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『ビッグ・ノーウェア』 ジェイムズ・エルロイ

警察が腐敗しずぎの50年代


ビッグ・ノーウェア〈上〉 (文春文庫)
ジェイムズ エルロイ
文藝春秋
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ビッグ・ノーウェア〈下〉 (文春文庫)
ジェイムズ エルロイ
文藝春秋
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1950年、1月のロス。若き保安官補アップショーは、遺体が獣に引き裂かれるという異常殺人に出会い、その解決に情熱を注ぐ。その死体解体現場を発見するものの、市警の管轄を不法に入るというミスを犯してしまう。一方、離婚危機を抱える警部補コンシディーンは、義理の息子の親権と名声を手に入れるため、赤狩り作戦に乗りだす。暗黒街の始末屋バズ・ミークスは、金のためにその作戦に組し、アップショーもまた異常殺人の捜査協力を条件に、左翼組織への内偵を試みるが……

『ブラック・ダリア』に続く、LA暗黒街シリーズの二作目である
ときは冷戦が始まって間もない1950年。ハリウッドでは赤狩りの波が何度も押し寄せ、作中ではエキストラと裏方の組合UAESが待遇改善のデモを起こしている。それを潰したい大実業家ハワード・ヒューズ暗黒街の帝王ミッキー・コーエンは傘下のティームスター(全米トラック運転手組合)に対抗のデモを打たせている情勢だ
この赤狩りを潰すためにUAESの弱みを握ろうと、アップショー、コンシディーン、バズ・ミークスがそれぞれ違う動機で誘い込まれる
前半はこの赤狩り作戦とアップショーの追う連続異常殺人が別枠として始まるが、下巻に入ると一気に交わりだし、次々に秘密が噴出して主人公たちを七転八倒させる
そのピンチのなかで、アップショーの正義感が無頼漢バズ・ミークスに乗り移り、冷淡なコンシディーンをも動かすという漢気の連鎖がたまらない
あまりに筋が複雑過ぎて、最後に作中で解説せざる得ないのは、ミステリー小説として不手際(笑)かもしれないが、いろんな意味で濃い名作である

前作がブラックダリア事件を題材としたように、本作でも実在の人物、事件が重要な位置を占める。そこに作品オリジナルのキャラクター、事象が乱入するので、どこまでが事実なのか、素人には判別できない(苦笑)
日本版WIKIにも確認できないスリーピーラグーン事件は、1942年にメキシコ系青年が殺されたことに対して、警察が無関係のメキシコ系移民を多数逮捕した冤罪事件である。背景にはアングロサクソン系白人のメキシコ系移民=バチューコに対する偏見があり、太平洋戦争の開戦で日系移民が収容所に入れられたことにより、よりメキシコ系に差別の対象が移行したという
主人公たちの視点ですら強烈な差別表現が次々に登場し読者を鼻白ませるが、これも50年代の苛烈な時代を再現するため。メキシコ系移民、黒人、同性愛者といったマイノリティがどういう扱いを受けていたか、掛け値なしに映し出されている
役人の出世のために行われる赤狩りに対しては、コンシディーンに「とてつもなく無駄であり、とてつもなく恥ずかしいことだよ」と言わせる。題名である「ビッグ・ノーウェア」=大いなる無とは、この無駄な労力、無駄な犠牲のことを指しているのだろう


次作 『LAコンフィデンシャル』
前作 『ブラック・ダリア』
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『ループ』 鈴木光司

安原顕の解説はスルーしよう


ループ (角川ホラー文庫)
鈴木 光司
角川書店
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科学者の父を持つ二見馨は、10歳のときに重力分布図と長寿村の関係を読み解き、アメリカへの旅を約束した。しかし、その後に父の幸彦が悪性のガンにかかり、約束は果たされないままだった。10年後、馨が医学生になったとき、世界には幸彦がかかったウィルス性のガンが蔓延し、それは樹木や動物にまで冒されていた。気に病む彼は父と同じ病院に息子を入院させている礼子と関係を持つが……

