『天地明察』 上・下巻  沖方丁

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戦国の気風覚め止まぬ元禄直前の近世日本。800年に渡って継がれていた暦が、明らかなズレを生じ始めていた。碁打ちの家に生まれた渋川春海は算術の才を認められ、新しい世に相応しい改暦作りを命じられる。長きに渡って日本を支配した伝統を変えんとする漢達の物語

清涼、という言葉が似合う作品だった
明らかに狂った暦にもかかわらず改変しようとしない「不合理」を、新しい算術、考え方=「合理」をもって退け社会を発展させようという物語で、歴史小説の中では司馬遼太郎路線の王道を行く
算術、暦という地味なネタで世に出せたのは、みなもと太郎の『風雲児』シリーズによる地ならしがあり、先達の業績・思想を上手く引き継いだ作品といえる
算術や神道の世界から見る江戸の歴史というのも興味深く、「合理」>「不合理」で押し通す竹を割った価値観も司馬ファンとして読み心地がいい
勝負や研究に対する「狂」の部分で物足りないところあるが、清涼な作風として筋は通っている

しかし、小説としては少し腑に落ちないところがある
2010年に本屋大賞を受賞したことを皮切りに絶賛の嵐が続いていて、先日に映画の公開も始まってCMでは出演者がニコニコ「明察」「明察」と連呼している
これがへそ曲がりの私には気持ち悪い。言うべきことは言うべきではないか
この作品には小さくない弱点がある。立志伝調なのに、主人公のキャラクターが弱いのだ
算術を趣味レベルで触る書生時代に繊弱なのはまだ分かるものの、いざ改暦に携わるようになってもそれが各場面で強調されている
改暦という偉業は一人の英雄で為されたものではないというにしても、事業のリーダーがこの様子ではリアリティを感じない。関に怒鳴られるところなど、保科正之が頼む人間を間違えたようにしか思えない(笑)
新暦候補の間違いを指摘される下りぐらい、華を持たせても良かったのじゃないか
これなら群像劇風に描くか、視点キャラ用のヘタレ要員を置くとか、した方がいい。外から見た春海という描写がないゆえにフォローが効かず、作者の意図以上に春海が冴えない人物に見えた
それだから、最後のクライマックスの奔走にキャラクターが結びつかず、カタルシスに欠いた面は否めない
作者にとって歴史小説は初めてであり、処女作らしい荒さの残る作品なのだ

ただ、歴史小説としてはエライと思う
算術や暦を真っ正面から小説の題材にしてしまったのだ。本来なら、こんなネタで物語を書けるものではない
当然、展開も盛り上がりに欠ける。地味な研究に劇的さはないし、後半は訃報ばかりが空しく続く
それを補うのが、作者の軽快な文章であり教養で、凡庸な作家ではとうてい人の読む気を維持できないだろう
算術や暦を理解するには多くの知識が必要で、それを説明するため、新書に近いような構成になってしまっている。それでもかつ、人を眠たくさせないというのは大したものなのだ
ネットで情報が探せるようになって、小説の「啓蒙」は価値が下落してしまうわけだが、本作品は良質の蘊蓄本として残っていくだろう
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