『餓鬼  秘密にされた毛沢東中国の飢饉』 ジャスパー・ベッカー

疑似科学は恐ろしい

餓鬼(上) - 秘密にされた毛沢東中国の飢饉 (中公文庫)餓鬼(上) - 秘密にされた毛沢東中国の飢饉 (中公文庫)
(2012/01/21)
ジャスパー・ベッカー

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餓鬼(下) - 秘密にされた毛沢東中国の飢饉 (中公文庫)餓鬼(下) - 秘密にされた毛沢東中国の飢饉 (中公文庫)
(2012/01/21)
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毛沢東の掛け声のもと始まった大躍進は何を引き起こしたのか。中共政府が隠蔽し続けてきた飢餓の実態を暴露する
文革の被害は映画のテーマになって有名な半面、その前の「大躍進」については詳しく知られていない
それは中共政府の政策と重なるもので、鄧小平が毛沢東を「功績第一、誤り第二」と総括したためで、文革批判はともかく「大躍進」については臭い物に蓋をした状態が続いている
なぜかといえば、当初は「大躍進」を有力幹部のほぼ全員が成功を信じていて、それには鄧小平、胡耀邦、趙紫陽ら後の改革開放路線の人間も含んでいるからだ
「大躍進」をまともに総括することは、共産党を否定することにもつながってしまう
本書ではガーディアン紙の特派員として天安門事件を報じた著者が、党内機密とされた資料と関係者への取材を元に、1958年から1962年まで続いた失政とその影響を指弾する

そもそも「大躍進」はスターリンの五カ年計画にならった、中国の近代化をはかるものだが、必ずしも工業化だけを意味するものではない
毛沢東たちはソ連で実施された「農業の集団化」と最新の科学的手法をとれば、収穫量の倍増、三倍増が実現すると本気で信じていた
農民たちも共産主義だから配給があると信じて自前の食糧を浪費し、大躍進の最初の数ヶ月、地方によっては一日五食、食いきれないほど食べるユートピアが演じられたという
しかし、毛沢東らの自信の源であった最新の農業技術とは、すでにソ連で飢餓をもたらしたトンデモ農法だった

ソ連では遺伝学が否定され、環境が動植物の性質が決定するという農業化学者ルイセンコの理論が支配的で、これは母羊のしっぽを切ればしっぽの切れた子羊が生まれる、と喩えられた
彼の根拠はスターリンの教え(!)で、政治家の哲学を科学に当てはめるという無茶苦茶なものだった
ルイセンコから派生して、異種交配で農業英雄になったミチューリンは、メロンとカボチャの交配を成功させたと喧伝され、アメリカ人技術者の息子、ヴァシリー・ウィリアムズは化学肥料を廃して輪作(!)と畑を必要以上に深く掘ることを提唱した
こうした全てがソ連農業の収穫を大きく押し下げたといわれ、ソ連のプロパガンダを鵜呑みにした毛沢東たちは、丸々受け入れてしまったのだ
ある地域では水田を掘りすぎて沼地と化してしまったという
既存の科学をブルジョア科学と否定した上に、疑似科学にしがみついて大飢餓を引き起こしたというのだから、国民はたまったもんじゃない

下巻においては、最大のタブーともいえる人食が語られる
ただ「大躍進」のみならず、歴史を振り返っても中国大陸において「人食」が他地域より起こりやすいものだったとする
飢餓時に人食が起こるのは全世界で見られる現象であるが、「復讐」としての「人食」という習慣があり、憎い敵の人肉を食うことでパワーを得る、集団の結束を固めるといったことが信じられていたそうだ
こうした習慣そのものは世界各地であったりするものの、仮にも近代国家の体裁を整えた社会で行なわれた例は少ないだろう
最初、読んだときはオリエンタリズムに思えたが、原典がほとんど中国人だったりするので、もう唖然とするしかない
第13章「飢餓とはなにか」には、人間が飢えたらどうなるか、克明に書かれている。いわゆる難民がどういう暮らしをしているか、想像する助けとなるはずだ

「農業の集団化」は共産主義のイデオロギーにかなったものだった
マルクス・レーニンの共産主義にとって、農民は敵であり、家族制度もまた敵だった
「人民公社」は農民から土地を取り上げ労働者に変え、家族を解体する目的に使われた。文革において父を批判する運動も家族解体が目的であり、「大躍進」に連なるものといえる
大躍進失敗後も、人民公社はプロパガンダとして生き続ける
なだたる知識人や指導者が「人民公社」を称え、アフリカやアジアで「農業の集団化」を行なわれた
その代表がクメール・ルージュのポル・ポトで、100万人以上が餓死したと言われる。北朝鮮の飢餓もこれと似たようなものだろう
本書の巻末に、読売新聞の元中国特派員の解説があって、今の中国の現状も書かれている。合わせて読もう
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