リングシリーズの完結編としては、やや外してしまっただろうか
『リング』『らせん』は、『らせん』内に小説『リング』が登場するように、入れ子構造になっていた。本作と『らせん』も同じように入れ子構造となっている
『らせん』によって『リング』の意味が変わったように、『ループ』によって『らせん』の意味が変わってしまうが、変わり方がどうもよろしくない。あまりにぶっ飛び過ぎて、『リング』の続編である必要がないのだ。関連付けはなされても、前作・前々作を矮小化してしまっている
前々作のホラーから前作はサイエンス・ホラーに化けたが、今回は完全なSF。ガンとの絶望的な戦い、患者とその家族の辛さは執拗に描かれているし、アメリカの砂漠の描写は迫真であるが、シリーズとして意識したときに貞子が出てこないのが寂しい

勢いよくネタバレしてしまおう。『らせん』の世界は、本作の世界にあるスーパーコンピューターに作られた仮想空間『ループ』である!
前作までの話を読んでいると、ガンのウィルスがリング・ウィルスであることはすぐ分かるし、仮想空間で人工生命の研究がなされていたこととつなげると、わりあい連想しやすい
小説としても、これほど巨大なプロジェクトで予算が割かれて、かつ関係者が不審な死を遂げているのに、日米の国家機関がまったく為す術がないというのが不思議で、エリオットが行った非人道的な実験をどこにも漏れていないというのも解せない
作者が書きたいこと以外を簡略化し過ぎていて、終盤に近づくごとにリアリティが落ちていくのは残念だった
主人公の自己犠牲的なラストも、「正攻法だと時間が足りないから」というも切ない。殺す気まんまんじゃないすか

と、ネチネチ書いてしまったが、読後感は悪くない。作者の文章力が力強く、すがすがしい気分にさせられるのである。すごい腕力だ


前作 『らせん』




ドリームキャストで発売された『リング』というゲーム
一見、クソゲーだが、じつは『ループ』の設定が生かされたシリーズを総括する内容でもあったらしい
まあ、やりたいかというと……
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『らせん』 鈴木光司

『らせん』の映画は小説に近かったかと


らせん (角川ホラー文庫)
鈴木 光司
角川書店
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幼い息子を亡くした監察医・安藤満男は、かつて大学で同窓だった高山竜司の遺体を検視解剖した。高山の遺体の内部からは謎の暗号が現われ、安藤はそれが「RING」であると解き明かす。一方、高山の恋人でその遺稿をまとめていた高野舞は、謎のビデオテープを見たあとに消息を絶ってしまう。舞の美貌に惹かれていた安藤は、彼女のマンションを探るうちに、ただならぬ気配を感じるのだった

いわずとしれた『リング』の続編
映画では『リング』と『らせん』が同時上映されていたが、小説は1995年の出版『リング』から4年の間隔が空いている
作者が4年かけた続編だけあって、前作の世界観を大きく膨らませる大作へ変貌していた。ロッグキャビンと一本のビデオテープから始まったホラーが、世界の存亡を賭けたSFになるなど、誰が想像するだろうか
『らせん』からがSFとしての本編であり、『リング』はいわばその前日譚……というか、読み終わった後にはその『リング』こそが、『らせん』作中に出てくる小説になってしまって、その結果……(以下略)。続編によって前作の立ち位置が変わるのは、アゴタ・クリストフの『悪童日記』の三部作を思い出す
本作の貞子は映画のようなモンスターではなく、科学現象で生まれた突然変異に過ぎず、憎むべき存在になりえないことも作品を薄気味悪いものにしている

しかし、ホラーでなくなったかというと、まったくそうではない
ありふれた都市の光景の中から、ふとしたことで感じてしまう違和感や見えないものへの怯えを拾い上げていて、それが読者の日常に重なっていくのだ
そして、それに人類社会そのものを揺さぶる“サイエンスホラー”が加わっていく
安藤の同僚である宮下がやけにオカルトへ傾倒するとか、前作にも見られたご都合はある(苦笑)。普通なら「ばかじゃねーの」とオカルト的発想を止めにかかる人が出てくるものだろう
が、読者の視点に近い生活感と、DNAと遺伝子の関係から生物誕生の謎にまで行きつく薀蓄の積み重ねが、香ばしくぶっとんだフィクションを厚く包みこんでいる。読者にやぼな突っ込みをさせない強固な作品世界を作り上げているのだ
ラストにとる主人公に迫られる選択とその決断も、“サイエンスホラー”に相応しい迫力と後味の悪さ


