『心臓を貫かれて』 マイケル・ギルモア 訳/村上春樹

ははっ、ゲイリー

心臓を貫かれて〈上〉 (文春文庫)心臓を貫かれて〈上〉 (文春文庫)
(1999/10)
マイケル ギルモア

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心臓を貫かれて〈下〉 (文春文庫)心臓を貫かれて〈下〉 (文春文庫)
(1999/10)
マイケル ギルモア

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アメリカで死刑を復活させた殺人犯、ゲイリー・ギルモア。彼はなぜ、罪のない人を殺し、自らに死刑を求めたのか。ゲイリーの実弟である著者が、両親の出自から家族の歴史をたどり、アメリカに漂う呪いの連鎖を描く
ゲイリー・ギルモア1977年1月にユタ州で死刑執行された犯罪者。当時のアメリカでは死刑制度が復活したものの、執行されないまま廃止運動が高まっていた。彼は自ら死刑を求めることで、死刑廃止の流れを一変させた
本書はその末弟であるマイケル・ギルモアがゲイリーのみならず、自らを含めた一家の歴史を追いかけたもので、そのなかには自身が見た悪夢までも赤裸々に書かれるようにノンフィクションの域に留まらない。いわば呪いの渦中にいた者としての証言であり、その起源と運命を探る文学作品なのだ
著者はいまなお呪いを背負っており、客観性はないかもしれないが、村上春樹があとがきに語るように時代を超えて訴える力を持っている

ゲイリーはなぜ殺人犯になったのか。本書ではひとつの要因に断定せず、さまざまな負の成分が流れ込む様子を描く
母ベッシーモルモン教徒の家に生まれ、その堅苦しさに耐えかねて街へ出て、父フランク・ギルモアと知り合う
父フランクは、詐欺を繰り返す知能犯であり、幾つもの偽名と女性遍歴を持っていた。フランクの母フェイは霊媒師で、父は地方を回る有名な手品師だったというが、その所在ははっきりしなかった
フランクは父を知らぬ根無し草としてその日暮らしで生きつづけ、ベッシーは実家の一族からも距離を置いて、その家庭は地域から孤立していた
著者の兄、ゲイリーゲイレンは悪さをしては父の常軌を逸した折檻を受け、さらに世間で悪行に走るようになる。まるで父への当てつけのように
禁欲で排他的なアメリカの風土は兄弟に容赦しなかった
長兄のフランク・ジュニアは、“エホバの証人”に改宗し家族と距離を置いたものの、その教えからベトナム戦争に対し良心的兵役拒否を行い刑務所に収監された
ゲイレンは、凶悪な犯罪には走らないものの、酒と女性に溺れやがて街で誰かに刺され、それが原因で内臓に穴が開いて死んでしまう
そして、ゲイリーは何度も刑務所に入るうちに、刑務所全体に目をつけられ、遂には人格を破壊するような鎮静剤を打ち込まれた。結果、ゲイリーは36年の生涯のうち、22年間を刑務所で送ることになる
それは確かにゲイリーの撒いた種であったが、その報いのすべては殺人へ駆り立てるものだった

著者の家族は自分の家で暮らすうちに、屋根裏に何か悪いものがいると妄想する
それは家族に取り付く悪霊で、そのために自分たちに不幸が襲い掛かると信じた
悪霊がまとわりつくのは家ではなく家族自身で、著者はロック・ミュージックへ亡命することで負の連鎖から逃れる
屋根裏に正体の分からぬ悪しき者がいるという感じ方は、クトゥルーやスティーヴン・キングなどアメリカン・ホラーに共通する。自らの歴史と接続されていない怪異は、旧大陸からの征服者の国という、アメリカの建国に由来するのだろう
本書の終盤でゲイリーに息子がいたことが分かり、彼は兄フランク・ジュニアの前に現れて怒りをぶつけたという。訳者あとがきにあるように、心の傷は深くなると回復困難で、それは家族へ、他人へ連鎖していくのだ
この根無し草一家の物語は、アメリカナイズされた日本に無縁の話ではない


死刑執行人の歌〈上〉―殺人者ゲイリー・ギルモアの物語死刑執行人の歌〈上〉―殺人者ゲイリー・ギルモアの物語
(1997/12)
ノーマン・メイラー、岡枝 慎二 他

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