『天狗争乱』 吉村昭

元は身分の低い者が威張っているから「天狗党」

天狗争乱 (新潮文庫)天狗争乱 (新潮文庫)
(1997/06)
吉村 昭

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桜田門外の変から4年、水戸藩では門閥派と攘夷派の党争が激しさを増していた。元治元年3月、攘夷派の中でも激派と呼ばれる一党は、幕府に横浜鎖港を求め筑波山で挙兵した。これに対して水戸藩主徳川慶篤は支藩である宍戸藩主松平頼徳を派遣し、頼徳は両派の融和に乗り出す。しかし、門閥派はこの機を捉えてクーデターを起こし、幕府軍とともに攘夷派の根絶を目指すのだった

天狗党の乱というと、水戸藩中心のローカルな騒動だと思っていた
しかし、読んでみるとどうだろう、幕末で外せない一大事件じゃないか
にも関わらず、余り知られていないのは、維新の流れに合流できなかった、あるいは初期における強引な資金集めが祟って不逞浪人の烙印を押されたためだろう
この小説ではそうしたイメージに囚われず、天狗党の人々が何を考えて行動していったか、指導者層から賄いの女性までその長い旅路を描いている
9割を地味な事実で積み重ねていき、その中にハッとするドラマを紛れ込ませる。上級者仕様の歴史小説ながら、作者の真骨頂を示す白眉の一作だ

メディアで取り上げられる天狗党は、攘夷を口実に軍資金を巻き上げる不逞浪士という描かれ方が多い
初期において強引な取り立てがあったのは事実ながら、藤田東湖の四男・藤田小四郎などのリーダーたちは民心の懐柔に苦心して、行く先々で劫掠を重ねていた田中愿蔵の隊を処断している
攘夷派の中でも穏健派(鎮派)だった武田耕雲斎が合流すると、天狗党は生まれ変わる
目標を横浜鎖港の要求から、京都を預かっていた一橋慶喜への直訴へ転換し、厳しい軍律を定めて統制を強めた。対外的にも行く先々で(悪名を怖れたとしても)庶民の歓待を受け、地域によっては進んで協力する者たちもいた
天狗党の尊王攘夷思想は、世間の常識からしてもかけ離れたものではなかったのである
天狗党が行軍した経路が面白い。なんと、関東から信州を通り抜けて、美濃に入り越前に迂回して京都へあと一歩のところまで迫っているのだ
なぜ、日本のど真ん中を横断できたのか。それは関東、甲信には天狗党を止められるような勢力がなかったため
関東においても水戸35万石に匹敵する藩はなく、信州においては旗本に毛の生えた小大名ばかりで、自ら軍資金を差し出して間道を案内する始末だ
美濃でようやく、大垣藩(10万石)井伊家の彦根藩(当時28万石?)にぶち当たり、越前への死の登山を余儀なくされた
飛び地が全国にある幕府軍は鈍重で、天狗党千人を止めるのに雄藩の手を借りねばならない
天狗党を追うだけで、幕藩体制の弱点が見えてくる

果たして天狗党は、時宜をわきまえない発作的な攘夷浪士だろうか
実のところ、幕末の敗者である水戸藩と勝者である長州藩には共通点が多い
天狗党にも思想的に共鳴した農村からの参加者が多く、身分を越えた連帯があったし、長州藩も俗論派と攘夷派の争いが裏表であった
大きな違いは、やはり御三家の親藩と関ヶ原で負けた外様大名の違いで、天狗党の尊王攘夷は幕藩体制を前提せざる得なかった。それは彼らが直訴しようとした一橋慶喜自らの討伐を受けるという悲劇に直結している
この小説で一番、劇的な場面がある。薩摩藩士・中村半次郎(後の桐野利秋)が天狗党の藤田小四郎に対し、近江を中央突破するなら、薩摩が協力すると西郷の意を伝えるところだ
これは薩摩の謀略なのだが、天狗党の乱の3年後には戊辰戦争が勃発する。地理的な問題はあれど、水戸と薩長は紙一重に思えてならない


wikiで知ってしまったのが、天狗党の乱には後日談があるようで
乱後に小浜藩に預けられた天狗党の生き残り100名余りは、戊辰戦争勃発で門閥派(諸生派)追討の勅諚を受け取り、水戸藩に乗り込み門閥派を家族もろとも粛清していく。それに対して北陸の戦いに参戦していた門閥派の残党が、水戸城下に攻め寄せ(弘道館戦争)、反撃した攘夷派がさらに苛烈な復讐を振るったそうな
コレハヒドイ
小説が天狗党視点で奇麗に完結していたので、知らない方が幸せだったよ(苦笑)

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