次作 『ループ』
前作 『リング』

関連記事 『悪童日記』

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『リング』 鈴木光司

オチはSFと聞いて


リング (角川ホラー文庫)
鈴木 光司
角川書店
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4人の少年少女が同日同時刻に変死した。雑誌記者・淺川和行は姪の早すぎる死に不審を持ち、オカルトに一家言持つ教授・高山竜司に連絡を取り、彼らが夏休みに出かけた南箱根のロッグキャビンへと行く。そこにはただ、一本のビデオテープがあったのみ。しかし、そこにモノクロで映されていたのは、火山の噴火、謎の老婆、肩をかまれた男、……そして井戸。呪いを回避する“おまじない”を探すため、山村貞子を探す旅が始まる

映画のイメージとは、かなり違った
映画の貞子はビデオテープを観た人間を殺し尽くしてしまうモンスターとして扱われていて、管理人も今まで観た映画のなかで一番ビビったものだ
小説にはそうした等身大の怖さがない。主人公の淺川が客観的にはキョーレツな妄想癖の持ち主としか思えず、読者は同調できるキャラクターではないからだ。4人の変死という事実があっても、半信半疑にならざる得ないのが普通の人間ではないだろうか
強気な高山とは本当にいいコンビであり、シリアスなホラーというよりはどこか香ばしい雰囲気があって、単純なホラーではなくビデオテープから山村貞子を追いかけるミステリーというに相応しい

単純に驚いたのは、もう25年も前の作品だということだ
VHSテープに、不幸の手紙ネタ、公衆電話と今では懐かしいものがゴロゴロとしていて、リゾート地のにぎわいはバブルの名残を思わせる
家族思いの淺川に、ノリの軽い割りに純情な高山と、男性像にも昭和の匂いが強い
小説では山村貞子の生い立ちが詳しく語られていて、彼女がなぜビデオテープを作り出したかも理詰めで説明してくれる。名状しがたい恐怖ではなく、分かった上でどうにもならない恐怖なのである
映画『らせん』を観たときには、映画『リング』との調子の違いにとまどったが、小説『リング』からならあの設定にも納得。このシリーズは『パラサイト・イヴ』と同様の、サイエンス・ホラーだったのだ


次作 『らせん』

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『風神の門』 司馬遼太郎

今年の大河の外れ臭
柴咲コウが出てるから、観ちゃうんだけど


風神の門 (上) (新潮文庫)
司馬 遼太郎
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風神の門 (下) (新潮文庫)
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霧隠才蔵は伊賀忍者ながら、徳川家にも仕えず堺衆の使い走りにされていた。京の八瀬では徳川の刺客になぜか襲われ、沐浴上では菊亭晴季の娘を騙る美女に遭遇する。美女の正体は淀君に仕える侍女・隠岐殿。徳川との一戦に備えて有力な牢人たちに連絡をとるべく、晴季の娘になりすましていたのだ。真田幸村に心酔する猿飛佐助とも出会い、紆余曲折の末、徳川家康の首を狙う

司馬遼太郎の『梟の城』に続く、忍者小説である
立川文庫の創作である真田十勇士が実在したとすれば、どうであったかという視点で描かれ、猿飛佐助は六角氏に仕えた三雲家に連なる甲賀衆とし、霧隠才蔵は伊賀の郷士出身として服部姓を持つ
幸村の腹心として、穴山小助、三好清海入道らも登場し、霧隠才蔵を加えてちょうど10人目の士分が揃い、真田十勇士が結成されることとなる
もっとも、主人公である霧隠才蔵は幸村に臣従したつもりはなく、佐助への友情家康を討つという任務への昂揚感、そして女たちへの恋に突き動かされていく

本作の特徴は司馬作品ながら、インテリ講談と喩えられる歴史講釈が最低限に留まり、講談の産物である忍者が史実の世界に着地できるように力を尽くされているところだ。エンターテイメントに全力なのである
立川文庫だと、猿飛佐助が最上級の忍者で、霧隠才蔵は永遠の二番手扱いとなっているが、本作ではそれが理屈でフォローされる。佐助は組織力に長じた甲賀衆であり、集団を前提とした大規模な忍術に通じている
翻って、伊賀衆の才蔵は個人技を磨くのみで、その性格も唯我独尊。伊賀忍者は個人事業主が基本で、集団行動は性格的に苦手である
これにより、才蔵は自らの周囲ではピカ一の活躍を見せるものの、全体としての貢献度は佐助の後塵を拝するのだ
組織力が個人技に勝る、そうしたリアルさを保った上で、惚れた女ときのまま生きるという自存自立した才蔵の在り方は、戦後の日本人を惹きつけるものがある
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『ブラック・ダリア』 ジェイムズ・エルロイ

