『モラトリアム人間の時代』 小此木啓吾

心理学者は信用しないが、この人は別

モラトリアム人間の時代 (中公文庫)モラトリアム人間の時代 (中公文庫)
(2010/04/25)
小此木 啓吾

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現代を特徴づけるのは、「モラトリアム」である。かつては青年期固有ものだった「モラトリアム」が全年代に拡大し社会を覆っているとして、その社会状況でいかに生きるべきかと問う
いや、すごい本があったものだ
本書は1977年の高度成長期が初出でで、著者は日本におけるフロイト研究の第一人者
しかしそれでありながら、従来は青年期の特徴、特権と想定されていた「モラトリアム」を、人間の特徴として積極的に評価し、大人の「モラトリアム」をも短絡的に否定しない
モラトリアム」とは社会に出て一人前の大人になるのを猶予された状態をいい、文脈によっては「ゆとり」と置き換えてもいいだろう
安直なサブカル批評、オタク批判では、大人になれない「モラトリアム」が石を投げられるパターンが多く、それを嫌って開き直り「考えない大人になるより、子どもでいい」などという応答が繰り返されるが、本書にはそれを超える視点がある
多くの動物のなかで人間だけが「待てる」。モラトリアムは人間の特質なのである

なぜ「モラトリアム」が積極的に評価されるべきなのか
ひとつには社会変化が激しく、立場や状況に応じて自分を変えていかなくてはならないこと固有の目標に向かって生きていても、途中でそれが通用しなくなり、路線変更を余儀なくされる
そうしたときに一度築いた考え方に囚われると、精神も腐り転落の道を歩むことになる
こうした状況変化を乗り切る鍵が、今を仮の姿と考える「モラトリアム」の精神であり、今を生きつつ次の姿を想像していくためにはある種の余裕が必要なのである
著者が強調するのは、(高度成長期でも)普通の人生を送ったとしても、「モラトリアム化」は避けられないということだ
出世街道を臨んでも多くの人間はどこかで行き詰まり、職場ではロートルとなり窓際に追い込まれる。今風に言えば、課長になれるのは三割というわけだ
だからたとえ会社の要求に答え自分を創っても、たいがいの人は中年で干され、退社後は年金生活という長い「モラトリアム」にたどりつく
そうなったときに「モラトリアム」を上手く使える発想がなければ、創り上げた自分と現在の状況のギャップに苦しんでしまう
こうしたモラトリアム時代を生きる理想像として、ロバート・J・リフトンが名づけた「プロメテウス的人間」を掲げ、あくまで今を一時的・暫定的なものと見て、変わって行く状況や仕事に対応し変身しつつ、「常により新たな自己実現の可能性を残す」存在とする
かつての心理学ではアイデンティティの拡散は否定的なものとして見られたが、社会の変化に適応した新しい大人像なのだ

本書は全編に渡って深すぎるので、この記事だけで魅力を伝えきることはできない
モラトリアムの積極評価とともに、モラトリアムを軸にした国家論、社会論も展開されていて、60~70年代の学生運動を脱モラトリアム運動徴兵制などの右翼的主張を反モラトリアム運動と規定する。前者はモラトリアムからの脱皮にこだわり、後者はモラトリアム化する社会への「モラトリアムなし世代」の抵抗だとする
心理学をそのまま政治に転用するのは無茶に思えるが、それぞれの情緒からの分析においては正鵠を射ている。現代においても、戦争を潜り抜けた焼け跡世代&会社人間を生きざる得なかった団塊世代と、団塊ジュニア&「ゆとり世代」と、内ゲバ含めた「モラトリアムなし世代」と「モラトリアム世代」との不毛な対立が続いている
モラトリアムを称揚とすると同時に、「モラトリアム社会」への警告もシビアで、アイデンティティの分裂(公私混同)を許さない表の「マスコミ社会」と曖昧に動く「モラトリアム化した実社会」の対立モラトリアムゆえの無責任の言論言論の自由とプライバシーが対立し政治・行政側に利用される事態などの想定は、不幸なことに現実化している
こうした議論が1977年において展開されていることが驚きで、ポストモダンだなんだという批評が色あせて見えてしまった。サブカル論壇がいまいち突き抜けないのも、80年代以前の成果を上手く引き継げていないからではないだろうか
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