『山本五十六』 阿川弘之

阿川佐和子のお父さん


山本五十六 (上巻) (新潮文庫)
阿川 弘之
新潮社
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山本五十六 (下) (新潮文庫 (あ-3-4))
阿川 弘之
新潮社
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日米戦争に反対しながら、その口火を切らざる得なかった山本五十六とはいかなる人物だったのか。その出生からブーゲンビルで戦死するまでを詳細に描く
膨大な取材と資料を駆使した山本五十六の記録文学である
海戦における航空母艦を中心とした機動戦術の優勢を確立した名将である一方、戦前においては日米戦争に最後まで反対し続けたことでも知られているが、本作で強調されるのは生々しい人間としての姿
愛人である梅龍の千代子との逢瀬、「海軍を辞めたらモナコでカジノでもやる」というほどの博打・勝負好き、どこでも逆立ちして見せる茶目っ気と、戦争のドキュメント番組などからは想像しにくい、軽快な人柄が偲ばれる

上巻では、ロンドン軍縮会議など‟条約派”軍人としての活動が中心となる
1929年のロンドン軍縮会議は、日米英での建艦競争を阻止すべく、特にアメリカの台頭を恐れるイギリスが主導で行われた。日本は西海岸側の米艦隊を牽制できる「対米7割」を主張してアメリカと対立し、イギリスは条約の決裂を恐れた
山本は最初、大使付きの中佐という立場で参加しつつも、各国の大物にその存在を認められる。作中では山口多聞と強硬に「対米7割」を主張したことは描かれないが、条約そのものをその工業力の格差からアメリカを縛るものとして評価していた
1936年には海軍次官に就任。海相となった米内光政とのコンビで、陸軍参謀部に触発された軍令部の政治化を抑え込み、害しかない日独伊三国同盟の実現を阻止しようとした
ただし作者は軍人が政治に口を挟まないという海軍の良識が、この非常時において大人し過ぎたのではないかとも指摘する

下巻は真珠湾作戦の計画から、ブーゲンビル島で散るまで
真珠湾攻撃に関しては、本人以外のほとんどの人間から反対を受ける。しかし、日米戦をするならハワイ作戦は必要不可欠として、山本は自身の進退をかけて突っぱねる
山本からすると「南方に進出している間に、東京が空襲されたらどうするのか」という懸念があり、後のミッドウェー海戦につながる着眼点である
ただし、航空母艦を撃ち漏らしたにも関わらず、航空隊が当然あるものと思っていた第二次爆撃を決行せず、ハワイの軍事施設の多くが残存した
ミッドウェーの曖昧化していった作戦目的といい、艦隊保全主義で攻撃に徹底しきれない海軍の性質が異端児の山本五十六にすらあったといえるし、いかにも日本人らしいあっさりさだと作者は評する
話は山本の死だけで終わらず、遺体回収から国葬、知人や近親者たちがいかに振舞ったかまでに及ぶ。赤裸々な記述は訴訟騒動まで起こしたそうだが、後世に語り継がれるべき労作である


関連記事 『聯合艦隊司令長官 山本五十六』(半藤一利)
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『由伸・巨人と金本・阪神 崩壊の内幕』 野村克也

こんなタイトルだが、巨人の監督には松井秀喜を推す


由伸・巨人と金本・阪神 崩壊の内幕 (宝島社新書)
野村 克也
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広島独走の原因は、頭を使わない野球にあり。外野出身の監督が増えたプロ野球界への警告
2016年8月が初出で、本書は同年における金本阪神と高橋巨人の低迷の原因を分析することから始まる
阪神に関しては、虎番記者に代表される関西マスコミが癌とするなど、『阪神タイガース暗黒時代再び』とかぶる内容が多いものの、自らと同じ外様からの就任ということで、金本監督へは改善を期待した批判がなされている
巨人の高橋監督には、なぜ監督にしたか分からないと手厳しい。12年間の長期政権ながら、これという後継者を育てられなかった原辰徳前監督が俎上に上る
話はノムさんの好き勝手に飛び、話題は巨人阪神にとどまらない。東映フライヤーズの殺人的なホーム突入、サインを覗いた者勝ちといった昔の野球から、最後の方には監督でチームが変わる時代ではない」という衝撃のボヤキが待っている(苦笑)

本書で展開されるのは、「外野手監督に名将なし」の持論。ノムさんの野球観は、捕手>内野手>投手>外野手とポジション別のヒエラルキーがある
理屈としては、外野手は守備の時間で一球ごとに考えることの少なさにある。考えている人は考えているのだが、多少変な場所に守っていても、コーチからの指示で修正すれば済んでしまう。守備の負担の少なさは、打撃に専念できる環境なのだが、考えずに済むという条件が監督には不向きというわけだ
もっとも名将なしの持論は、ノムさんの「名将」の条件が高いからで、鵜呑みにはできない。選手の力を引き出すだけでは足りず、その人間教育もできなければならないし、接戦を抜け出すだけの頭脳や野球知識も持たなければならない
要する能力は多様なので、どのポジション出身の人間でも大変な基準なのだ。これを満たした人間が過去何人いるだろうか
広島の緒方監督は、今後の成績如何では「名将」入りするだろうし、日本ハムの栗山監督もなんだかんだ何年かに一度は優勝している。「外野手に名将がなし」といっても、愚将ばかりともいえず、世間的にはなかなか受け入れられない持論だろう
ノムさん怒りの矛先は、外野出身の監督そのものというより、選手の能力と勢い任せの「考えない野球であり、その場限りの補強に走る名門球団のフロント。今、名捕手という存在がいなくなったのは、その結果といえよう


関連記事 『阪神タイガース暗黒時代再び』
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『ベルセルク』 第39巻 三浦建太郎

物語はやっと中盤?


