ストライクゾーンが広いとか、言い訳にならない
![]() | 不毛地帯 第2巻 (新潮文庫 や 5-41) (2009/03) 山崎 豊子 商品詳細を見る |
商社マンとして生きる決意をした壱岐は、大門社長のたくらみで次期戦闘機のテストを見学することになる。そこには陸士、陸大で同期で、今は空幕防衛部長を務める川又伊佐雄がいた。川又から腐敗した政治家たちの都合で次期戦闘機が決まってしまう現状を知った壱岐は、自ら航空部に移り第一次FXの大商戦に関わっていく
第2巻は、第一次FXと第三次中東戦争に関わる商戦の二本立て
次期戦闘機計画はほぼ史実に準じていて、ラッキード=ロッキード、グラント=グラマンとモデルも分かりやすい。F104は、まんまF-104スターファイターだ
当時の首相、岸信介はグラマン社から機数あたりでリベートをもらっていたという疑惑があり、F-104に決まっていた次期戦闘機をF-11タイガー(作中はスーパードラゴン)するべく働きかけていた
その疑惑は表面化したものの、捜査の段階ではリベートの受け取りが行なわれていなかったということで、事件化されなかったという
小説での近畿商事(伊藤忠)と東京商事(日商岩井)の暗闘は、そうした第一次FX問題の舞台裏を取材、推測したものといえそうだ
第2巻はシベリアの回想がなくなり、政界、海外を巻き込んだ謀略戦が中心となる
そのため、前巻にあった終戦時の悲哀が薄れ、経済復興の上げ潮に推される形で娯楽色が強くなった
主人公、壱岐正のライバルで登場するのが、東京商事の鮫島辰三
壱岐のモデルである瀬島龍三をもじったような名前でありながら、文中にも「鮫のように獰猛な商社マン」なんて表現もなされている、絵に書いたような男なのだ
「シャーと来るからシャアなんです」ならぬ、「鮫のようだから鮫島です」と真っ向から来るのだから、新宿鮫も脱帽である
しかも、壱岐の娘と鮫島の息子が交際しているという、ありえないラブコメも重なるのだから、たまらない(苦笑)
この二人にロミオとジュリエットでもさせるのであろうか
その他、夫婦のいさかいに娘が目を覚まして泣くとか、鮫島が壱岐と同じクラブをいきつけにして毎度嫌みを言うとか、王道すぎるドラマが展開されていく
こうしたベタさは作者の計算であって、雲の上、闇の奥の闘いばかりでは読者の気が削がれると、読みやすいようにバランスを取っているわけで、鮫島の設定にみる遊び心含めてこのサービス精神が多くの読者を取り込んでいるのだ
川又空将の自殺とか史実にあったか良く分からない事例もあったり、秋津中将の娘、千里が壱岐の不倫相手としてスタンバっていたりと刺激的な展開も含んでいて、事実かどうかと突きつめず『竜馬がゆく』を読むぐらいのスタンスで付きあうべきだろう
昭和の時代の出来事でここまで小説として遊ぶのは、凄い度胸だと思う
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