『落日燃ゆ』 城山三郎

広田弘毅の、学生の身で満州偵察という経歴は、『天の血脈』の主人公みたい
安積は長野出身だけど、リアルにありえる話だったわけですよ

落日燃ゆ (新潮文庫)落日燃ゆ (新潮文庫)
(1986/11/27)
城山 三郎

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東京裁判で絞首刑を宣告されたA級戦犯のうち、ただ一人の文官だった広田弘毅。彼は福岡の石工の息子として生まれたが、玄洋社の頭山満を通じて外相・小村寿太郎の腹心、山座円次郎の知遇を得て、外交官としての道を駆け上がる。2.26事件の際に収拾のために総理大臣に就任し、外相にも二度就任し、対ソ連外交、日中戦争の和平工作に奔走した。その彼はなぜ裁判に対し一切の弁解を拒否し、判決を従容と受け入れたのか。激動の時代ともに彼の生涯を描く

東京裁判の不当性を分かりやすく示しているのが、広田弘毅の処刑だろう
小説で描かれる広田弘毅は「自ら計ろうことなく」をモットーに、実直な仕事を続けることで外交畑を歩み、戦争防止と和平工作に努めていく
その彼が戦犯として引き出された理由は、首相時代に後の三国同盟に発展する日独防共協定を調印したこと、外相時代に日中戦争が始まり南京事件を防げなかったこと
しかし、防共協定は当初、陸軍を納得させるだけの薄い協定であったし、日中戦争においては開戦から停戦に向けて奔走していて、彼の活動は米英ソの外交官にも評価が高かった
それでもなおかつ、彼が処刑台に登ったのは、戦争が「共同謀議」であるというシナリオがあって、黒竜会の前身である(と誤解された)玄洋社の世話になったことから「軍国主義の追随者」というレッテルが貼られ、近衛文麿や松岡洋佑が死亡して白羽の矢が立ったためだった
そして、広田自身がそれに対して「自ら計ろうことなく」あえて弁解しない。本作からは、罪の擦り合いになる裁判で誰かに十字架を背負わせたくないし、外交官として戦争が防げなかった責任を取るという男の背中が見える
軍部の責任を明らかにするという視点から正しいかは難しいが、平民出とみなされながら公式の場で死をもって責を負う姿勢は、ノブレス・オブ・リージュを体現しているように思えた

広田と好対照の人生を送るのが、外務省同期の吉田茂
吉田は元老・牧野伸顕の娘婿として早くから表舞台を出ており、奉天総領事時代には軍部の出先を大事にする張作霖に対し、外務省ルートで圧力をかけて関東軍を鼻白ませている
後年の吉田からすると意外なエピソードだが、満蒙は日本の生命線と大陸進出を後押しする立場であり、対中外交に軍部の出先が先行する事態が許せなかったのだ
吉田と広田は折り合いが悪く、広田が日中戦争の停戦にイギリスを抱き込もうとしても、駐英大使の吉田は動かなかったという(動いても無駄という認識もあったようだが)
「自ら計る」吉田は、対米戦になるや戦争回避に乗り出し、近衛文麿を巻き込んだ終戦工作で憲兵隊に拘置された。作中の広田は拘置された吉田に、「彼は勲章をもらった」と評する
憲兵隊に捕まったことで軍部に敵対するイメージがつき、終戦直後に外務省の大先輩、幣原喜重郎に接近してついに外務大臣のポストを手にした
GHQ統治を受ける状況において、外務大臣は強大な権力を誇り、首相になっても吉田は外務大臣を兼任し続けた
軍部に泣かされ続けた外務省が、戦後の政治を牛耳るさまを広田はどう思っただろうか

東京裁判史観の亡霊うんぬんと、ネットでは批判が止まないが、本作で分かるのは当初からそうした批判は出揃っていたということである
よく引用されるパール判事のみならず、戦犯の弁護人たちは

<日本はドイツと異なり、無条件降伏ではなく、ポツダム宣言受諾という条件つき降伏である。同宣言に戦争犯罪人の処罰という項目があるが、同宣言の出た時点での戦争犯罪人とは、捕虜虐待など戦争法規違反者をさすのが通念であった。それを無条件降伏したドイツなみに、平和や人道に対する罪まで含めるのは、不合理である>
<ポツダム宣言は、太平洋戦争の終了宣言であるのに、満州事変などにまでさかのぼって罪を追及するのは、おかしい>

(略)
<勝者が原告となり、同時に判事となることは不適当である>
<真珠湾攻撃を戦争でなく殺人とするなら、広島や長崎への原爆投下もまた殺人ではないのか>
(p366)


と、極東軍事裁判の性格を問う動議が次々と出していたのだ。それに対して裁判長は「すべての動議を却下する。その理由は将来、宣告すると強引に黙らせた。そこで政治裁判であると宣言がなされたのだ
広田の「自ら計ろうことなき」生き方は、「外交官は自分の行ったことで後の人に判断してもらう。弁解めいたことはしないものだ」という山座円次郎の訓示から来ている
歴史から何を学ぶかは、後の人であるところの我々に託されている
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