『経済成長神話の終り 減成長と日本の希望』 アンドリュー・J・サター

著者はユダヤ人の国際弁護士で、立教大学法学部教授(2012年度から)
主な著作が『ユダヤ式「天才」教育のレシピ』って・・・

経済成長神話の終わり 減成長と日本の希望 (講談社現代新書)経済成長神話の終わり 減成長と日本の希望 (講談社現代新書)
(2012/03/16)
アンドリュー.J・サター

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ぶっとい帯に「政府が経済成長を目指すと国は滅びる!」というメッセージが
著者は経済成長を全否定したいのではない。経済成長を自己目的化する危険を訴えている
成長の効果を分配する仕組みや副作用への配慮を欠いては、貧富の差を広げ社会を荒廃させるというのだ
第1部(パート1)でGDPを始めとする経済指標の曖昧さ、恣意性を解き、冷戦の生んだ経済成長神話を指摘し、第二部(パート2)でアリストテレスから経済の価値を問い、第三部で経済・社会の多くの分野に減成長」の理念を提案する
「減成長」は「経済成長神話」へのカウンターとなる概念で、経済成長を否定するというより、経済成長を前提としない地点から社会を考え直そうというものだ

GDP(国内総生産)とは、ある国の経済が一定期間内に、どれだけ新たに「生産したか」を示す数値
著者が言うには、生産」という考え方がクセモノらしい
モノとサービスの総計なのだが、「生産」と認められるには「市場経済」で売り買いさせるものでなくてはならず、子育てや家事を自分でするより、人に任せた方がGDPは上がる
中古品の取り引きも「新規」ではないからGDPには含まれず、金融市場の取り引きはもちろん含まれない
GDPは理由の良し悪しを評価しないので、温泉でのサービスも公害対策の資金投下でもGDPを押し上げる

 一方で、多くの面でGDPは非常に主観的でもある。
 そもそも、「その年のGDP計算に必要な数値が全部集まる部屋」みたいなものは、どの国の政府にもない。私たちが目にするGDP数値の根拠の大半は、実は政府の統計担当者による推測なのだ。しかも、統計担当官が使う手法が変わる可能性だってある。統計手法の変更によって公表数値が後日改訂されることは、実際よくあるのだ。(p27-28)

そして、企業によって資産の評価方法も様々で、中身は外の人間には評価しがたく、まして各国のGDP計算の方法はそれぞれ独自のもので、国と国で比較できる代物ではないという
にわかには信じがたいことだが、こういう極めて曖昧な指標で一喜一憂していることになる
四半期GDPの統計の取り方で変化の度合いが激しくなる例が紹介される他、経済成長率の数学的性質、すなわち経済が拡大を続ければ成長率計算の分母が増えるわけで、同じだけGDPが増えても毎年成長は鈍化することを指摘
成熟してしまった国でちょっとした成長率を維持しようというだけで、大変な「生産量」がいるわけだ
年数パーセントの成長があれば借金が返せるとか、年金が維持できるという計画がいかに机上の空論か分かろうというものだ(財政再建に自然増収が必要なのは確かだが)

そもそも「経済成長」はいつから目標となったのか
戦前で最大の経済問題とされたのは、「経済成長」ではなく「失業問題だった
大恐慌からクローズアップされた「完全雇用」が経済学の課題で、経済成長はそのための二次的な扱いだった
しかし、大戦が終わると戦災から労働力不足が問題となり、「生産高の拡大」と少ない手間で生産を増やす「生産性」に政策もシフトする
そこで「経済の安定には、経済成長が必要」という認識が生まれ、イギリスで1949年に初めて政治目標に経済成長が盛り込まれる
同じ年にソ連が原爆実験に成功し、アメリカでは「軍事費も経済成長を刺激する」として軍拡の論理に取り込まれたという
さらに冷戦下のプロパガンダも絡んでくる

 確かに当時、「成長」は内政的にも外交的にも、イデオロギー的な武器だった。たとえば、内政的には、カール・マルクスが「階級闘争」と呼んだ民主主義特有の社会的な緊張感をやわらげるのに役立った。当時、ドイツ、フランス、日本などでは組合運動が盛んになり、米国でも共産党の運動が活発になっていた。世界中で、左派が台頭しつつあったのである。そんな中、50年代から60年代にかけての経済成長は、80年代とは異なり、労働者の所得を実際に大きく引き上げる役目を果たした。そのため、成長が所得の不均衡を是正する働きをし、やがて左翼急進派の扇動による社会不安が沈静化していったのである(p81)

さらに、イギリスの経済学者P・D・ワイルズが成長率で資本主義が共産主義に負けつつあるとして

長期戦になった東西冷戦の中では、経済成長率が最も重要になる。なぜなら、最も成長した国が最終的に最も強大になり、あらゆる経済的、軍事的な優位にたち、世界市場、ひいてはより高い生活水準までが、その国のものになるからだ」(p82)

この論文をきっかけに、東西各国の目標は「経済成長」そのものとなり、「生産量増大レース」が始まる。失業対策や社会問題は二次的ものへと引き下がった
いわば「経済成長」が国威発揚の指標となり、アメリカが日本などに市場を開放していたのも、日本を西側陣営に引き込む対ソ戦略だったという
こう見ると、日本がバブル時代にアメリカに次いで二位だ、一位の経済大国を目指すとか言っていた理由も分かる

第三部で著者は数々の提言を行なうが、やや理想主義的で高邁すぎる嫌いがある
「減成長」の理念は分かっても、少なくなる税収で福祉国家が維持できるのか、各国がグローバリゼーションを前提に政策を打っているところに、それに棹を差す動きが果たしてできるのか(やや流れが変わりつつあるが)、食料自給率の改善を安全保障の問題と捉えるのは古すぎないか
イタリアの思想家から引いて、「ふるさと」、コミュニティの再生を謳うも、地方に住んでいる人間には時既に遅しに思える。ヨーロッパと日本では実体も経緯も違うのだ
とはいえ、TTPや農業政策など現実の政策に対する批判は的確で一読の価値はあるし、巻末の民主主義の話はやけに熱い!
本書は日本人へのエールだし、著者の提案を頭に巡らせてみても損はない


「与える」より「引き出す」! ユダヤ式「天才」教育のレシピ (講談社プラスアルファ文庫)「与える」より「引き出す」! ユダヤ式「天才」教育のレシピ (講談社プラスアルファ文庫)
(2010/09/21)
アンドリュー.J・サター、ユキコ・サター 他

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東大式よりなんか、効きそう
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