『坂の上の雲』 第7巻 司馬遼太郎

ドラマに追い抜かれた

坂の上の雲〈7〉 (文春文庫)坂の上の雲〈7〉 (文春文庫)
(1999/02)
司馬 遼太郎

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奉天の会戦から、バルチック艦隊の航海、その行く先を巡る連合艦隊の苦悩を描く
日本陸軍の作戦、少数による包囲作戦は奇策中の奇策だった
ロシア軍には次々と増援が来るし、対する日本側は補充する兵も、一度退役しさらに予備役を経た後備の部隊しかいない
時間を経るごとに状況が悪くなるゆえの勝負手で、あてはクロパトキンの過敏な神経だけという、まるで麻雀漫画みたいな心理戦、神経戦
それに応えてしまったクロパトキンの反応なんてのも、まるで架空戦記ものようなリアクションである
シミュレーションゲームでこれを再現するのはまず無理だろう(笑)
見方を変えると、この頃のロシアの体制は、王将を攻めると一気にひっくり返るようなアジア王朝的な体質が濃すぎて、リアルに講談みたいな展開を再現してしまったといえるかもしれない

前々からだけど思い知らされるのは、全てにおいてギリギリの戦いをしているということ

 余談だが、戦費のほとんどを、公債というかたちで外国から借りてきてまかなっているこの日本の戦争のやりかたのばかばかしさについて、かつて外相小村寿太郎の書生であった桝本卯平工学士が、アメリカ留学から帰って小村にそのことをほとんど詰問するように問うた。小村はそれに答え、
「この国家に金や兵が備わり、その独立が十分に出来ていたら、戦争などするには及びません。そんなものがないから、気が狂ったようにこんな戦争をしているのです」
と、いった。それを横できいていた酒亭の女将が、「私どもの世帯もそうでございます。私どもこのように夜もろくに寝ずに働いているのは貧乏だからでございまして、お金があって困らなければこんなに働きは致しません」と、大真面目な顔でこたえた。(p189-190)

この時代の日本というのは、不平等条約が残る未だ植民地にされるかもしれない側であって、まさに呑むか呑まれるかのボーダーライン上にいた
それが列強随一の陸軍大国ロシアと戦うなど、「気が狂った」ようなものなわけだ
奉天の会戦も各方面では日本軍が苦戦していて、放っておくだけでもロシア軍が勝つ戦いだった。それをなぜか日本が勝ってしまった
まさに「作戦のみでの勝ち」だったが、このことが無茶な戦略目標を「作戦」で達成できると、後世の陸軍参謀たちが錯覚した遠因になった気がする
もちろん、戦後まもなく死んだ児玉のせいではなく、後継者の勘違いのせいだが

大河ドラマにあったように、バルチック艦隊を巡る真之たちの苦悩に紙数が割かれているのだが、注目したいのは最後の章に記される沖縄の青年たちの話
沖合でバルチック艦隊が目撃され、宮古島の島司(とうし。島の行政責任者)や警察に報告が入るもそこには無線がなく、無線所のある石垣島まで行かねばならなかった。宮古島から石垣島への航路は約170キロで、手慣れたものでも尋常な距離ではない
しかし、垣原善ら5人の漁師は、この命がけの旅を引き受けてやり遂げた。しかも、「機密だから口外しない」という約束を守り、戦争のずっと後も口を閉ざし続けたという
沖縄というと、江戸時代から薩摩の属国という位置にはあったものの、琉球王朝という独自の共同体、文化を保持していたわけで、本土の人間と隔たりがあるように思ってしまうが、この時、少なくとも国を守るという事に関しては強い連帯感を持っていたようなのだ
これは意外だった。沖縄には例外的に郷土制による師団が置かれなかったりと、属州的な側面があったにも関わらずだ
第二次大戦の沖縄戦、米国による統治期間、現在の基地問題などで、特別な眼差しで見てしまいがちだが、こういう時代もあったとは覚えておくべきだろう

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