『坂の上の雲』 第8巻 司馬遼太郎

大河ドラマを眺めながら

坂の上の雲〈8〉 (文春文庫)坂の上の雲〈8〉 (文春文庫)
(1999/02)
司馬 遼太郎

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日本海海戦の始まりとその結末、そして終戦
ちょうどドラマの進行と被ったので、小説の中の描写と重ね合わせながら楽しむことができた(本当はもう少し前に読み終わるつもりだったが)。演技の質はともかくも、ポイント、ポイントの情景はドラマでもよく再現されていたと思う
日本海海戦で驚くのは、開戦前の戦力では互角に等しかったのに、結果には大きな差がついてしまったこと
最新の射撃法、近代海戦始まって以来の戦術の導入、将帥の胆力、燃料の質、将兵の疲労・・・なるほど細かく見れば多くの点で連合艦隊が優位に立っていた
しかし、火力が高い近代戦で、ここまで一方的に叩き自軍の損害が少ない例はないだろう
この希有な例が前巻の奉天会戦について書いたように、「作戦」次第で大局を変えられると一部の参謀たちを勘違いさせた遠因になった気がする

前巻から俄然、存在感を増してきたのが東郷平八郎
老練な経験からバルチック艦隊の進路は対馬だと喝破し、秋山真之が考案した大胆な戦術を実際の戦場で指揮してみせる
作者が参考にした元海軍大佐の黛治夫氏の話で、

 東郷をして成功に導いたかれの敵前回頭という戦術は、英国の観戦士官のペケナムにも、ロジェストウェンスキーとその幕僚たちにもこれを狂気の沙汰としか映らなかったのだが、のちにこの大勇断がかれの名前を不朽にした。
 が、黛氏は、
「あれは砲術上からみれば大勇断ではない」
 とされる。
(中略)
 当時の海軍は、日本であれロシアであれ、あるいは他の国であれ、大回頭中の目標に対してとっさに有効弾を送る技術をもっていなかったということである。射撃諸元の調定やら照準やらする時間が、どうしても数分かかる。(p149)

ロシア側の砲弾が三笠に命中したのは、回頭から8分が立っていた。黛氏によると、東郷の偉大さはそれを知りきった上で、回頭させた「大英知」にあるという
そして、ドラマでもあった、ネボガドフ提督の第三艦隊が白旗を掲げたときに発砲中止させなかったこと
実際、軽巡イズムルードは快速で抜け出して自沈させる事件が起こっており、早めに戦闘を停止してしまうと敵艦を逃がしてしまうことも万に一つとはいえ、ありえた
腹痛に苦しむ加藤友三郎参謀長に、振り幅の激しい真之と比べ、戦場でのこの冷静さは光る
山本権兵衛はこうした将器が眠っていたことを知っていたのだろうか

最終巻には、6冊構成の単行本シリーズにあった“あとがき”を一挙に収録している
中には小説の印象と異なる、作者の本音が書かれているのが面白い
たとえば秋山兄弟については、「天才というほどの者ではなく、・・・・・・この時代のごく平均的な一員としてこの時代人らしくふるまったにすぎない」と書く。たとえ欠けても、「他の平均的時代人がその席をうずめていた」
あれほど、作中で変人ぶりをアピールし、才気を印象づけておいてだ
やはり、どこまでが小説で、どこが史実であるのか、他の書物と比較し確認しなければなるまい
他にも、詳しく触れられなかった人物の話やメッケルの子孫の話など、エッセイの一篇のように面白い。最後まで読もう

次巻 『坂の上の雲』 第7巻


2011’12/29 追記
『坂の上の雲』に影響を与えた資料としてこういうのがあるそうで

機密日露戦史機密日露戦史
(2004/05/25)
谷 寿夫

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アマゾンのレビューによれば、タイトルの「機密」というのは本が出るときに出版社がつけたもので、実際のところ旧陸軍に教本として使われた戦史らしい
公式に出された戦史は論功行賞のためのおべんちゃらであったが、テキストとしては使われたのは科学的なものだったようだ。少し陸軍を見直す気になった
一般向けに公開されていない、一部の士官の教育のため、とはいえ、長く使われていたそうだから多くの人間の目を経てきたことには変わりがない。第一級の資料だという
ただし、後講釈的なところも多いそうで、現場にいた軍人たちからすると不満な点が多いようだ
今読んでいる吉村昭『海の史劇』にも触れられていて、この資料の影響力は想像以上に大きい
当時の軍隊の現状を知るのは非常に難しいし、あまり作戦失敗の要因を確定的に見ない方がいいのかも
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