『全体主義の起源 3 全体主義』

なんとか3月中に読むことはできた
しかし、濃い
本来なら1年使って読み砕くべき本

全体主義の起原 3 新装版 (3)全体主義の起原 3 新装版 (3)
(1981/07/01)
ハナ・アーレント大久保 和郎

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この巻でついに「全体主義」そのものの核心に入る
前巻、前々巻の流れで、「反ユダヤ主義(イデオロギー)+帝国主義=全体主義」と安易な図式を思い描いたが、本巻で語られるのはそんな単純な方程式ではない
様々な問題が堆積するうちに、社会の底が抜けて地獄の入り口が開いたと喩えられようか
アーレントが全体主義のモデルとしているのは、ナチス・ドイツの「第三帝国」ソ連の「スターリン体制」(本書ではボルシェビズム)であって、イタリアのファシストなどは政権掌握後に普通の独裁政権になったので、全体主義とは見なされない。戦前の日本もおそらくそうだろう
アーレントの語る「全体主義」の特徴をざっくり箇条書きすると・・・

・全体主義運動の原理はテロリズムである。構成員に絶えず、執行人と犠牲者に割り振ることで存続している
・全体主義運動にとって、指導者の無謬性は絶対条件。それによって、運動内の階級が平準される
(誰もがテロリズムにより執行人と犠牲者になりうる)
・全体主義は専制政治とは違い、構成員の内面も支配する
・全体主義にとって、「運動」が本体であり、「国家」はファサード(障壁)である
(だからヒトラーは戦争末期にすら、人種絶滅政策にこだわった)
・党内でも同じように、幹部が本体で、党員はファサード(障壁)となる。軽い党員は世間の評判を良くし、幹部には党員こそ世間であると誤解させられる
・体制内のテロリズムを止めるのは、テロ対象の枯渇、人手不足

本書が書きあげられたのは1951年であり、その後「第三帝国」「スターリン体制」の内部が明らかにされていく中、アーレントが考えたほどの「全体主義」ではなかったことが分かった。しかし、「全体的支配」などの概念は確かに現代政治にある最悪の可能性を捉えていると思う
全体主義の実現に不可欠なのがテロを続行できる数百万の人口で、人口過多なアジアにおいてその実現の可能性が高いという予見はズバリ当ててしまっている(中共の文化大革命カンボジアのポルポト政権・・・)

全体主義運動を結実させたのは、階級社会の崩壊で生まれた「大衆」だ
階級に属さない彼らには、利益を代表する政党はなく、階級に根ざした関係を築けない

・・・大衆は目に見える世界の現実を信ぜず、自分たちのコントロールの可能な経験を頼りとせず、自分の五感を信用していない。それ故に彼らには或る種の想像力が発達していて、いかにも宇宙的な意味と首尾一貫性を持つように見えるものならなんにでも動かされる。事実というものは大衆を説得する力を失ってしまったから、偽りの事実ですら彼らにはなんの印象も与えない。大衆を動かし得るのは、彼らを包み込んでくれると約束する、勝手にこしらえ上げた統一的体系の首尾一貫性だけである。あらゆる大衆プロパガンダにおいて繰り返しということがあれほど効果的な要素となっているのは、・・・論理的な簡潔性しか持たぬ体系に繰り返し時間的な不変性、首尾一貫性を与えてくれるからである・・・(p80)

むむむ、これは戦前の日本以上に、現代にあてはまるではないか
小泉首相によるワンフレーズ選挙、無党派層が主流となった衆院選の圧勝劇、会社に属せない労働者の増加、国民皆保険・皆年金の崩壊・・・社会のあちこちで足場が崩れていて、どこにも属せない「大衆」が溢れるように生まれている
アーレントはブルジョワが政治に弱肉強食の論理を持ち込んだことを指摘していて、これもそのまま「新自由主義」路線にあてはまっている。今ですら、財界は安価な労働力を獲得するために移民緩和に動いてさえいるのだ
天皇制のある日本で「第三帝国」型の全体主義が生まれるとは思えないけど、オウム的な吹き出し方は充分考えられそうだ

他にも現代の問題と重なる箇所は多い
組織、構成員のところを読むと、北朝鮮の可笑しさなんかも分かってくる
こっちの常識から考えると意味不明であっても、向こうとしては奇妙に首尾一貫しているのだ。外交一つにも複数の機関があって、どれが本命か外部の人間にはサッパリ分からず、最後は指導者そのものに働きかけなきゃならないとか、そのまま当てはまるところも多い
とにかく全編に渡って濃いので、書いていくときりがない・・・全体主義を考えることは、現代の人間自体を考えることになるかのようだ
強制収容所の存在意義イデオロギーの仕組みなども凄かったが、やはりラストのどうして人間は全体主義を作ってしまったかの命題に引かれる。いつから人は自分が無用だと思えてしまう社会を作ってしまったのだろうか
悲観的な話が多い本書だが、最後は「人はいつでも新しく始めることができる」という暖かいメッセージが締め
国家単位のことから個人の精神のことまで幅広く取り上げられて、現代のすべてを語っているかのような大著だった
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コメント

素晴らしいです
すごいまとめですね。とても分かりやすいです。

しかし、確かに現在も予知したような内容でしたね。親父(富野さん)が熱中するわけだ。あー早く富野さんの新作みたいです。

ごめんなさい。こういう程度の感想しか書けないのです^^; 内容は数年前一度読みましたが、内容の難しさと翻訳の悪さもあいまって、あまり覚えてない…。
Re: 素晴らしいです
そうまで言われると、恐縮します
余りにも書かれていることが深いので、理解できる範囲のものを抜き出すの精一杯でした
ブログで感想を書くのに、これほど不向きな本もありません(笑)

富野監督はアーレントに嵌る以前から、全体主義的なものを充分射程に入れていたとは思うんですよ
これを読まずにコスモ・バビロニアやザンスカール帝国を創造したことは驚きです
アーレントが自分の考えてきたことを補強してくれたというところじゃないでしょうか
おそらく次作で描かれる全体主義の元になるのは、“エコロジー”なんでしょうねえ

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