『男子の本懐』 城山三郎

真っ直ぐすぎた男たち

男子の本懐男子の本懐
(2013/04/01)
城山三郎

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昭和四年七月、張作霖暗殺を天皇に叱責されて田中義一内閣が倒れた。その後を受けた浜口雄幸は、金解禁を信念とする井上準之助を大蔵大臣に起用し、日本国家の体質改善のために金解禁と緊縮財政を断行する。「途中、何事か起こって中道に斃れるようなことがあっても、もとより男子として本懐である」。国中の反対を覚悟し、身命を賭して邁進した二人を追う

ライオン宰相と仇名された浜口雄幸井上準之助を生涯を描いた小説
冒頭に急転直下に下された大命と組閣をダイナミックに描き、中盤は浜口、井上の半生を立志伝的に振り返って、後半は情勢を冷静に観察しつつ両者の最期までという三段構えの構成だ
浜口、井上自身のエピソードを取り上げるときは寄り添うように、経済政策とその効果を描くさいには冷静に事実を踏まえると、文体をテーマに沿って巧みに変えている
作者が主人公たちに惚れこむと同時に、それが世の中に通用したか、冷徹に見据える姿勢もあって、経済小説の大家としての実力、バランス感覚を感じた
井上の政策は世界恐慌と金本位制の崩壊という歴史的変動の前に逆効果だったが、愚直すぎる男たちの生き様は熱い

浜口雄幸「男子の本懐」という名文句を残すが、けっして男らしく育てられなかった
“おさち”という名前は、両親が「男続きなので次は女子がいい」と先に名前が決まっていてそのままつけられたという(wikiには、親父が酔って“幸雄”が逆につけられた説が載っている)
その影響か、浜口は笑うとき、見かけはライオンなのに「フォフォフォ」と女性のような高い声だったという
対する井上準之助は溌剌な才子で、曲げない性格から日銀行内で衝突を繰り返しつつも出世し、後のライバルとなる高橋是清に引き立てられる形で日銀総裁となり、ともに昭和恐慌の収束にあたった
日本にゴルフを普及した功労者であるとともに、モリソン・コレクションなど散逸するアジアの書物をまとめるため三菱財閥・岩崎久弥と汲んで、東洋文庫を設立し初代理事長を務めている
二人とも妥協しないことは共通していて、それが後の悲劇につながる。作者は「妥協しない、根回ししないにも程がある」と軽く咎めつつも、身命を賭した彼らを暖かく描く

緊縮財政、根回しなしの政治手法で、よく比較されたのは小泉純一郎。たてがみのような髪型で「郵政民営化を死ぬ気でやる」と口にしたのは、浜口雄幸を意識した可能性がある
というのも、小泉家と浜口雄幸に浅からぬ縁があり、浜口内閣で祖父の小泉又次郎が逓信大臣を務めていたのだ
小泉又二郎は刺青をいれた(!)義侠心ある庶民派政治家と人気があり、浜口の入閣要請にも「野人に名誉はいらぬ」と当初は断っていた
ちなみに逓信省は、交通・通信を幅広く所管する省庁で、その中には郵便事業も含まれていて貯金局と簡易保険局も設けられていた
なにか、出来すぎた話である


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