『陰謀史観』 秦郁彦

我ながら堅い本ばっか読んでいるなあ

陰謀史観 (新潮新書)陰謀史観 (新潮新書)
(2012/04/17)
秦 郁彦

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なぜいつの時代も陰謀論が絶えないのか?戦前戦後を俯瞰して、歴代の陰謀論を検証し、陰謀史観が生まれるメカニズムを探求する
帯の文章を読むと全世界の陰謀論を射程におさめてそうでも、実際は太平洋戦争前後の日本関係のものを中心に扱っている。著者の専門を考えるとそれも当然で、手の届く範囲をしっかりまとめたというところだ
内容もごく真面目で、「日米対立の史的構図」の章では日米関係の紆余曲折からそれに付随して生まれた陰謀論を、史実を分かりやすく説明しながら追っている。これが手短くまとめた通史として上手くできているのだ
ただ、トンデモ本的な彩りに欠けるのが少し寂しい。泡沫な陰謀論を取り上げるのがバカバカしくなったのだろうか(笑)
最終章ではトンデモ的な陰謀論を裁いていくが、当たり前過ぎるからかやや情熱に欠けている

本書で最も力が入ってるのが、日米関係に関わる陰謀論
最初に取り上げられるのが、東京裁判で侵略戦争の証拠とされた田中上奏文
1927年7月25日に田中義一首相が天皇に提出した書簡とされ、「支那を征服せんと欲せば、まず満蒙を征せざるべかざる。世界を征服せんと欲せば、必ずまず支那を征服せざるべからず・・・」と世界征服を目標とする内容となっていた
もちろん偽書なのであるが、二年後の1929年には中国語訳、英語訳が出回り、大陸進出がそれを裏書きするように進む中、消し止めることができなかった

・・・・・・1932年の国際連盟理事会で松岡洋右代表と論戦した顧維鈞中国代表は、「この問題の最善の証明は、実に今日における事態である」と反ばくした。つまり真偽は問題でなく、上奏文が出たあとの日本の行動が事実で証明しているとの論法だった。明らかに論点のすり替えだが、陰謀史観論争ではごくありふれた手法ではある。東京裁判でも中国側の証人はやはり真偽論争を避け、顧維鈞と同じ論法で切り返している。(p25)

今でも中国の教科書には、「田中上奏文」が載っているらしい
アメリカにも日本の侵略は計画的なものではないか、という疑いが残り、天皇制への無理解も相まって天皇戦犯説が浮上する。1971年のデービット・バーガミーニ『天皇の陰謀』に始まって、2001年にもハーバート・ビックス『昭和天皇』がにぎわしピュリッツアー賞(!)までもらっていたようだ(驚
一方、日本側のアメリカ陰謀論には、黄禍論から来る人種対決や石原完爾の『世界最終戦論』など「宿命論」的な日米対決が前提となっていて、それを一般化したメディアとして無数の架空戦記=サブカルチャーも関わっていた

 将棋に定跡があるように、未来戦記や実戦を想定した兵棋演習にも定型が生まれてくる。ホーマー・リーやバイウォーターを愛読した少壮士官が、やがて作戦参謀として年度計画を立案し、海軍大学の教官として海上戦術を教え、艦隊長官に出世して演習を統裁するようになると、夢と現実の見境がつきにくくなってしまう。事情は米海軍も似たり寄ったりであったろう。
 最近になって史家の間では日米が戦わねばならぬ必然性があったのか、と疑問を呈する人がふえてきた。もっともな疑問で、私も内外のプロとアマが寄ってたかって三十年近くも太平洋戦略の空想ゲームに熱中しているうち、本物の戦争にしてしまったのではないかと疑っている。(p80-81)



さて、現在の有力な陰謀史観として著者が上げるのが、東京裁判史観
その論理は、侵略も残虐行為もお互い様という「同罪論(相殺論)アメリカの挑発による自衛戦争だったという「挑発論となっている
「東京裁判史観」の論者にとって痛いのが、当時の国民が受容してしまったことで、「敗者のルサンチマン」、負け惜しみだけでは説得力がないので、コミンテルン、フリーメーソン、中共などの陰謀論と相乗りする傾向があるそうだ
そうした論者には専門家が少なく、渡部昇一(英語学)、西尾幹二(ドイツ文学)、江藤淳(国文学)、藤原正彦(数学)、田母神俊雄(自衛隊)、小堀圭一郎(森鴎外)てな具合
著者は、国際的には通用しない一部の日本人向けの「国内消費用」の自慰的言論と断じる
特に江藤に対しては、ロックフェラー財団の給費でプリンストン大学に留学しながら反米の言論を行なっていたことに、日米関係の「甘えの構造」を最大限に利用していたと評する
いわば上記の論者たちもアメリカに「甘えても怒られない」のを承知で反発しているに過ぎないと言うのだ
著者の批判の真意は、日本人は日本人なりに今の今まで主体的に判断して生きてきたと言いたいのだろう
今も幅を効かせる「東京裁判史観」を“陰謀論”と断じたところは痛快で、本書は戦前戦後に流れる思想の潮流から現在に至る言論の成り立ちを上手く説明してくれている
ただ、「東京裁判史観」への悪罵を見るように著者が言論プロレスに乱入してしまっているし、本書の批判だけではやや物足りない。まとまった本を探すとしようか


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