『項羽と劉邦』 下巻 司馬遼太郎

ラオウ=項羽説を唱えたい

項羽と劉邦〈下〉 (新潮文庫)項羽と劉邦〈下〉 (新潮文庫)
(1984/09/27)
司馬 遼太郎

商品詳細を見る


項羽と劉邦の戦いは中原を巡る激戦となった。滎陽に篭る劉邦は韓信に別働隊を指揮させ、項羽につく魏、趙を討伐、さらに自立していた斉へと向かわせる。楚の地さえ劉邦方に落とされた項羽は、劉邦との講和に応じ、虞美人を連れて彭城へ帰路についた。張良はこれを千載一遇の好機として違約し、全軍をもって追撃する

項羽の最期をもって物語は幕となった
楚軍にとって致命傷だったのは、兵站を絶えず脅かされ続けたことで、最後は自壊する形で数十万の大軍が崩壊した
流民に飯を配ることが政治であり、兵に飯を配ることが軍事の要諦である。名宰相・蕭何が仕切る関中から兵と糧秣が絶えず送られた劉邦は「無限の賭け金を与えられた賭博師に等しかった」
豊穣な関中から天下を制したことは、秦の中国統一を反復なわけであり、漢が秦の後継者であることを物語っている
ひるがえって、驚くべきは疲弊しながら、何度と劉邦を死地に追い込んだ項羽のカリスマ性で、普通の英雄なら兵を飢えさせたところで即アウト、部下に首を取られるのがオチであり、後世からもありえない存在である
楚は言語が南方系、しかもタイに近いぐらいでは言われ、長江以南の人間がここまで中原を脅かすことはなかったという
項羽は歴史上初めて北伐をなしとげた南方系の英雄といえ、虞美人のエピソードといいラオウのモデルではないかと妄想したくなる(笑)
三国志時代の呉、遼や金に対抗した宋などは守成型の王朝であり、項羽の戦いとその結末が後の南方政権の在り方を決定づけたというのは言いすぎだろうか

下巻の隠れ主人公ともいえるのが、韓信である
韓信は劉邦の命で魏、趙、代と平定し、一時は軍勢の大半を奪われたものの、酈食其による斉との和睦に乗じて侵攻し、70余城をたちまち下してしまった
項羽と命を削りあうような対峙を続ける劉邦に、斉王の地位を要求し第三勢力として自立の構えを見せた
裏から糸を引いたのが策士・蒯通であり、乱世が終わっては立身出世が及ばなくなると、朴念仁の韓信をあの手この手で誘導し、天下を狙わせた
蒯通からすると、配下の分を過ぎた韓信の立場は平時では危険であり、成り上がりたい自分と一蓮托生で組めるはずだった
しかし、韓信は劉邦に引き立てられたという“士”としての義理を言い立て、後に粛清されることとなった
作中の韓信は軍事のテクノラートであり、戦争の観点からしか政治を見ることができなかった。文官支配を基とする中華王朝最初の犠牲者といえるだろう

読んでいて改めて感じたのは、中国史のなかで漢王朝が占める大きさである
端的に言うと、三国志の人物たちは漢創成期の英雄に喩えられるし(曹操の常套手段)、諸葛亮の北伐、巴蜀・漢中→関中(長安)→中原の構想など劉邦の前例が後押しになったに違いない(下手すりゃ、大長征もか)
後漢末期~三国志時代の人びとにとっての秦末・楚漢戦争は、平成の世における近代史のようなものであり、秦末の人にとって、春秋・戦国時代は現代史といえた
こうやって異なる時代の逸話を知り、エピソードを比べその元ネタを辿ることで、その時代の感覚に近づくことができる(講談成立期の感覚かもしれんけど)。これもまた歴史ものの醍醐味である
そんなわけで「三度の飯より三国志」という漢にとって、この時代、この作品はとても重要なのだ

*元ネタのつもりが、「下ネタ」に誤変換されていた・・・・・・orz


前巻 『項羽と劉邦』 中巻


さらば、わが愛 覇王別姫 [DVD]さらば、わが愛 覇王別姫 [DVD]
(2012/07/20)
レスリー・チャン、チャン・フォンイー 他

商品詳細を見る

史記 全8巻セット (ちくま学芸文庫)史記 全8巻セット (ちくま学芸文庫)
(1997/07)
司馬 遷

商品詳細を見る
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

コメント

コメントの投稿

非公開コメント


(この一行は、各ページ下部に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
カテゴリ
SF (24)
RSSリンクの表示
リンク
FC2 Blog Ranking
ランキング
アクセスアップ!?
検索フォーム
はてな
この日記のはてなブックマーク数
タグランキング

サイドバー背後固定表示サンプル

サイドバーの背後(下部)に固定表示して、スペースを有効活用できます。(ie6は非対応で固定されません。)

広告を固定表示させる場合、それぞれの規約に抵触しないようご注意ください。

テンプレートを編集すれば、この文章を消去できます。