![]() | ソ連帝国再建 (新潮文庫) (2000/07) トム クランシースティーヴ ピチェニック 商品詳細を見る |
新大統領が誕生したばかりのロシアで、選挙に敗れた内相がクーデターを起こそうとしていた。内相は欧米化を嫌う国家主義者やマフィアと手を組み、ソ連帝国の再興をもくろんだのだ。アメリカの極秘情報機関“オプ・センター”は、ロシア内の不穏な動きを察知して秘密裏に潜入阻止作戦を企むが・・・
トム・クランシーのシリーズらしく、全編ハリウッドなポリティカル・フィクション
“オプ・センター”は国民に公表されていない諜報機関で、福井晴敏の“ダイス”と違い、国会議員への報告義務、作戦の事前承認が必要であり、CIAをコンパクトにしたような組織だ
序盤の展開は派手であり、舞台も広い
敵陣営の作戦は、アメリカ国内にロシア諜報機関による爆弾テロが起こし、それによってアメリカの表だった政府機関を釘付け。その隙にポーランドとウクライナで騒動を起こし、ロシア軍を軍事介入させると同時に、ロシア政府も乗っとるという壮大なもの
それを防ぐために“オプ・センター”は敵の資金源を押さえ込む作戦をとる。その資金は太平洋を越えてウラジオスットクから入ってくるので、ちょうど世界を横断するような規模なのだ
とまあ、その割にそれを阻止する作戦自体は、こじんまりとしている(敵が実行前に資金を確保していたら、どうしたんだろう?)。戦争を防ぐという大目的を小さい組織に当たらせるのだから、多少のご都合はやも得ないところか(笑)
“オプ・センター”の構成員は、みな任務に忠実な優等生たちだ。誰もが国家と国民に忠誠を誓い、自らの任務を疑うことはない。祖国を疑うこともない
“オプ・センター”もそのまま理想的なCIAと言ってよく、このシリーズ自体も諜報機関の理想小説なのだろう
余りにも大規模になってしまったCIAは、数々の失態を犯し機能的な組織とは言い難くなってしまった。そんな現実に対し、俺たちアメリカ国民の税金で養われている諜報機関はこうであって欲しいんだよ、というアメリカ人の願望が透けて見えるようだ
今回の作戦自体は、敵のテロに対し潜入作戦を展開するという、宣戦布告なき戦争という趣で、介入主義の度合いが濃い。小説の一節に、ソ連はバルバロッサ作戦の教訓として戦場を国外にする攻撃主義を身につけたというものがあるが、それはアメリカにも当てはまるように思われる
実際のCIAは?→『CIA秘録』
この手の小説は専門用語の解説が長いという先入観がもってしまうが、この本に関してはさにあらず
簡便して要を得た説明で、文章のリズムを崩していない。文章そのものもさすがベストセラー作家で、誠実すぎる登場人物、余りにベタなハリウッドな展開をやっていても、すっかり読まされてしまった
登場人物にウィットに富んだ会話をさせるのは、向こうの売れっ子作家の条件なのだろうか
ドライな描写と効果的な人情劇のバランスが絶妙にとれている。しかし、ポリティカル・フィクションとして優等生すぎて、少しアクがたりない
あくまで娯楽作品に徹して理想小説にとどまっている作品だ
この小説の原題は、“MIRROR IMAGE”つまり“鏡像”
それは直接的には、“オプ・センター”と同様の秘密諜報機関がロシアにあり、“オプ・センター”の長官ポール・フッドのような愛国者がロシア側にもいたということを示している
しかし、もう一つ意味がある。それはソ連のような帝国は崩壊したように思われるが、混乱するロシアはソ連の“鏡像”のような恐ろしい帝国になるのでは、という不安を表明しているのだ
チェチェン問題を皮切りにした国内マスコミの統制、諜報機関の暗躍を見ると、当たらずとも遠からずか
前作 『ノドン強奪』
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