『私家版 日本語文法』 井上ひさし

ピンク広告から哲学者まで

私家版 日本語文法 (新潮文庫)私家版 日本語文法 (新潮文庫)
(1984/09/27)
井上 ひさし

商品詳細を見る


日本語の作法とはなんなのか。教科書的文法と作家の意地を戦わせながら探求する、井上ひさしの文法論
『作文教室』初心者用の入門書としてすれば、本書は中級者以上向けで、より深く文法の意味、源泉、変遷を追求している
たとえば「は」と「が」の使い分けでは、『作文教室』で掲げていた大野晋の説に対し、三浦つとむ川本茂雄の説を引き出し批判を加えている。三浦は「既知=は」「未知=が」の大野説に、「吾輩は猫である」などいくらでも「未知=は」の例はあると反証し、「が=部分」「は=より全体」を掲げた
川本説は「が」を使うことによって、それ以外の部分の優先順位を下げる効果があるとして、その文の中心を「が」が担うとしている
著者はというと、「が=強く」「は=穏やか」と曖昧な結論に落ち着いてしまうものの(苦笑)、これが実は真意で、「言葉とは文法で仕分けできるほど簡単なものではない」「下手に仕切ると表現の幅が狭くなる」という哲学がある

形容詞、接続詞、接続助詞、副詞、時制と様々な観点から文法を点検して、浮かび上がってくるのは、日本語が古代から海外の影響を受けつつ、移り変わっていったということだ
かな文字がなく漢字で表現している時代も、訓読みをあてはめ新しい漢字を作り出し、当初から中国での使われ方とかけ離れていた
近代に入ってからの変化は強烈で、近代日本語は欧米語の体系なしには説明できない
海外の事物を日本人に伝達するため、それに合わせて日本語を変える言文一致」の運動が連綿と続けられた
たとえば二葉亭四迷は、顔の容貌を詳細に描く、会話体の多用、抽象名詞の主格などの欧文体を輸入したし、「○○ので」などの従属副詞句「○○られて」などの受身形も欧文の産物だという
歌謡曲の売り上げベストテン(1980年!)を見た友達のオーストラリア人から「外来語」が多すぎると抗議を受けたことから、近代日本語の章は始まっているが、著者に言わせると日本人は絶えず海外のものを咀嚼し右往左往してきたわけで、長い目で見れば収まるところに収まっていると観る

最後から二つ目の章、“「のだ文」なのだ”が面白い
なぜ最近の雑誌(80年代)に「のだ」が多用されるかについての考察なのだが、その発端は深夜ラジオのディスクジョッキーにあるとする
他の特徴に、「だ止め」の乱発「体言止め」の跳梁呼びかけ調の連発(「○○してみないか」)、語尾の多様化(「○○ですな」)等があげられている
そう、この傾向は、ライトノベルやブログなどネットで散見されるものでもあるのだ
氏によると、「のだ文」は夏目漱石から森鴎外、永井荷風らが巧みに使っていたそうだが、さすがに現代ほど多用はされていない
では「のだ」の効用とはなんだろうか

・・・「だ」はつまり言葉を節約するはたらきがある。「だ止めの乱発」は、だから読む者にスピード感を与える。また小さく区切られた欄の中の文章に「だ止め文」が多いと、いかにも情報を圧縮してあるような錯覚に捉えられる。カタログ雑誌の編集者たちの狙いも、そのへんにあるのではないか(p268)

「だれがガラスを割ったのですか」
 ガラスが割れているとは、すでに旧情報に属する。その旧情報を基に新情報を得ようとするには「……のですか」という「のだ文」を使わねばならない。(p269)

例に挙げられた雑誌の特徴はみなスポンサーのついたカタログ誌であることで、この「のだ文」は若者へのセールスとして生まれたのだ

本書は堅苦しい議論を展開する反面、様々なジャンルから例文を取り寄せて読者を飽きさせない
歴史的な文学、古典から、宙吊り広告、ソープ嬢の対談、スワッピング夫婦の告知板、事件関係者の遺書、と著者の趣味で下世話なものが多く使われている(笑)
無機質な文法用語で理解したものと、物語作品で読んで感じたものとのギャップを埋めてくれるので、言葉を使うにも読むにも本書の効用は大きい
今、自分の使っている言葉を確かめよう(この呼びかけがセールストークなんだな)


関連記事 『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』
     『自家製文章読本』
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

コメント

コメントの投稿

非公開コメント


(この一行は、各ページ下部に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)
カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
カテゴリ
SF (22)
RSSリンクの表示
リンク
FC2 Blog Ranking
ランキング
アクセスアップ!?
検索フォーム
はてな
この日記のはてなブックマーク数
タグランキング

サイドバー背後固定表示サンプル

サイドバーの背後(下部)に固定表示して、スペースを有効活用できます。(ie6は非対応で固定されません。)

広告を固定表示させる場合、それぞれの規約に抵触しないようご注意ください。

テンプレートを編集すれば、この文章を消去できます。