表紙はリアルの被害者!
解説によると、”ブラック・ダリア”の由来は漆黒の髪をダリアの花に見立てたとか


ブラック・ダリア (文春文庫)
ジェイムズ エルロイ
文藝春秋
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1947年1月15日、ロス市内で女性が惨殺された。女優に憧れて東海岸からやってきた彼女の名はエリザベス・ショート。一介の巡査だったバッキー・ブライチャートは元ボクサーのつながりから、特務課のリー・ブランチャートに引き立てられるも、この通称「ブラック・ダリア事件」に巻き込まれて数奇な運命を辿る。はたして彼女を殺したのは……

『L.A.コンフィデンシャル』で有名な「LA四部作」の第一作
実在の殺人事件「ブラック・ダリア事件を題材しながらも、主役であるバッキー・ブライチャートに、相棒のリー・ブランチャートその“ルームメイト”であるケイ・レイクの三角関係が絡んで、先が予測できない複雑な展開を遂げる
視点は主人公の一人称で舞台がロサンゼルスというと、レイモンド・チャンドラーを思い出すが、この作家さんもあまり説明を交えずに文章を進めていくし、一つの事件にまったく無関係なような筋をぶっこんでくる手並みなども共通している
ただし、作品の性格はまったく異なる。シリーズものの主人公ではないので、バッキーは自らの生い立ちと選択に生々しく苦しみ続ける。事件の解決と同時に、人間の内面を描ききった濃い濃い長編小説なのだ
終盤のどんでん返しの連続には、やり過ぎとも感じてしまうが、2、3本の作品が混ぜ合わせたような濃さには圧倒され続けた

作者のジェイムズ・エルロイは、アメリカのタブーを取り上げることから「アメリカ文学界の狂犬」と言われている(「mad dog」の語感は、日本語で「荒くれ者」の意味らしく、けっして悪いイメージではない)
本作では「ブラック・ダリア事件」を取り上げつつも、当時の警察や治安状況を忠実に書き記し、終戦直後の復員でごった返すアメリカ社会の混沌を描ききっている
ブラック・ダリア事件に際しては、警察幹部が事件のイメージを膨らませて自分のお手柄にしようと新聞社を買収。方々で軍人の相手をしていたエリザベス・ショートに、清純な美女のイメージを作り出す
新聞を大きくにぎわせたことから、数百人の自供者が発生。そこから真の情報源を探すべく、警察は拷問紛いの行為で振るい落とそうとする。明らかに罪や弱みを抱えた人間に対しては、主人公たちも容赦なく拳を振るう
なるほど、捕まったらまず弁護士を呼ぶ社会ができるわけである(苦笑)。呼ばなきゃ、自分を守れないのだ
超有名なランドマーク「ハリウッドサイン」が、元は「HOLLYWOODLAND」と「LAND」が付いていたとか、リアルな40年代のLAが体験できる作品である


次作 『ビッグ・ノーウェア』

関連記事 【DVD】『ブラック・ダリア』
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『聖の青春』 大崎善生

管理人との共通点は、部屋が積読で溢れているぐらい


聖の青春 (講談社文庫)
大崎 善生
講談社
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幼い頃に腎臓病を患った少年は、療養学校で将棋を覚える。普通の子供のように動き回れない鬱屈を将棋にぶつけ、外へと羽ばたつ翼とした彼は、メキメキ上達。1983年に谷川浩司が最年少名人が話題となり、「打倒谷川」を目指してプロの門を叩く。つきまとう持病の闘いに、師匠はときに少女漫画を探しそのパンツを洗った

今秋に上映されている松山ケンイチ主演の映画の原作小説である
管理人は大学時代、将棋部に属していて、その死には涙したものだ
本作は村山聖の良き評伝であるだけではない。冒頭には、山に連れて行った兄がマムシを投石で殺し、村山の病気が発症する場面から描かれる。周囲の人物の視点から始まっていて、なおかつ劇的な場面なのだ
そうした小説としての鋭さを持ちつつ、様々な人間から見た多声的な構成が本作の特徴であって、身近にいた作者が我を張らずに、ただただ村山聖のピースを拾い集めて作り上げられている
世界でただ一つのユーモラスな師弟関係が取り上げられる一方で、病気の子供を持った家族のやるせなさ、苦しさも描かれていて、村山聖という人間が自然に立ち上がってくるのである

