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『時計仕掛けのオレンジ』 アントニイ・バージェス

言わずとしれたキューブリック作品の原作。アメリカで出版された際には、作者の許可なしに削除され、映画でも扱われなかった最終章が載った完全版だ

時計じかけのオレンジ 完全版 (ハヤカワepi文庫 ハ 1-1) (ハヤカワepi文庫)時計じかけのオレンジ 完全版 (ハヤカワepi文庫 ハ 1-1) (ハヤカワepi文庫)
(2008/09/05)
アントニイ・バージェス

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読んでみると、主人公の不良少年の主観で書かれているためか、謎の若者言葉が混じっていて読みづらい。パッとわかるのは“ハラショー”ぐらいだ。一応ルビで意味は分かるのだが・・・。いわば、それだけ主人公が大人と心通わない言語空間を生きていることが反映されているわけで、演出的には成功しているのだろう
映画と一緒で、彼の気分の多くはとても共感しがたく、不愉快。とはいえ、そう感じるのも自分の子供時分の“痛さ”と少しでも被るからかもしれない
筋としてはほぼ映画と同じ。人類が月で住む近未来という設定ながら、テクノロジーが余り発達していないというのも同じだ。いわば、SFという体裁で社会問題を扱っているスタンス(もともとのSFはそういうもんだが)
ただ、全体の調子としては完全に主人公の主観で進んでいくので、展開は軽快。映画の演出がトリッキーなのはキューブリックのオリジナルだったようだ

アメリカで物議をかもした最終章は、少年が悪友の恋愛を知り、不良を辞めることを決意する大事な部分
ここで作者は主人公に少年の非行問題は永久になくなることはないし、自分も息子の犯罪は完全に止められないと語らせる。どうもこの身も蓋もない正論が、アメリカの出版社を敏感にさせてしまったようだ。今から考えると信じられないが、それだけ当時のアメリカで少年非行の問題が取り上げられていたということだろう
少年の不良時代からの卒業を描いている、とてもいいラストなんだけどねぇ

*2012’08/29 追記

オレンジ→腐ったみかんのつながりで思い出した
アメリカに不良をみかんに喩えるスラングでもあるのかな



関連記事 【DVD】『時計仕掛けのオレンジ』

コメント

No title
>少年の非行問題は永久になくなることはないし、自分も息子の犯罪は完全に止められない

最終章は主人公の心変わりの点はよく語られるのに、なぜかその点については余り語られませんね……
とりあえず三島由紀夫も「おわりの美学『学校のおわり』」「不道徳教育講座『教師を内心バカにすべし』」「東大を動物園にしろ」あたりで
なんか似た様な事を言っていたのでひとつ。気づいた者と気づかない者、市民と青年――これは永遠の二律背反だね。
Re: No title
コメントありがとうございます

主人公の心変わりに関しては、親友に恋人ができて少年倶楽部的なムードが壊れたせいでしょうか。本来ならその部分も重要なテーマになりそうですが、あっさり終わってましたねえ

三島については、つまみ食いにしか読んでないので分からないんですが、青年が未熟で無軌道なのは、いつの世にも見られること
社会に馴染んでない分、既成の概念に囚われない魅力もあります
最近、配信で三島と東大全共闘の討論会のドキュメントを見たのですが、思想はともかく若者に対する接し方、余裕は見習いたいところです

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