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『翔ぶが如く』 第1巻 司馬遼太郎

こちらも粛々と

翔ぶが如く〈1〉 (文春文庫)翔ぶが如く〈1〉 (文春文庫)
(2002/02)
司馬 遼太郎

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維新が成ったのち、太政官政府では二人の薩摩人を中心に深刻な対立が表面化していた。内務省を中心とした強力な行政機構で殖産興業を目指す大久保利通。陸軍大将として士族たちの不満を解消すべく征韓論を唱える西郷隆盛。征韓論から西南戦争まで、沸騰する明治を描く全十冊の一大長編小説

たしか大河ドラマでは、幕末時代から始まって、大久保が鹿賀丈史で西郷が西田敏行だったか
小説は明治維新後の岩倉使節団から始まり、出だしは川路利良のフランス体験から始まる。川路利良は、初代警視にして日本警察の父と言われる人物で、外遊の経験から大久保の洋化政策に沿って近代警察の創設を志す
それに対照的なのが、西郷の側近格の桐野利秋。幕末は“人斬り半次郎”で知られた彼は、士族の魂を持ち続け征韓論を後押しする
二人の存在は二種類の明治人を象徴しているようであり、その対立は大久保と西郷の反映でもあるのだろう
第1巻は、まずは時代背景と外観に触れたというところ。『竜馬がゆく』より、かなりまったりしているし、のんびりと読んでいきたい

あまり盛り上がる部分はないのだけれど、こういうのがたまにある

 列車はレールの継ぎ目にくると震動する。そのわずかな震動も、川路はこたえた。かれはニスの剥げた腰掛けの板から、わずかに尻をもちあげていた。が、ついにそのようなごまかしがきかなくなるほどに川路の便意は急を告げはじめた。川路はからだ中の血液が下へさがる思いがした。
(人間というのはなぜ汚物を排泄しなければならないのか)
(p13)

最初の章でいきなりコレである(笑)。日本警察の父も形無しだ
こうした下世話な場面を経ることで、一気に読者と作品世界の距離を縮めることができる
他にも薩摩人同士の飲み会など、間欠泉的にユーモアが散りばめてあって、なるべく読者の肩が凝らせない作家の努力が見えた

西郷の「征韓論」の背景として語られるのが、彼の大恩人にして主君、島津成彬のアジア防衛論
成彬は、欧米の帝国主義への対抗策として機先を制することを提唱した。太平天国の乱が起こっていた当時の清国は崩壊するとして、満州、朝鮮、台湾、果てはベトナムにまで進出し、漢民族に替わってアジア大陸を守るというのだ
資本主義の要請に基づく帝国主義ではないものの、安全保障を理由にした海外侵出という発想が、近代日本の通った道と近似している(日本の植民地政策は、多くは持ち出しで資本主義の損得勘定で説明できない)。「征韓論」は葬られても、その背景そのものは、生き残って後を受けた人間に大きな影響を残したということなのか
司馬はこの発想を日本の地理的条件から「そう考えても仕方ないか」としていて、きっと日露戦争までの日本を肯定的に評価することにもつながっている
こうして見ると、富野監督が「司馬って結局、右翼なんだ」と駄目出しするのも、分かる話ではあるのだ

次巻 『翔ぶが如く』 第2巻

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