『ノモンハン 4 教訓は生きなかった』 アルヴィン・D・クックス

もうちょっと戦争物を読んで、じょじょに文明論、富野関係に向う予定

ノモンハン〈4〉教訓は生きなかった (朝日文庫)ノモンハン〈4〉教訓は生きなかった (朝日文庫)
(1994/06)
アルヴィン・D. クックス

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軍事衝突が停止してから、停戦交渉と国境確定、関係者への懲罰、事件が残した影響を取り上げる
8月の攻勢で勝利を決定ずけたソ連だったが、意外にも要求は控えめだった
ノモンハン事件の裏で、1939年9月に第二次世界大戦が始まったのだ
ドイツとの密約に基づき東ポーランドに侵攻し、満蒙国境交渉中にはフィンランドとの冬戦争に入っていた
スパイ・ゾルゲなどによって日本軍の方針を知っていたにも関わらず、戦前に主張していた国境、ハルハ河から少し東のラインに留まった
事件が終息して日本で始まったのは、戦犯捜し
機械化部隊の必要性が訴えられる一方、無断で退却した(とみなされた)将校たちが詰め腹を切らされた捕虜は存在そのものが秘匿され、捕まった将校は文字どおりの自裁を迫られた
しかし、無謀な侵攻作戦を立てた関東軍の参謀たちは、転属だけの実質お咎めなし

当時の日本にも、事件を糾明する動きがなかったわけではない
大陸進出を後押しした戦前の朝日新聞などでも

・・・たとえば十月四日の『朝日新聞』は、日本軍の損失が一万八千人にも及んだのを率直に認めた軍当局と、勇敢に戦った第一線部隊に敬意を表したあと、なぜかくも大きな犠牲を払い、「何故に陛下の軍隊を四カ月もの長期にわたってかかる不利の地位に暴露し」なければならなかったのか、とまわりくどい表現ながら疑問を投げかけ、日本軍は「甲冑で身を堅めた野武士にいわば徒手空拳をもって」取っ組んだようなものだと論評した。(p146)

ノモンハン事件が全く秘匿されていたわけではなかった。日中戦争という戦時でありながら、冷静な報道も存在していたのだ

また、1940年の国会でもノモンハン事件は何度か取り上げられている

 さらに静岡県出身で、政友会の口うるさいある議員は衆議院本会議で、ノモンハン事件に関する「陸相の演説と外相の演説とはまったく氷炭相容れざるもの」であると指摘し、政府は秘密主義をやめ、国民に真実を知らせるべきだ、と強調した。すべては「秘密秘密の扉に隠れて、国民の耳目を塞いでいる」とこの議員はつけ加えた。
 これに対して米内首相は「言論を尊重・・・・・・するつもりでありますが、ただ軍事上、外交上、経済上・・・・・・におきまして機密を要し、一般に公表することを不適当とする事項のありますことは・・・・・・ご諒承願いたいと思うのであります」と答えたが、その歯切れは悪かった。(p229-230)

1940年2月下旬の衆議院予算委員会で、畑俊六陸相に対する質問で

 さらにこの議員は、ノモンハン事件を全体的に見ると、たとえば敵戦車が明らかに優秀であったことからして、軍の装備になんらかの欠陥があったように思われる、と主張した。ソ連軍に対抗できる、世界的水準に達した装備を生産するだけの力を、はたして今日の日本の重工業は備えられているのか? それはきわめて困難なことに思えるが、「武士道」とて武器あってのことだ、とこの議員は述べた。
(略)
・・・「われわれとしては、ノモンハンの砂地に流した血をむだにするようなことはしないので、ご安心願いたい」と、畑は答えた。
 武士道と装備との関連を指摘されたことはまさにそのとおりであり、「いうまでもなく、精神教育だけで戦争の勝利をもたらしうるとは考えていない」。日常の訓練、さらに第一級の指揮、最も優秀な兵器やその他の装備を、整合させることが不可欠であると畑は言った。(p230-231)

引用が長くなったが、こういう答弁が国会でもあったのだ。その後のことを考えると、信じがたいことなのだが
こうした責任追及で第六軍の荻洲司令官や第二十三師団の小松原中将が退役させられたので、この時期まで議会政治が実は機能していたという、か細いながらも証拠になるのかもしれない

著者は一方的に日本軍を責めず、軍隊というのはどの国も閉鎖的で硬直しがちだとする
フランスでも日本のような素朴な攻撃主義が抜けきらなかったし、ソ連もノモンハンの成功を生かせず独ソ戦の緒戦は惨敗を続けた
また、当時の日本軍に求められたことはその国力からして過大であり、そもそも機械化されたソ連軍に対抗できる力などありはしなかった
まあ、国境線を長大にし戦争を拡大したのは、軍部自身であるのだから全くもって自業自得なのであるが

最終の第四巻ということで、シリーズを総括してみよう
本書は著者が1950年代から日本軍関係者の証言と資料を拾い集めたもの。旧ソ連の資料が公開される前にも関わらず、、戦闘が中心であるものの、ほぼ事件の実像にたどりつている
一つの前線の、一つの些末なエピソードを積み重ねて、将官の言い訳を看破し実体を捉えたことは驚くべきことだ
監修者・秦郁彦の解説にあるように、多くが病没した関係者の証言を遺した点でも、ノモンハン関係で外せない名著といえる

前巻 『ノモンハン 3 第二十三師団の壊滅』
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