『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』 村上春樹

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
(2013/04/12)
村上 春樹

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多崎つくるは、自分を色彩を持たない人間だと思っていた。16年前、彼は高校時代の親友だった四人から突然、事情も分からず絶交された。初めての孤独とどん底に陥り、そこからまったく違う人間に生まれ変わり生きてきた。しかし36歳になったつくるは、年上の恋人・沙羅から何があったのか、四人に会って確かめるべきだと言われる。つくるの巡礼の旅が始まった

入りにくい小説だった
36歳になった人間が16年前の絶交にこだわる。それでいて、彼は普通に就職して年上の恋人がいて、実は親友のなかで一番ハンサムだったとか判明するのである
最初の出だしからは、こういう人が就職氷河期を生き抜いて、外目にはいい人生が送れていることに違和感があった
ちょっとヘタレな人でもそれなりの人生が送れる。これは80年代のリアリティではないだろうか
もちろん獣道を生きる管理人の僻みも入っているが(苦笑)、この設定に受け入れられる人は限られるだろう。アニメファンが『耳を澄ませば』に疎外感を感じるように
こういった精神的ショックから立ち直れず、非正規人生を送る人も多いわけで、絶望に陥った大学時代でまっとうしてくれれば、よりスリリングだったと思う
読み通してみると面白かったので、作品のフレームが惜しい

大学時代の回想が気に入っている。絶交される前とされた後の“友達”関係の変化が上手く表現されているのだ
高校時代の親友たちとは終わりのない青春そのもので、それぞれが役割を負ったチームだった。男女関係もそこでは表面化せず、チームを破綻させないように心がけていた
しかし、絶交後の唯一の友人だった灰田とは、何でも会話を交わす間柄ながら、お互いを拘束する存在ではなく、それぞれが違う方向を進みどこかで別れることが予定されている
実際、灰田はちゃんとした挨拶もなく、どこかへ消えてしまう
それでも、つくるはそれに対して拘泥せず、ある種の納得をもって彼を見送る
それは同じ場所に居続ける子どもから社会にうつろう大人の関係への変化であり、孤独を抱えつつもつくるは少年から大人になった
この変化は多くの人が経験することだろう
つくるは五人のチームの中から、唯一東京の大学に進学した。同じ時を同じ場所で過ごすことで仲間意識を作る日本人にとって、違う場所へ抜け出したことは“友達”関係から離脱する契機になる
その常識的なことを主題に持ってくるのは、日本人離れしているというか、変わった感覚だと思う。ハルキ作品に共通する土着性のなさに由来するのだろう

つくるは四人が追い出した事情、その後の四人の辿った道を知ることで孤独の残滓を解消する
そこには一方通行の恋愛感情や、いつか来るチーム解消への恐れが隠されていて、シロを襲った悲劇を共有することで、チームというより人間としての絆を取り戻す
しかし、それで万事上手く行くわけではない
フィンランドで友人から「ちいさい小人(=リトル・ピープル)」への警告を受けたが、つくるは身に隠された嫉妬にさいなまれ、新しい課題を抱える。山を越えたら、また違う山に出くわすのがリアルな人生というわけだ
総括すると、つくるの旅は沙羅という分かった女性の後押しが強く、締めもクロ(ユズ)に励まされ支えられたものだった。ハルキ作品は物分りのいい女性に慰めてもらうことが多く、今回もその例に漏れない
女性からの受ける好意も主人公に集中してハーレム状態であり、ラノベと比較する評論が出るのも分かる話だ(笑)
果たしてここまで女性に頼って負担をかけていいのか。男性のマッチョを忌避しすぎて、結局は女性の犠牲に強いている『1Q84』も実際に父を殺したのはヒロインだった)
ラストの急転も空白を埋めようとする切迫感を当然のものとして描いているようで、違和感があった。翻訳調の文体が嘘を悪とするキリスト教の道徳を引き出してしまったのだろうか
男の器の小ささが目だって、自虐・過小評価を謙虚と勘違いする病気が治らないのが残念で、作者の男というものに対する諦観を感じた


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村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』をどう読むか村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』をどう読むか
(2013/06/22)
河出書房新社編集部

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