『酔って候』 司馬遼太郎

ぼちぼち衰亡史に戻りたいが

酔って候<新装版> (文春文庫)酔って候<新装版> (文春文庫)
(2003/10/11)
司馬 遼太郎

商品詳細を見る


志士たちが活躍した幕末。藩主の中にも、己の才覚を信じて風雲を志す者がいた
土佐の山内容堂、薩摩の島津久光、伊予宇和島の伊達宗城、肥前の鍋島閑叟の四諸侯をテーマにした短編集
四人の君主とも、人並み以上の行動力があり、「賢侯」という評判を手にした。しかし、その割には、維新後に存在感を残せていない
時代が「有能」の概念を変えてしまった悲喜劇を映し出している

『酔って候』は、自ら鯨海酔侯と称した山内容堂
この章に割かれた容量は、本の半分近くを占め、『竜馬がゆく』の裏面を覗くような中編となっている
藩主の息子といえど、生まれは五男坊。自由の利かない部屋積みで一生を送るはずの身分だった。それが、兄が立て続けに死んだことで藩主の座が転がり込んでくる
世子として育てられていない容堂は、貴人とは思えない行動をとるものの、自在の才覚を示した。江戸時代の基準なら、じゅうぶん名君に値しただろう
しかし、時代は急転直下する。自称英雄のメッキの剥がれっぷりが最大の見どころ
タイトルの「候」は「侯」に掛けたとしたら上手い

『きつね馬』は、「賢侯」成彬の跡を継いだ島津久光
久光の相続には、母おゆらの存在が大きい。おゆらとその一派は、成彬派の家臣を謀殺し続け、成彬の譲歩によって妾腹の久光が成彬の世嗣となったのだ
意外にも小説での久光は、「おゆら騒動」には全く関知しておらず、ただただ兄の申し出に感動するのみ。西郷に「地五郎」と罵られた鈍感さから考えると、さもありなんというところ
母親が大工の娘だったことが影響しているのか、成り上がり願望は人一倍。維新回天に及んでも、自身が将軍になるつもりでいたほどだ
容堂と違って、この単純さが大久保・西郷からすれば操縦しやすく都合が良かったのだろう

『竜馬がゆく』(六巻)では久光について、薩英戦争直後にイギリスに藩士を留学させた一件を挙げて、意外にも評価していた。容堂への反動だろうか(笑)。『翔ぶが如く』ではどういう扱いになるか楽しみ

『伊達の黒船』は、伊達宗城の物語と言いたいが、実質的には黒船作りの立役者、嘉蔵が主人公
宇和島の殿様も紹介されているが、嘉蔵とは顔を合わせることもない。殿様の見栄から、人生が一変した町人の物語なのだ
嘉蔵は汽船の製造になくてもならない技術者でありながら、下級の町人という身分ゆえに武士はおろか、同じ町人からも蔑視を受け続けた。見るに見かねて名君が・・・という場面もない
江戸の身分制の不条理が裏テーマなのである
「石高不相応の気罐(ボイラー)でござる」。ボイラーの大きさが不満な嘉吉に、村田蔵六がした返事が笑える

『肥前の妖怪』は、雄藩でありながら旗幟を鮮明にしない不気味さに「肥前の妖怪」と言われた鍋島閑叟
容堂や久光と違い、閑叟は生まれながらにして世子として育てられた
そんな閑叟に特徴的なのは、大の潔癖好き。倹約家ながら一世一代のぜいたくとして、どこでも水で手が洗える屋敷を建てさせているほどだ
技術に対するリアクションはかなり現代的で、アームストロング砲など最新の兵器を取り入れる一方、尊王攘夷の思想戦を一切評価しなかった
そのため、幕末最強の洋式陸海軍を持ちながら時勢に先んじることができず、維新後の肥後人は薩長の後塵を拝することとなる
そもそも閑叟には、技術への関心はあっても、権力に執着がない。最初から備わっているものを、求める必要がなかったのだろうか
閑叟はあっさり、自藩の優位を手放したことで、肥後人の地位が低くなったわけで、大隈重信が悪し様に言うのも分からなくもない。彼の無欲と早逝が佐賀の乱につながったことを考えると、何が最善かというのは、今から考えても難しい
(この一行は、各記事の最後に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)

コメント

コメントの投稿

非公開コメント


(この一行は、各ページ下部に固定表示するサンプルです。テンプレートを編集して削除もしくは非表示にしてください。)
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
カテゴリ
SF (24)
RSSリンクの表示
リンク
FC2 Blog Ranking
ランキング
アクセスアップ!?
検索フォーム
はてな
この日記のはてなブックマーク数
タグランキング

サイドバー背後固定表示サンプル

サイドバーの背後(下部)に固定表示して、スペースを有効活用できます。(ie6は非対応で固定されません。)

広告を固定表示させる場合、それぞれの規約に抵触しないようご注意ください。

テンプレートを編集すれば、この文章を消去できます。