『文明が衰亡するとき』 高坂正堯

衰亡史に入る前に、この一本
サンプロの常連だった高坂先生は、前原外相の師匠筋でもあった

文明が衰亡するとき (新潮選書)文明が衰亡するとき (新潮選書)
(1981/11)
高坂 正尭

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衰亡を考察することとは何か、という衰亡史の意義から始まり、古代ローマ、中世のヴェネツィア共和国、現代のアメリカ社会の興亡を論じつつ、日本の将来を占う。知的散歩と称しながらも、歴史の先人たちが衰退とどう向き合っていたか、いつか来る国家としての老いにどう立ち向かうべきか、追求した歴史と今を直結させる名著

10年ぶりに再読してみたが、全く古びないどころか、むしろ輝きを増しているとさえ感じた
いかに衰退と向き合うか。まさに今こそ、考えられるべきテーマなのだ
著者は国際政治学が専門なのだが、その歴史感覚は一流の史家と言っていい
ローマ、ヴェネツィア、アメリカと時代も場所も大きく違うところから衰亡の秘密を引きだし、バブルが始まる前に日本の衰亡を論じてしまうのだから・・・
ローマでは各種の衰亡論を比較しながら衰亡を考えることの意義を説き、ヴェネツィアでは物理面からその衰亡を謎解きして見せ、アメリカでは都市計画から社会の空洞化を指摘するが、共通するキーワードは大衆化
体制の基礎が固まるとその理念を下層・外側にまで広めるが、それがかえって体制のバランスを崩してしまう。そしてそれはある意味で不可避的であると著者は考える
一面ではやや諦観的な趣もある史観なのだが、衰えに立ち向かう気構えと姿勢を歴史から学べという言葉は温和な文体ながら熱い

序章から名文である

 そして、衰亡の原因を探求して行けば、われわれは成功のなかに衰亡の種子があるということに気づく。多くの衰亡論の主題はそうしたものであった。たとえば、豊かになることが、人々を傲慢にし、かつ柔弱にするので文明を衰頽に向かわせるということは、何回も何回も論じられて来た。『国富論』の著者アダム・スミスでさえ「野蛮国民の民兵」が「文明国民の民兵」に対して「不可抗的な優越性」を持つと書いた。・・・(略)・・・同様に、スミスのやや先輩のデヴィッド・ヒュームは、芸術や科学について、それらは完成すれば衰頽に向うと論じた。一旦完成されれば、次の世代はより秀れたものを作りうるという自信を失い、公衆も新しいものに関心を示さなくなるからである。
 だから、衰亡論は、なによりもまず、成功した者を謙虚にするであろう。・・・(p8)

こういう文章がさらりと出てくるのだから、その博識には参る
アダム・スミスのところは、日本と新興国の労働条件なんかを連想してしまった(ヒュームの論も、あらゆるジャンルに当てはまる傾向だろう)

選んだ文明がローマ、ヴェネツィアとくれば、塩野ファンはまずピンとくるところ。著者も『海の都の物語』を高く評価していて、ヴェネツィアの項では幾度となく引用している
とはいえ、ヴェネツィアの衰退を通商国家の脆弱性と保守化から論じ、「不可避的」としつつも真正面からあらゆる分野の消極性を指摘していて、語り口が異なる。環境破壊から造船のコストが上がって、イタリア諸都市は他の大国に遅れをとったという論も目から鱗だ
こういうジャンルは触れる著作家が数少ないので、ついつい特定の人の見方に依存しがちもの
ローマ、ヴェネツィアとも、多方面から検討されているので、ナナミンの語る歴史を相対化するにも有効な一書だと思う

アメリカに関してはレーガノミックスの真っ只中であり、著者にとって現代進行形の対象ではあるのだが、都市の「郊外化に着目した点が鋭い
アメリカの郊外化は、アメリカ人の理想である「田園都市」に端を発し、中上流層が先を争って郊外に住み、国の制度と都市計画もそれを後押しした
しかし、郊外化した結果、都市中枢にスラムが生まれ、所得別に人が住み分ける同心円状に広がる階層分布が残った
日本でも本書が出版された1980年以降に「郊外化」が進み、それに付随する問題を今なお社会に残している。60年代のアメリカは、明日の日本の姿だったのだ
このように著者の切り口は、今の日本に驚くほど通底する
最後の、日本を通商国家と規定し、だからこそ持つ弱点と保つべき能力を論じた箇所は必読。前原外相を始め、各党の政治家にも読み直して貰いたいところだ
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