近未来を舞台にしているが、テーマそのものは普遍的なものだ(近未来と言っても、公開された1971年にとっての近未来は今より前かもしれないなあ)
![]() | 時計じかけのオレンジ [DVD] (2010/04/21) マルコム・マクドウェル、パトリック・マギー 他 商品詳細を見る |
自由放任で育てられ、手がつけられない青年に画期的な“洗脳治療”が施される。その治療法とは、性と暴力に満ちたフィルムを吐き気が催すほど見せ、映像体験と肉体的記憶を関連づけるもの。“完治”すると、自分がそれを振る舞おうとした瞬間に激しい吐き気が襲うようになる
いわば、倫理の問題で片付かないことを、物理的にできなくすることで解決している
もちろん、たとえ犯罪者であっても洗脳することは許されない。映画の牧師の言うとおり、「選択する自由のない人間はもはや人間とはいえない」
と、頭ではすぐ結論づけられるけど、主人公アレックス・デラージ(=マルコム・マクダウェル)はそれを揺さぶるほどの悪行を見せてくれる
映画前半は彼とその一味による犯罪のオンパレード。ホームレス狩りに、強盗強姦、ひいては殺人にまで発展。本当に無茶苦茶やってくれる。映画冒頭の睨み付ける目は悪党そのもの
彼視点で物語は進むけど、正直これほど同情を生まない、感情移入を受け付けない主人公はいないだろう
人並み以上の狡猾さを持つ彼が、果たして刑期を終えて更正してくれるかどうか
しかし、被害者なり一般市民から見ると、彼が完全な“治療”を受けて「善人」で出所してきても、とても受け入れることはできない。実際に、アレックス君は以前虐げた人々に報復を受ける
刑罰には、その人の更正を目的とする「教育刑」という考え方があるけど、犯罪というのは当事者だけでなく社会に与える影響も考えなければならない。よって刑罰には「応報」の要素がともなってくる
この映画のテーマの一つには、「教育刑」、その背後にある社会主義に対する異議があるようだ
彼が治療を受ける光景はなんとも奇怪なもの。人をもの扱いだ。完全な善を作りだそうとする行いが「全体主義」的な管理社会を生んでしまうジレンマを描いたといえるのか
正直、目を背けたくシーンが多く、とてもオススメしにくい作品。文字通り、女性のフルヌードが出てくるが嬉しくなる出方ではない。しかし妙ちくりんで中途半端な近未来描写と演劇的な芝居と軽やかな場面展開、そしてBGMのクラシックが見ているうちに嵌ってくる。これほど人が見たくないものを最後まで見せてしまう監督はやはり天才なんだろう
テーマはシリアスだが、世界観がとにかく妙だ。この時代から見た近未来なのだが、『2001年宇宙の旅』のようなスマートさはない
まず目が行くのが、アレックスたち学生が着る上下が白い服。股間にはオムツのようなものをつけている。典型的な宇宙人の姿だ
そして、彼らが出入りするバーには、女性の体を模したフィギュアが並び、中には乳首から液体が出るものもある。予算の関係もあるのだろうが、妙に部屋が細長い
近未来ファッションなのか、おばさんの髪型は紫色だったりするのも妙。いや、これには大阪のおばちゃんも負けていないか
おそらく近未来の風俗として描かれているだろう、全てのものが不思議とダサい。これもその時代の想像力なのかもしれない。でも、これはこれで香ばしく、独特の空気を生んでいる
何気なくCDショップ(?)に『2001年宇宙の旅』のレコード(?)が置いているのにはニヤリとした
芝居の調子もシーンによってあれこれ変わる。前半のアレックス悪行列伝の部分は演劇調だったりするが、刑務所のシーンになると急にリアリスティックに変わる。近未来なのに古式蒼然とした入所手続きだ。なんでここまで忠実に芝居させるのか不思議
また、アレックスがナンパした女の子と3Pに到るが、そのシーンは早送り。wikiによると、日本の前衛映画を見ていて、それに影響されたらしい。意外なところにつながりがあるもんだ。映像の世界には国境はないのだ
映画の原作はSF小説にあるのだが、アメリカで出版されるときには最終章が作者の意図に反して削られたらしい。映画もその部分は削られている。どうも反社会的と見なされたらしく、現実に小説に影響された知事暗殺未遂事件も起きている
それでも、勝手に削るのはどうか。アメリカが「自由の国」って昔から話半分なんだな
日本では、早川書房から完全版が今年の9月に出されたらしいので、手に入れてみたい
文庫で出てたんだ
*2008’9/30 追記
アレックスに復讐する作家役のエイドリアン・コリが鬼気迫る演技を見せる。アレックスが歌うフランク・シナトラを聞いて、妻を自殺に追い込んだ犯人と気づいた瞬間の顔は凄まじい!ショックで死ぬんじゃないかと思ったほどだ
爆笑ものであります
関連記事 『時計仕掛けのオレンジ』(原作小説)
まず目が行くのが、アレックスたち学生が着る上下が白い服。股間にはオムツのようなものをつけている。典型的な宇宙人の姿だ
そして、彼らが出入りするバーには、女性の体を模したフィギュアが並び、中には乳首から液体が出るものもある。予算の関係もあるのだろうが、妙に部屋が細長い
近未来ファッションなのか、おばさんの髪型は紫色だったりするのも妙。いや、これには大阪のおばちゃんも負けていないか
おそらく近未来の風俗として描かれているだろう、全てのものが不思議とダサい。これもその時代の想像力なのかもしれない。でも、これはこれで香ばしく、独特の空気を生んでいる
何気なくCDショップ(?)に『2001年宇宙の旅』のレコード(?)が置いているのにはニヤリとした
芝居の調子もシーンによってあれこれ変わる。前半のアレックス悪行列伝の部分は演劇調だったりするが、刑務所のシーンになると急にリアリスティックに変わる。近未来なのに古式蒼然とした入所手続きだ。なんでここまで忠実に芝居させるのか不思議
また、アレックスがナンパした女の子と3Pに到るが、そのシーンは早送り。wikiによると、日本の前衛映画を見ていて、それに影響されたらしい。意外なところにつながりがあるもんだ。映像の世界には国境はないのだ
映画の原作はSF小説にあるのだが、アメリカで出版されるときには最終章が作者の意図に反して削られたらしい。映画もその部分は削られている。どうも反社会的と見なされたらしく、現実に小説に影響された知事暗殺未遂事件も起きている
それでも、勝手に削るのはどうか。アメリカが「自由の国」って昔から話半分なんだな
日本では、早川書房から完全版が今年の9月に出されたらしいので、手に入れてみたい
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文庫で出てたんだ
*2008’9/30 追記
アレックスに復讐する作家役のエイドリアン・コリが鬼気迫る演技を見せる。アレックスが歌うフランク・シナトラを聞いて、妻を自殺に追い込んだ犯人と気づいた瞬間の顔は凄まじい!ショックで死ぬんじゃないかと思ったほどだ
爆笑ものであります
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