシディーンに「とてつもなく無駄であり、とてつもなく恥ずかしいことだよ」と言わせる。題名である「ビッグ・ノーウェア」=大いなる無とは、この無駄な労力、無駄な犠牲のことを指しているのだろう


前作 『ブラック・ダリア』
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『徳川家康』 下巻 山本七平

最近、本の記事がめっきり少なくなった。分厚い本を読んではいるにしても……


徳川家康(下) (ちくま文庫)
山本 七平
筑摩書房
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山本七平による徳川家康の評伝。下巻は関ヶ原の敗戦処理から、大坂の陣まで
下巻でも上巻に引き続いて、講談のイメージに引きずられないゼロベースの考察が徹底されている
司馬遼太郎などが描いてきた関ヶ原以後に天下を意識して、いわゆる腹黒、「古狸」に豹変した説を一蹴。それまでの「律義者」「海道一の弓取り」という堂々たる武人としてのキャラクターを保ったまま、天下取りに望み成功したとする
政治家が成功するにはまず権力を握らねばならず、権力を握るために権力欲を持つのは必然。「古狸」イメージは、あくまで西国大名や上方の人間による偏向したものというのだ
もっとも、あまりに常識人過ぎて面白みに欠け、頼られる人間であっても親しまれる人間ではなかったのも確かで、この点において大河ドラマの扱われ方は正しいといわざる得ない
巻末には息子さんが山本七平の遺稿をまとめた経緯、樺太出身の作家・綱淵謙錠との刺激的な対談が盛り込まれ、いろいろ濃厚な一冊である

下巻では家康の外交能力が高く評価されている
著者はクリスチャンながら、家康とキリスト教の関係を客観的に扱っていて、幕府が禁教にしたのもスペインやポルトガルの姿勢を問題視する。すでに布教活動が植民地化の道具に使われていることを知りながらも、家康はキリスト教自身には寛容であり、貿易にも積極的だった
しかし家康は布教を許す見返りに、帆船による航海技術や鉱山開発のための技師派遣を求めたときに、スペイン側は拒否する。国力の源泉である先端技術を渡すことに抵抗があったのもさることながら、大半が非キリスト教徒の日本を格下扱いしたのだ
オランダのクルーとして日本に漂着したウィリアム・アダムスは、家康のために帆船を建造して見せ、その信認を得る。彼を通じて国際情勢をつかんだ家康は、キリスト教の伝道にこだわらない新教国オランダの方が、貿易の利を追いかけられると外交方針を転換していく
秀吉の朝鮮出兵で冷え込んだ対アジア関係では、第三次の出兵を偽装しながら朝鮮側から通信使を一方的に派遣させることで双方の顔を立てつつ、対明貿易の再開を探っている。島津に琉球へ侵攻させたのも、対明貿易のためだった
すでに明が滅亡間近でこうした動きは功を奏さなかったものの、諸外国に対する家康の細やかな対応は、日本史のなかでも抜きん出ている

大坂の陣に関しては、著者は淀君戦犯説を唱える。もうボロンチョである(苦笑)
家康が目指した国家は源頼朝を範にした公武を峻別した武家中心の社会であり、関ヶ原以後は豊臣家を一大名として傘下に収めようとしていた
信長に従い、次には信長の配下だった秀吉に従った家康にとって、その時代の強者に弱者が従うのは「常識」であり、なんら不思議な構想ではなかった。豊臣家の滅亡ありきで策謀を巡らせたというのは、家康嫌いの偏見だというのだ
家康にとって大坂の陣は望んだことではなかったが、大坂城の包囲をいわば「諸大名の忠誠試験」に用いた。冬の陣後も豊臣家を幕藩体制に組させようと、関東への移封を条件に出している
なぜ、大阪方は豊臣家が存続する条件を拒否したか。著者は大阪方に総大将がつとまる人材がおらず、集めた牢人たちの「世論」に支配されたとする。彼らは講和が成立してしまうと、行き場所がなくなってしまう。『真田丸』を思い出すと、苦笑せざる得ない皮肉な結論である
ここらへんは、軍部にかきたてられた「世論」によって対米戦に突入し、あわや本土決戦までやりかねなかった、かつての日本を意識していると思われる
もし、淀君が前田利家の妻・芳春院のように江戸へ人質へ出ていれば、著者の言うように豊臣家の滅亡は回避できただろうか。家康が存命中は守られただろうが、秀忠以降になるとけっこうな大名が潰されているので、丁半博打な気もする


前巻 『徳川家康』 上巻
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