ベルセルク 39 (ヤングアニマルコミックス)
三浦建太郎
白泉社 (2017-06-23)
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ガッツたちは大航海ののちに妖精の島にたどりついた
妖精の島は同時に魔法使いの島でもあり、一行に案山子や野菜の化け物をけしかけたのは、余所者を警戒する魔法使いたちなのであった。そんな保守的な彼らのなかでも、禁忌の守護者を放ったお騒がせ魔女モルダは、今後のストーリーに絡んできそう。ガッツのパーティは何人まで増えるのであろう(苦笑)
シールケの師匠と大導師が知り合いだったことから、すんなり受け入れられキャスカの正気取り戻すために、妖精の女王‟花吹雪く王”との謁見に臨むのであった

大導師たちによって、転生したグリフィスが行ったことが説明される。本巻は半ば説明回である
彼らが大幽海嘯と呼ぶのは、天界と地上界と冥界をつなぐ「世界樹」が顕現し、幽界の力が猛威を振るうこと。グリフィスが世界樹を封印していた「霊樹の森」をつぶし続けることで、世界を変えてしまった
ガッツはグリフィスの目的を問われるが、「国盗り」であると同時に「それは手段であり、さらなる高みを目指すこと」と答える
大混乱の世界のなか、首都ファルコニアの周辺のみに秩序が残されていて、グリフィスは偽救世主として統治している。果たして、彼の目指すさらなる高みとは、なんなのだろう

後半はシールケとファルネーゼによるキャスカの夢探検。いまいち、活躍の場のないファルネーゼにお鉢が回ってきた。ナニのシーンでなぜにシールケの目を塞ぎ、自分は見たのであろう(笑)
ともかくも、シールケの登場以降の傾向なのだが、幅が広がった反面、作品に丸みが出てしまったのが寂しい。ガッツら三人で酒を飲む場面は、妙に主人公の人格が出来上がってしまって違和感を覚えてしまった
初出から30年近い時間は、作品に変化を与えずにいられないだろうが……


前巻 『ベルセルク』 第38巻
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『カウント・ゼロ』 ウィリアム・ギブスン

キャラの立っていた人たちが、あっけなく瞬殺されるのだけがアレ(苦笑)


カウント・ゼロ (ハヤカワ文庫SF)
ウィリアム・ギブスン
早川書房
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ハッカー志望の少年ボビイは、電脳空間へ初めてのジャックインした。経験不足から防御ソフト=アイスに捕らわれてしまうが、不思議な少女の声を聞くや離脱することができた。その一方、ニューデリーで身体を破壊された傭兵ターナーは、大企業マーズの施設から研究者を連れ出す仕事を請け負わされる。そして、失敗したばかりの画商マルディは、大富豪ヨゼフ・ウィレクから謎めいた「箱」の作り手を探すことを依頼されて……

『ニューロマンサー』と世界観が共通する続編的作品である
初心者ハッカーのボビイと、失意の画商マルディ、全身を破壊された状態から再生したガチムチ傭兵ターナーの三人が主人公で、それぞれの物語が並列して展開される
普通こうした構成だと、半ばも過ぎれば収斂されるものだが、これが中々交わらない!
中盤でもボビイが電脳世界で聞いた少女の声と、ターナーが救った謎の少女が淡い共通項として浮上するのみで、マルディは二人の話から全編を通して独立していて、ウィレクの口からターナーが連れ出そうとする研究員の会社マーズの生体チップが話題に出るのみだ
というわけで、いつ交わるのかと期待を胸に読み進まざるえず、最終盤でようやくカタルシスを味わえるのだ
洗練された文体に、読者を釣りに釣る構成、さらには前作『ニューロマンサー』の後日談もあって、エンターテイメントとして至高の出来栄えなのである

前作と同様に、全世界を覆う電脳世界脳みその一部から全体を再生する医療技術クローン技術で生み出されるニンジャ、そうした進み過ぎた技術や頽廃した社会については特に批評性はない
あくまでそうした世界に生きる主人公に寄り添っていて、SFというよりSF的世界で展開されるファンタジーである
ただし本作に限っては、アンジイという特別な脳を持った少女がヒロインたることで、それを使って生命維持装置から抜け出し不老不死を保とうという老人の野望は悪と見なされる。なんでもありの世界でも、老人が先行きのある少年少女の邪魔をしてはならないのだ
もっとも不老不死的な存在は電脳世界に漂っていて、半ば神として現れて主人公たちに訓示を与えていく。彼らの正体こそ、『ニューロマンサー』の結果として生まれた、AIがマトリックスに融合した‟半神”とおぼしい
オリジナルとコピーの境目どころか、創造者と被造物の境目すら氷解してしまうという、なんとも奇怪な世界が描かれているのである


前作 『ニューロマンサー』
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