『「ケータイ・ネット人間」の精神分析』 小此木啓吾

サル呼ばわりする本とはものが違う

「ケータイ・ネット人間」の精神分析 (朝日文庫)「ケータイ・ネット人間」の精神分析 (朝日文庫)
(2005/01)
小此木 啓吾

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携帯とインターネットがモラトリアム社会にどのような影響を及ぼしているのか。「モラトリアム人間論」を唱えた著者が、情報化する日本社会に斬り込んだ最晩年の著作
初出が2000年と、iモードの登場を背景にネットが日常化したことで人間がどう変わるかを分析している
携帯の普及・発達と現代青年の気質を論じた物は数あれど、本書は一味違う
「ケータイ・ネット人間」とは、若い世代のみならず全世代を覆う類型であり、著者すら例外ではない。会議中に日本リーズを観戦し松中のホームランに驚きの声を上げてしまったという赤裸々な告白もなされる(笑)
母型社会である日本では、ネットやゲームは母を代行する役割を果たし「引きこもり」につながる
そして、この「引きこもり」は社会問題としての分かりやすい事例に留まらず、自分の世界に閉じこもる「内面的なひきこもりも含まれる。自らの欲望を処理するのに相手を必要としない環境は、老若男女が直面していることなのだ
「モラトリアム人間の時代」の著者にして、現実のモラトリアム社会に幻滅したのか、フロイトを引用した“新しい父性の再建”に留まり、「プロメテウス的人間」「阿闍世コンプレックス」に触れないのが少し寂しいが、スマートフォンの登場で加速する情報化社会への正しい警句である

ネットやゲームで生まれる人間関係の特徴として、「一・五」の関係を上げる
「二・0」の関係=対話でもなく、かといって「一・0」の自閉的空想の世界でもないのがミソで、「一・0」の人間と「0・五」の物を足して「一・五」の関係である
「0・五」のゲームやサイトは、擬人的な役割を果たし人間のアクションに対して、刺激的なリアクションをとってくる。半ば人間のような遊び相手になり、夢中にさせる
優良なゲームはなまじ開発者の執念を伝える作品にもなってしまうから、罪なほど毒性が強いものだ
そしてこの「一・五」の関係は、実は人間のもつ本性の一つでもあり、子どもの人形遊びに始まり、芸術、ドラマ、遊び、旅などエンターテイメントの基本的な心理でもあった
しかし、情報化社会では「一・五」の領域が拡大し、心の中だけのイメージも画像として楽しめるようになった。「一・五」の関わりが精神生活の全体を覆うようになってしまう
そのために、「二・0」のサシの会話、「三・0」の、第三者にいる社会道徳を問われる関係にも、「一・五」の論理が食い込み、希薄化してしまった
こうしたことは第三者に自らの考えを晒しているはずのブログやツイッターの現状を見れば、痛いほど的を射ている
そして現実社会においても、スイッチのオンオフのように人間関係を切る、配慮の欠けた「一・五」の論理が蔓延し、孤独なのに孤独に思えない「引きこもり」を生んでいると本書は警告する

社会全体が「ひきこもり」になるのはなぜだろう?
「一・五」の関係はスイッチをオフすれば切れるから、ほんらい脱出することはたやすい
しかし、今では「一・五」の関係が産業化しているから、社会そのものが誘導し囲い込んで、「引きこもり」を生みやすい
そして、積極的に社会参加させる理想像を見出せないことが大きい
豊かな社会が建設されたことで、自身の思想・信念と一体化するイデオロギー型人間、組織の一体化してその繁栄を自らの喜びとする会社人間も意味を失った。本書も思想や組織にアイデンティティを見出す人間には、究極的にはその人の自己愛が搾取され、組織に使い捨てられる存在とする
それに変わる基準が個人の自己愛となり、それでもなおかつ生きがいを見出すには何かの“マニアになるしかない
かつてなら天下国家に身を捧げる人間が今では“マニア”として存在し、ジョージ・ソロスやビル・ゲイツなど一攫千金の事業家、ミュージシャン、スポーツマンなど自らの欲望を満たすことで英雄となる
著者はこうした自己愛人間=マニアは自らのルーツ、歴史性を喪っていて、脆い家族しか築けないから、母子関係に新風を吹き込む“新しい父親像”を処方箋として掲げる
“マニア”がいかにして“父”となるか。胸にズシンとくる課題である


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