『江藤新平』 毛利敏彦

昼間に夏の暑さが戻ってきた
風邪をひけと言わんばかりの寒暖差だよ

江藤新平―急進的改革者の悲劇 (中公新書)江藤新平―急進的改革者の悲劇 (中公新書)
(1987/05)
毛利 敏彦

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『幕末維新と佐賀藩』の著者が、最初に江藤新平を扱った新書。読んだのは、1997年改訂の増補版だ
『幕末維新と佐賀藩』(以下『…佐賀藩』)との違いは、より江藤新平の仕事に細かく触れていること。逆にいうと、この本で触れたことは『…佐賀藩』の方で割愛されている部分が多い
『…佐賀藩』では他から突出して特別な仕事を為したように見える江藤は、実は佐賀藩以来の盟友大木喬任、旧幕臣の箕作麟祥など志を同じくする仲間に支えられて、各制度を整えていた
彼は向こう見ずな理想主義者ではなく、洋化政策の先頭集団に属したデザイナー。その周囲にはそれなりの実務家、政治家が集い、土佐・肥前を中心に後の自由民権運動につながる思想集団を為していたのだ
『…佐賀藩』で膨らみ過ぎた江藤のイメージをいい大きさにまとめてくれるのが本書だ

江藤の才気走ったイメージが先行してしまうのは、ころころと職責が変わってしまったからだろう
佐賀藩の執政を任されたと思ったら、太政官政府の中弁(事務方の責任者)を命じられ、左院で民選議会を推進するや、文部省に移り国民皆教育の制度作り。そして司法卿として、司法権の独立を目指すも、参議として征韓論騒動に巻き込まれと、自らの成果を示す時間などありはしない
後世の人間は、ただその制度設計の無双ぶりに驚くのみだ
政治家としての力量は未知数なのだが、佐賀藩執政時代に行なったその急進的政策の弊害を示す部分がある

 その仕組みのうち、庄屋の公選は早速実行され、上からの急進的な改革に農民はかえって戸惑ったといわれる。
「…(中略)…郡官の立ち会える面前にて庄屋の投票をなししが、これを開票するに及んで、改名の容易に行われたる当時のこととて、氏もなく名も重んぜられぬ農民なれば、旧名を書きたるあり、綽名を書きたるもあり…(中略)…選挙の結果は、朴魯謹厚にして事務に堪えざるが如きもの多く挙げられたり。…(中略)…」(『鍋島直正公伝』第六編) (p59-60)

この後に、村を代表して庄屋になったものが役人気分となり、役人の側が村の代表としての自覚を持てと諭す箇所があり、著者も江藤ら明治の洋化政策が「上からの改革」であることの象徴だと指摘している
こういう様子を見ていると、それこそ国民の教育を向上させることがまず先決なのであって、民選の議院などは時期尚早に思える。そうであるなら、各地の旧弊を廃するために中央の独裁は不可欠であり(江藤もある程度認めている)、大久保の内務省路線にも一理以上のものがあると思う
民選議院の運動が起こって、20余年後に国会が作られるのもまず妥当な線なのではないだろうか

まだ研究が行き届いていなかったのか、「佐賀の乱」については余り触れられていなかった
この件については、『…佐賀藩』の方が詳しく書かれていて、江藤新平は佐賀藩士を鎮撫するために帰郷したのみであり、大久保による処刑は当時の法律、慣例に反することで政敵を葬る“私刑”であると、強く非難している
著者は大久保の江藤に対する嫉妬であると、情の面から説明しているが、もう一つ加えるなら国家観の違いがあるだろう
大久保には薩人であるからか民衆に対する評価がもともと低く、外遊の経験がかえって日本の後進性を意識させられたに違いない。逆に江藤は、外遊の機会を得られず、直に向こうの国民と接する機会がなかった
当時の自由民権論者には、武装革命を志す者も少なくなく、士族たちは血の幕末を引きずっていた。維新まもなく大村益次郎は暗殺され、長州藩士が蜂起したし、岩倉具視や江藤自身も襲撃され、大久保も西南戦争後に殺された
先にやらなければやられるという意識も、大久保にあったかもしれない

……と、多少フォローしようと試みても、この一件の大久保は黒すぎるのよね
『翔ぶが如く』で「佐賀の乱」をわりあい手短に済ませたのは、司馬にとっても一方の主役がこうも黒かったのが気まずかったのだろう
イデオロギー的には江藤と大久保は不倶戴天の政敵であり、本来こっちの対立がテーマとなってもおかしくないもの。西郷さんは反体制派が担ぎ上げるシンボルであり、器に過ぎないのだ
征韓論については、『明治六年政変』を読んでから一つ書いてみたいと思います

関連記事 『幕末維新と佐賀藩』
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