村山聖には、名人位を目前にしてA級在籍中に死去した悲運の棋士というイメージがつきまとう
たしかに悲運には違いないが、本作で強調されるのは村山自身が病気を不運だと思っていなかったということだ
病気と村山は不可分の関係であり、その将棋は長くは生きられないという切迫感によって作られていた。そもそも病気になっていなかったら、将棋に出会っていたかどうかも分からない
阪神大震災で弟弟子の奨励会員が亡くなり、村山は積読の山が崩れて頭に本をぶつけただけで済んだというエピソードは、人の運命について考えざる得ない。ただ、悲運の棋士を描くだけではなく、人が生きていく上で出会ってしまう、不運や幸運、絶望と希望の錯綜が書きつけられているのだ
ヒューマンで温かいともに、人生のなんともいえない巡り合わせを見せられるノンフィクションであり、文学なのである


村山聖名局譜 (プレミアムブックス版)

マイナビ出版 (2016-11-22)
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『イシャーの武器店』 A・E・ヴァン・ヴォークト

銀河黙示録ケイル


イシャーの武器店 (創元SF文庫)
A.E.ヴァン・ヴォークト
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7000年の未来、地球は女帝イネルダを戴くイシャー王朝に支配されていた。その圧政に対抗すべく、数千年に渡って戦い続けてきたのが武器製造者ギルド。様々な特殊武器と科学装置によって、帝政の腐敗を是正してきた。だが、帝国側がギルドが予期せぬエネルギー兵器を使用したことで、時空に歪みが生じてしまい1951年から新聞記者が未来に流れ着いてしまう。ギルドは彼に蓄積した膨大な時間エネルギーを利用しようとするが……

なにかのSFの解説に名前が出ていたので、読んでみた
作者のA・E・ヴァン・ヴォークトは、SF小説における「ワイドスクリーン・バロック」という手法を確立した作家いわれる。wikiの定義を見ても良く分からないのだが(苦笑)、SFの条件を満たしながら社会風刺ともに冒険小説であり、政治小説にも純文学的でもあるという、ひとつの作品に様々な輝きを放つことの喩えのようだ
代表例として挙げられる、アルフレッド・ベスターの『虎よ! 虎よ!』には数冊分のプロットが一冊に放り込まれたような濃度を感じたものだが、本作も同様の濃さがある
もっともこの作品は、同じ世界観で書かれた短編を一冊の長編小説としてリライトする、作者いわく“fixed-up”という手法を用いていて、本当に元は複数の物語だったのだ

そんなわけで、1951年の新聞記者マカリスターが、7000年代の武器製造者ギルドに迷い込んだかと思いきや、次の章ではケイル・クラークの物語が始まってしまう
ケイルは田舎町に住んでいて、「オラ、こんな街いやだ」と店を継がずイシャー朝の都へと旅立つ。軍人さんに渡りをつけて、ここから銀英伝でも始まるかと思えば、急転直下の展開で地下王国へ送られるカイジのような状態に陥ってしまう(笑)。福本ファンなら、イシャー朝=帝愛と連想してしまう
武器製造者ギルドの面白いところは、帝国の圧政と戦いながらも、帝国そのものを倒さないこと。あくまでその腐敗を正すのみで、政治体制の変更は求めない。市民オンブズマンのようなNGOなのだ
そのイデオロギーは、人間は自分でその身を守らねばならぬと自衛専用の武器を販売し、不正に関しても市民自らがそれを正そうとする自覚を求める。どんな政体であろうと、そうした市民の意思がなければ腐敗はなくならないというのだ
解説いわく、アメリカのリバタリアン=自由主義の精神なのである
武器を所持するところは合衆国の伝統そのものであり、イシャーの若き女帝は大英帝国の歴代女王を彷彿とさせる。舞台は超未来でも、きわめて新大陸の歴史を感じる作品である


