『歳月』 下巻 司馬遼太郎

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新装版 歳月 (下) (講談社文庫)新装版 歳月 (下) (講談社文庫)
(2005/02/15)
司馬 遼太郎

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江藤新平は征韓論を薩長体制打破に利用せんと、板垣、西郷らと手を組んだ。しかし、大久保利通と伊藤博文の交錯により形勢は逆転し、下野することとなる。板垣から自由民権運動への誘いを受けながらも、自らの地盤を築こうと政令に背き佐賀へ向う。江藤を仇敵とする大久保はすぐさま、江藤処刑を前提に謀略を巡らすのだった

下巻は、参議という頂点から転がり落ちる物語となる
江藤新平の活躍期間は実質5年足らずと短い。派手な人物で「歳月」というタイトルには似合わない気もするが、時代の残酷さをそこに込めたのだろうか
明治前半を大久保と西郷の視点から描いた『翔ぶが如く』は長編ながら小説としてのスタイルが定まっていなかった。その点、『歳月』江藤新平の立志伝とはっきりとしたテーマがあるので完成度は高い
下野から佐賀の乱、処刑にいたる顛末がかなり詳しく描かれているので、明治初年代の歴史小説としてかなり貴重な作品ではないだろうか

江藤と対照を為す人物として、大久保とともに林有造が作中大きな位置を占める
林有造は土佐藩士で戊辰の役では板垣退助に従って転戦し、維新後は高知県令を勤めた。板垣の下野ともに職を辞し、西郷と呼応して武装蜂起を高知で計画していた
その後、計画は露呈し獄に下るも、出獄後、自由党に合流し、議会政治が始まるや大臣を歴任するようになる
そうした政治闘争の“くろうと”である林は、江藤の佐賀帰郷に強く反対し、失敗後は将の器じゃないとまで断定した
ちなみに、彼は幼い頃に林家に養子と入った身で、元は岩村家の出。兄弟には乱前後に佐賀県権令を勤めた岩村通俊と岩村高俊がいた
特に岩村高俊は、大久保の命で佐賀の乱を引き起こすべく派遣された曰く付きの男である
ある意味、もっとも日本の政情を通じた人の忠告を江藤は蹴ったのだ。自信過剰にもほどがあるだろう

『翔ぶが如く』において清廉無私な人物として描かれた大久保利通だが、本作では政敵を葬るに法さえも曲げる酷薄さが強調されている。大河でのイメージはなんだったか、と思えるぐらいダークである(苦笑)
江藤が制定し発布した「新法」においては政治犯の規定はなく、元ネタのフランスを倣って死刑を科さないと想定されていた
大久保は江戸時代を基準にした「旧法」を根拠にしようとするがこれでも足りない。そこで、清国の法律から大逆罪の概念を拝借して、江藤に「梟首刑」を言い渡すのだ
江藤はその結末に驚愕するが、大久保はその姿を「江藤、醜躰、笑止なり」と日記に記した
旧版のあとがきにおいて司馬は大久保を「スターリン的権力構想力の持主」と評したそうだ(江藤も同質と断じているが、非情さに欠けて普通人であるとする)
きらびやかな近代制度を導入した江藤と、その裏側を内務省と警察力で束ねる大久保は、そのまま明治政府の光と影のようだ


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