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【DVD】『皇帝のいない八月』

wikiを見てみると、本作は押井作品の自衛隊ものに影響を与えているらしい。
ということは、『皇帝のいない八月』→『パトレイバー』シリーズ→福井晴敏“ダイス・シリーズ”の系譜が成り立つかな

皇帝のいない八月皇帝のいない八月
(2006/04/27)
渡瀬恒彦吉永小百合

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憲法改正を目指し自衛隊の過激分子が起こしたクーデター事件を描いたポリティカル・フィクション
復権を狙う大物政治家や将官が黒幕として用意されていて、さながら“二・二六事件の再来”といった内容だ
面白いのは、アメリカがクーデターに絡んでいるところ
今の日本人にはピンとこないけど、公開された70年代は、CIAが世界のあちこちで親米政権を建てるべくちょっかいだしている時期。世界全体で見ればあり得ない話ではなかったわけだ
原作は小林久三の小説。アメリカの陰謀というと松本清張を思い出すが、その系譜にあると思っていいのかな

登場する人物は骨太でコワモテ。視点となる人物の石森(=山本圭)や杏子(=吉永小百合)はまだまともだが、他の関係者はみな一癖二癖あるものばかり
事件解決の指揮をとる内閣情報室長利倉(=高橋悦史)は冴えすぎる頭脳から冷酷な決断を出すマキャベリストだし、クーデターの部隊を率いる藤崎(=渡瀬恒彦)は栄光ある死を目指す狂った軍人だ
藤崎の妻である杏子の父は自衛隊警務部の江見(=三國連太郎)で憲兵上がり。彼もまた自衛隊を代表して事件の解決に取り組む。取り調べで相手を死に追いやる非情の人だが、娘の命が絡むと泣いて騒いだり人間味を見せる
とにかくみんなのキャラが太く立っている。特に利倉の怖いほどの冷酷さには恐れ入った

場面の構成は、石森、杏子、藤崎とその部隊がいるブルートレイン「さくら」と、陰謀渦巻く東京に分かれるが、どちらも最後まで緊迫。「さくら」には他の乗客たちもしっかり捉えられていて、藤崎が右翼の街宣車ばりの演説をしても乗客の反応は「ハァー?」。藤崎たちの独善ぶりが際だつ効果をあげている
ちなみに「さくら」には、何故か渥美清(寅さん?)が乗客役で出ているw
「東京」の場面には、クーデターの黒幕である大畑現首相佐橋の駆け引きが裏にあり、利倉は彼なりの意図で大畑を仕留めようする。最後までどうなっていくか、目が離せない
ただ、「さくら」での攻防からラストまでの締めが峻烈すぎて、唖然とした・・・
2時間超の映画だが、それを感じさせないところはさすが『人間と戦争』『白い巨塔』を撮った山本薩夫といったところ
1978年公開でぷんぷん「昭和」の匂いがするが、日本では希少なポリティカル・フィクションの名作だろう

時代を感じてしまうのが、吉永小百合演じる杏子の役回り
無茶苦茶なことをする藤崎に少しでも男を立たせるために、「彼の純粋さに惚れたの」みたいなことを言わせる演出は今じゃ通じないだろう。そして藤崎と杏子との出会いがまたえげつない
藤崎に対して何一ついい印象を持てない。「真面目」「純粋」が価値を持った昭和なら、もう少しマシな人間に見えたのか。渡瀬恒彦の演技そのものは非常に迫力があっていいのだけど・・・
利倉の計算された冷酷か、藤崎の狂える熱情かを問われると、どう見ても前者に分を感じる。もう少し、藤崎側が気を配ってどちらか際どいところまで行ってくれるともっと良かった
本作では、利倉がキレイに無双して終わってしまっている。それも一つの味ではあるのだが


*2009'11/4
 『皇帝のいない八月』というクラシックの曲を探していたんだけど、あれは小説内の架空の曲らしい。わざわざ架空のクラシックを作って作戦コードの由来にするなんて、ずいぶん手が込んでいる
 あと、若い小百合さんの濡れ場が短いながらもありますぞ。『北の零年』の方では自重して欲しかったけどw


*2012’12/21
 「皇帝のいない8月」って、天皇の聖断のなかった8月、という意味だと超今さら気がついた(苦笑)

皇帝のいない八月 (新風舎文庫)皇帝のいない八月 (新風舎文庫)
(2004/04)
小林 久三

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2010'8/22 修正
2012/12/21 再編集

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