『イコン』 下巻 フレデリック・フォーサイス

小説の展開は欧米人の願望?


イコン〈下〉 (角川文庫)イコン〈下〉 (角川文庫)
(1998/09)
フレデリック フォーサイス

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英米情報機関の強い要請を受けて元工作員ジェイスン・モンクは、因縁の地ロシアに足を踏み入れた。イゴール・コマロフの大統領就任を阻止すべく、チェチェン・マフィア、ギリシャ正教総主教、旧ソ連の老将軍、モスクワ市警の責任者、マスメディアの実力者と接触し、反コマロフの運動を展開した。モンクの動きはいち早く察知した宿敵グリシンは、必殺の罠をめぐらす

いやあ、最後まで非常にスリリングで面白かった
単にイゴール・コマロフを暗殺しても解決にならないことがミソで、下手に殉教者にして禍根を残すより、その存在を政治的に抹殺しなければならない
そのハードルの高さを、コマロフの政治的主張が極端であることを突いて、抑圧されるであろうマイノリティや諸勢力を連帯させることで克服し、最後は相手からミスを誘うことで目的を達成する
なんといっても、謀略のレベルが高い。まるで、『天』の東西麻雀戦のような攻防が見られる
敵味方とも優秀で紙一重のところで、モンクたちは死線を潜り抜けていき、その紙一重のなかに、実はしたたかな計画が隠されていて、エピローグで二度びっくりというたまらん展開なのだ
相手が優秀なエリート防諜責任者で、かつ何千という親衛隊と数万のシンパがいるというスケールの大きさも、主人公側の有能さと上手くかみ合うバランスとなっている
フォーサイスの小説は現実的な枠組みに制約され、ものによってはノウハウ本になってしまうものもあるが、本作にあっては舞台が近未来のロシアということもあり、小説的なサービスに満ちていて読者を飽きさせない。最後はハリウッドばりの一騎打ちなんだぜ!
フォーサイスが絶筆を宣言しての作品だけあって、エンターテイメントしても傑作だった

あとがきでなぜ、作品のような近未来が予測されたかが分かった
フォーサイスの執筆時点では、エリツィン大統領は心臓に疾患を抱えていて、選挙にも出馬できないとされていたのだ。現実には病をおして出馬し、わずかな差で共産党のジュガーノフを退けるが、その後も病気を抱えながら難しい政権運営を続けていた
エリツィンの死でロシアが混迷を深めるという筋書きにはリアリティがあったのだ
今から冷静に考えると、ロシアの公安警察はソ連時代ほどではないにしろ健在で、コマロフのような集団にはしっかり内偵が入っていることだろう(そもそも、その母体である自由民主党は、与党が共産党対策で泡沫政党を作った話もある)
イゴール・コマロフの主張は、ユダヤ人、少数民族の抹殺など、英米による工作を正当化できるかのように設定されているが、果たしてロシアにこのような試みがあったろうか

モデルとはいわないが、佐藤優の『甦るロシア帝国』にはファシズムを模索する人物が登場した。「黒い大佐」「現代のファシスト」とまで言われるビクトル・アルクスニス空軍予備役大佐である
この人は共産主義でない形でソ連を作りたいらしく、新しくロシア人という概念を生成したがっていた
クリミアを編入したプーチン政権ともユーラシア主義の帝国という点で価値観が共有されているようだ
KGB出身でソ連の再評価を口にするプーチンには、ジャーナリストへの弾圧や同性愛者への締めつけなど小説のコマロフと重なる部分もある
小説では国には必ず象徴、“イコン”がいるといい、王政復古と立憲主義の導入というイギリスの政治体制を輸出しようとしていたが、コマロフよりはるかに手強い人物がイコンになってしまったようだ


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