次作 『武器製造業者』

関連記事 『虎よ! 虎よ!』
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『千年樹』 荻原浩

母親に薦められた本


千年樹 (集英社文庫)
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荻原 浩
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平安時代、東国に下りた国司が現地の武士に襲われて、その家族は未開の山地に放り出された。その国司の子である幼児が最後に食べたくすの実から、木が生え樹齢千年に及ぶ巨樹に成長した。その巨樹の回りで、様々な人間模様が繰り広げられた。自殺を試す中学生に、時を越えたタイムカプセル、くだらないことで切腹させられる侍に、来ない恋人を待ち続ける女、……そして、いつしかこの木も……

ある古い社に生えたくすの木の周囲で行きかう人々を描いた物語
一章ごとに視点となるキャラクターが変わり、古今のドラマが巨樹を通して結びつく構成となっている
昔の話と今の話の類型が似て、「人間は今も昔も変わらない」「歴史は繰り返す」と見せかけながら、実は少しずつズレていて、むしろ時代ともに変わる人間の変化を辿っているようにも思えた
巨樹に取りついた幼児の亡霊(?)が積極的に関わる話もある一方で、別に樹がなくても成立する話があったりしてしまうのだが(苦笑)、違う物語に樹を通して同じ世界に属して共通する登場人物が現われたりと、最後まで読むとやはり巨樹なしに成立しない作品であることが分かる
物語の面白さを知り尽くした職人の名短編集である

「萌芽」
千年樹誕生の悲話と、1980年代のいじめられた中学生が自殺を考える話。中学生が幼児の亡霊(?)にもてあそばれているうちに、ポジティヴに立ち直る
ストレートな話に思えたが、まさか後につながろうとは

「瓶詰めの約束」
太平洋戦争末期に空襲を逃れた子供が瓶詰めに宝物を隠す話と、1970年代に千年樹の山の幼稚園でタイムカプセルを埋める話。B-29が超低空飛行で子供に機銃掃射する(夜間では比較的低空から爆撃するケースはあったようだが)、子供が高級品だった「ランドセル」をしょっている(布製のランドセルとフォローされているが……)など考証に怪しい部分もあって、話の落とし方も強引だ

「梢の呼ぶ声」
最初の章に出てきた雅也と同級生で「マドンナ」扱いされていた宮嶋啓子が主役。1990年代で20代の彼女は青春真っ盛りながら、遠距離恋愛の恋人を千年樹の下で待つ
それに戦前の女郎が若い客と心中しようとする話が重なるが、実際に死んでいた人間が見事に読者の意表を突く

「蝉鳴くや」
1990年代の学級崩壊を経験した中学生教師が巨樹に八つ当たりしてストレス解消する話と、殿に出した食い物が不評で切腹する若侍の話
武士の切腹は君主から命じられる死刑に相当し、職場の上下関係だけで決定するのはかなりの無理筋。この作品、それほど細かくない場所でも考証が甘い(苦笑)

「夜鳴き鳥」
雅也をいじめていた堀井がヤクザとなり、昔の友人だった岸本を生き埋めにしようとする話。それと中世の山賊が殺した女の死体を母親と崇める話と重ねる
全編にいえることだけども、人間にとっての生き死にが、時代ともにいかに軽くなっていったかを教えてくれるオチである

「郭公の巣」
子連れ同士で再婚した家族と、自分の子を捨てに行く小作人の嫁の話
カッコーの話題が出ていたものの、ほのぼのとした現代パートに急転にはびっくり!
どの物語にもいえるけど、生活感ともに昔の童話のような怖さを見せる作家さんだ

「バァバの石段」

死にゆく老婆と恋のマンネリに悩む孫、そして老婆の恋愛体験
珍しく今と昔の登場人物が直結し、それぞれの恋路が情感ゆたかに描かれる。お互いが血縁だから、特に千年樹が絡む必要はないのだが(苦笑)、丸く収まるのでよし

「落枝」
2000年代、公務員になった雅也が巨樹の最期を看取る
正直、最初の「萌芽」に物足りなさを覚えていたが、それもそのはず。この「落枝」とセットでものを言う話なのだ
野武士から恋仲の娘を救う若者と、いじめっ子に立ち向かった中学生の雅也の姿がかぶる
解説では「自然との共生」を特徴にあげられるが、雅也の述懐として語られる「千年も栄養を吸収し続けて巨大化する樹木」に畏怖を覚える態度こそが、作者の本懐だろう
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『城塞』 下巻 司馬遼太郎

