『オデッサ・ファイル』 フレデリック・フォーサイス

こんな主人公で大丈夫か

オデッサ・ファイル (角川文庫)オデッサ・ファイル (角川文庫)
(1980/05)
フレデリック・フォーサイス

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ハンブルクの片隅で一人の老人が自殺した。普段はゴシップを追うルポライター、ペーター・ミラーは、老人の手帳からリガの悲劇と、今もぬくぬくと生きるSS達の存在を知る。ナチス親衛隊は保身のための組織オデッサを作り、戦後の追及を逃れ確固たる地位を築いてたのだった。ユダヤ人組織の力を借りつつ、ミラーは“リガの殺人鬼”を追う

ナチス親衛隊=SSが戦犯を逃れるための秘密組織を題材にした小説である
海外小説、ポリティカルフィクションにありがちな、極端に登場人物との距離を取った三人称で、日本人好みの感情移入はしにくい
ストーリー展開もオデッサに潜入するまでは緊張感があるものの、後半のミラーとオデッサとの攻防は喜劇の様相を帯びていて、種明かしは分かっても肩透かしされた感はぬぐえなかった
これは作家の特徴で、あくまでノンフィクションに近い、ほぼ“本当くさい話”に抑えるため、ミラーの活躍を極めて現実の領域に留めざるえず、その隙間を暗殺者の不運で埋めざる得なかったからだろう
真の主役はオデッサとしても、ミラーは狂言回しを務めるにもリキが足りず、ポリティカル・フィクションの主人公は有能でなければどこかに無理が生じると再確認できた(苦笑)
しかし、殺し屋がターゲットを仕留めるときにどう考える、何で仕留めるとか、具体的な手順が細かく描かれていて、その手の薀蓄には唸らされる

作品はJ・F・Kが暗殺された1963年から始まり、第3次中東戦争前のエジプトとイスラエルの血なまぐさい暗闘が絡んでくる
エジプトのナセル政権は、英米の支援を受けるイスラエルに対抗すべく、元ドイツの科学者を集め巡航ミサイルの配備を進めていた。そのドイツの科学者を斡旋するのがSSの支援組織オデッサで、反ユダヤ主義を実現すべく便宜を図っていた
エジプトにはパレスチナの処置、アラブ主義の立場から、ナチスにシンパシーを持つ者が多かったのだ
イスラエルは西ドイツに抗議したいものの、同国から優れた兵器を輸入して中東戦争に備えている面もあり、西ドイツをイスラエル支援に向かわせていたケネディが死んだ今、正面からの関係悪化は避けたい
そこでモサドはオデッサの支援者を締め上げ、エジプトのミサイル開発を断念させる工作に出て、オデッサを追うミラーが紛れ込むというのが、小説の筋書きだ
そのミサイル開発に主人公が追うエドゥアルト・ロシュマンが絡んだかは不明だが、ロシュマン自体は実在したリガの収容所所長
南米に逃亡して、1977年にパラグアイで死亡が確認されていたが、死体には足の指に欠損が見られ「フォーサイスの小説にある凍傷の事実は本当だった」と証明されたという
どこまでが本当で、どこまでが創作か。現実に起こった(起きていた)としてもおかしくない可能性が、小説に示されている

自殺したユダヤの老人は、「ドイツ人全体が責任を負うことはない。しかし、一部には許されざる者がいる」と遺した日誌で語る
戦後を生きるミラーは、ここから過去を清算する責任を感じ行動する
西ドイツでは、ナチス時代の過去を国民全体で背負う風潮があり、それ故にナチス親衛隊の罪は比較的軽くみなされていた(ちなみに東ドイツでは、マルキシズムの史観で、支配階級に責任を負わせた)
そのため“オデッサ”による元親衛隊の復権は進んで、作中ではハンブルクの警察に多くのSSが入り込む事態が描かれた。追い詰められたロシュマンは、SSの行いを正当化する言説を論じてるのだった
それに対するミラーの返答はヨーロッパの読者の溜飲を下げるところで、「国民を捨てて逃げたSSに戦後の興隆を自画自賛する資格はなく、国のために戦ったドイツ人とSSとは違うんだよ」という主張は、若い世代のドイツ人にも勇気を与えたことだろう
日本の場合は、ナチスのような絶対悪を見つけられないのが複雑で、原爆を落とした国に裁かれるという屈折もある。内外で違うポーズを取り続けるしかないのだろうか


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