『沈黙のファイル-「瀬島龍三」とは何だったのか』 共同通信社社会部

児玉誉士夫と並ぶ「昭和の黒幕」


沈黙のファイル―「瀬島 龍三」とは何だったのか 新潮文庫沈黙のファイル―「瀬島 龍三」とは何だったのか 新潮文庫
(1999/07)
共同通信社社会部

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敗戦の責任を問われる陸軍の参謀が、なぜ政界の指南役にまで上りつめられたのか。陸軍中枢にいた瀬島龍三の足跡をたどり、昭和史の暗部に触れるノンフィクション
瀬島龍三は、太平洋戦争の開戦以降、初期のマレー戦からソ連の満州侵攻まで作戦参謀として関わったエリート軍人で、戦後は伊藤忠商事に入社、自衛隊関連の取り引きや戦後賠償事業をとりまとめ、自民党各政権の指南役となった人物だ
その周囲にいる人物は戦中・戦後の要人ばかりで、インドネシア関連ではデヴィ夫人まで出てくる(ちょっとだけだが)
敗戦で日本の歴史が断絶しきらなかったことを象徴する人物といえよう
本書では瀬島龍三と同時に、彼が関わった時代、太平洋戦争の開戦、ガナルカナル戦、731部隊、ソ連侵攻とシベリア抑留、インドネシアと韓国の戦後賠償についても、関係者の取材を通じてその実像を明らかにしている
年表だけでは分からない、まさに昭和の裏面史だ

瀬島龍三というと、思い出されるのが関東軍がシベリア抑留をソ連と取り引きした」という疑惑
おそらく、東京裁判においてソ連側の証人として出廷したことから生じたものだろう
本人はこれを意識したのか「本国帰還を念押しした」と証言して、旧ソ連の人にこれを否定されて、かえって疑いを濃くしたようだ
旧ソ連関係者の話からすると、これは完全な陰謀論のようだ
…ワシレフスキーの副官だった元共産党国際部副部長イワン・コワレンコが語る。

「瀬島は事実と違うことを言っている。関東軍将兵の帰還を要望したなんてうそだ。そもそもあの会談は(対等な立場の)停戦交渉じゃない。勝者が敗者に命令を下す場だったんだ。秦(管理人注:関東軍総参謀長・秦彦三郎)は関東軍の降伏状況報告のため連れて来られ、ワシレフスキーからほぼ一方的に指示を受けただけだ」(p189)

そもそもソ連側からすると、降伏した関東軍は取り引きする必要などはない。戦時捕虜はハナからソ連に連れて帰るつもりで、捕虜を強制労働させて戦後復興させることは参戦前から計画されていた
関東軍が“要望”したのは「保護」であって、帰還を申し入れる余地などなかった。ただ、強制労働の場所を満州とその周辺を想定していて、シベリアまで連れて行かれるのは関東軍にとって予想外だったようだ
だからといって、瀬島がロシア側資料の日本語訳を改ざんしたことは許されないことだが

*ソ連との停戦交渉に関しては、外務省対ソ和平交渉の要綱(案)として、賠償として「一部の労力を提供する」という項目があり、停戦交渉がそれに沿って行われた疑惑はあるそうで→『瀬島龍三 参謀の昭和史』

敗戦を生き抜いて政権とつながりをもった参謀は、瀬島だけではない
ノモンハンで悪名高い辻政信は戦後に参院議員となり、インドネシアの戦後賠償ではスカルノへのパイプ役を務めた。ちなみに辻は、終戦後しばらく潜伏し、一時期には国民党のブレーン(!)となり国共内戦に関わっていたという
瀬島は海軍参謀の小林勇一を右腕としたり、戦前の人脈を通じて政界の黒幕へとのし上がっていく
韓国の戦後賠償では、ときの池田政権下で反対していた大野伴睦河野一郎児玉誉士夫とともに説得し、朴政権ナンバー2のKCIA部長金錘泌に渡りをつけて、条約締結に貢献している
大野伴睦の秘書に中川一郎がいて、その秘書には鈴木宗男がいて、伴睦の側近に渡邊恒夫がいて中曽根康弘に通じと、この一件を通じて瀬島の人脈はさらに広がっていく

そもそもこうした戦後賠償は、ポツダム宣言に由来する現物補償であり、高度成長期の日本には工業製品などの消費財を輸出し、インフラ整備に建設業が海外進出するなどのメリットがあった
そして、窓口となった商社に、莫大な利権が転がり込んできたのは間違いない
ただ、本書の「戦争で傷つき苦しんだ人々が置き去りにされた戦後賠償のからくり・・・」と言い方はラディカル過ぎて、補償金の一部が政治家や商社のポケットに入った汚職・癒着の問題はあるものの、人権意識が低い独裁政権相手の補償手段としてはわりあい妥当なものと思える。人道的かは微妙だが、当時としては実効性は高かったのだろう
また、本書は元陸軍参謀が戦後の政治に影響を与えたことを否定的に描いてしまうが、瀬島の影響の及ぼし方は“権力者”というより“軍師というに相応しい。「国のために働いている」と言われても白々しさは漂うものの、戦後政治に重きをなしたという言い方はできるのではなかろうか


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