先週の真田丸は、普段はオープニングに出るスタッフロールが終了近くに出るという奇策が


城塞 (下巻) (新潮文庫)
司馬 遼太郎
新潮社
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二の丸の堀まで埋め立てて城を丸裸にした家康は、豊臣方へ大坂立ち退きを要求する。拒否すると見越して、豊臣の家系を完全に抹殺するためである。小幡勘兵衛は、お夏が将軍・秀忠のいる江戸へ向かうのを背に、徳川の諜者として豊臣方から引き上げるのだった。敗戦必至の戦いに、真田幸村、毛利勝永、後藤又兵衛といった選りすぐりの武将たちは、ただ家康の首を狙って疾駆する

大坂の陣、最後の戦いが始まる
もはや交渉の余地がない等しい状況でも、徳川家康現状を維持したい大坂の女たちを見透かして、甘い言葉をささやき続ける。夏の陣の直前に大蔵卿たちの弁明を聞いて孫の婚礼の面倒を見させ、幸村が決死の戦闘を始めようとした矢先に和議の使者を送り、組織的な戦闘が終わった後には淀君・秀頼の潜伏先を探るために交渉に応じてみせる。いったい、大阪方は何度騙されたのだろうか
本作における徳川家康は、女ころがしの卑劣漢(笑)。ここまであくどい天下人が描かれたことがあっただろうか(笑)。本当かどうかはさておいて、これが大坂人に語り継がれる古狸・家康なのである
しかし、こうした家康の悪知恵も、秀忠でも治められる泰平の世を作るため
隙あれば大阪方を指揮して天下を狙おうとした小幡勘兵衛が、大人しく家康の陣所への案内役を務めたことに家康はほくそ笑む。こういう能力があって鼻息の荒い人間を諦めさせて、物分りのいい凡人に変えてしまうことこそ、平和の効用なのである
普通なら長い泰平の到来を歓迎すべきところを、苦虫を噛み潰すように描いてしまうのが、江戸時代嫌いの司馬らしい

家康の立ち回りにくらべ、死を決した牢人たちの戦いは清々しい
長曽我部盛親木村重成は、徳川家の先鋒である藤堂高虎の一軍を壊滅に追い込んだ。しかし、救援に来た井伊直孝の軍を相手に木村重成は死に、盛親も敗走する
後藤又兵衛は道明寺の戦いで、一足はやく徳川の先鋒と戦い、伊達政宗の軍と衝突して多勢無勢で戦死。この戦闘で伊達勢は消耗し、幸村最後の戦いに活路をもたらすこととなる
真田幸村毛利勝永は家康の偽装停戦に苦しみつつも、いざ決戦となると数倍する敵の先鋒を蹴散らして、家康本陣へ切り込む
数の上では倍以上である関東方の苦戦は、実戦経験のある優れた将帥が少ないから。関ヶ原のように外様に手柄を立てさせないために譜代中心に動かしたものの、水野勝成のような身代の軽い者に大軍を委ねなくてはならず、本多忠朝のように経験の浅い猪武者をけしかけて先鋒にさせねばならない
家康は死んでも幕府は健在だろうが、その下の天下はより不穏なものとなっただろう。江戸250年の泰平も、紙一重のところで決まったのである

本作は司馬作品なかでもかなりの傑作だと思えるが、ひとつだけ気になったのだが上巻であれだけ存在感を放っていたお夏がただ一行で結末が語られてしまうこと。いざ合戦ともなれば、女たちの出る幕ではないものの、小説としては小幡勘兵衛とのドラマを期待したいところなのだ
司馬の小説だと、意味深に登場した女性がなんとなくフェードアウトすることがけっこうあって、本人が自嘲するように「男性専科の作家」なのかもしれない
解説に山口瞳の司馬評が載っていて、「作家は患者(=どこかに問題のある人間)で、評論家は(患者の弱点を指摘する)医者だと思っていたが、最初から医者である人間が作家になった」「(従来の)小説家の資質とかかわりのない男が、いきなり小説を書いた」解説の大島正によると、司馬の文章は必要以上に読者と会話したがっているらしい。司馬が書ききらない行間の間を、読者がそれぞれに埋めて楽しんでしまうようだ


前巻 『城塞』 中巻

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