『機動戦士ガンダムUC 10 虹の彼方に(下)』 福井晴敏

ネット配信は来年2月。PSPかPS3が要るらしい

機動戦士ガンダムUC (10)  虹の彼方に (下) (角川コミックス・エース 189-12)機動戦士ガンダムUC (10) 虹の彼方に (下) (角川コミックス・エース 189-12)
(2009/08/26)
福井 晴敏

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想像以上にカタルシスのない最終巻だった
局所的に驚かされたところはあっても、話の起伏を感じないのだ。これまでは単巻での面白さはあったのに、それすらない
文章の質の問題ではなく、作品の構造の問題。キャラクター、設定、プロット構成のまずさが最終巻に一気に噴き出したということなのだ
そのため、本来は最も盛り上がるべきラストも、なんの感慨も抱けない。そこに到るまでのプロセスがなってないから、キャラクターが生きていないのだ
作者は今まで映画の尺を基準に作品を書いてきた。初めてのシリーズもの、それもアニメ原作でだいぶ勝手が違ったのだろう。予定したプロットを消化していくだけで精一杯に見える
サンライズ、ガンダムエースの編集はもう少しフォローしてやれなかったのだろうか
プロジェクトの体制そのものに不安を覚える出来である

<極・ネタバレゾーン突入!>


1.福井ガンダムのニュータイプ

最終巻では、作者のニュータイプ観がモロに反映されている
主人公がカミーユに近いことからも、この作品はZガンダムの影響が濃い。それも新訳ではなく、旧作のテレビ版
最終段階でバナージはユニコーンと一体化し、肉体から離れた意識を持つ境地に到る。その状態で彼は世界中の人々の生の考えに触れる。これは明らかにテレビ版のニュータイプ観の延長線にある
富野監督はZガンダムの設定をまとめる際、ニュータイプの進化形である「ギャザー・スタイム」という境地を想定したそうだが、まさにそれを再現したかのようだった
富野監督はその後、精神優越のニュータイプ観を封印したが、作者が旧ニュータイプ路線の復興を試みたといえる
テレビ版Zでは、ニュータイプとして極めることと引き替えにカミーユは廃人になった。しかし、バナージはニュータイプの境地を味わいつつも、元の鞘に戻る雰囲気だ
このニュータイプに対する楽観さは、テレビ版Zとは大きく異なる。人は進化すればカミーユ以上の領域に出入りすることができる。この作者は、右肩上がりの世界観を持っているのだ
ただ、精神が物質に優越する設定だからといって、コロニーレーザーをオーラで止めるプロレス演出(!)は頂けない。精神の力が物質に転化して作用するというのでは、超能力すぎて興を削ぐ。Zのハイパー化どころじゃないぞ


2.宇宙世紀の改変

ニュータイプに対する楽観さは、ラプラス憲章の設定にも表れている。隠された条項は「宇宙に適応した人類に優先的に政治に参画させる」というもの
いわば、宇宙世紀の始まりからニュータイプの出現は予見されていたというのだ!
憲章は国際条約のように、代表が国に持ち帰って批准しなければ効力はない。密室で決めていいものではないし、草案だって調印前には広く公開されるものだ
ポリティカル・フィクションとしては大きな風穴が空いてそうだが、平和憲法にも擬せられたこの憲章を、ミネバはラストの演説で「善意ですから」と肯定する
ガンダムUCには、希望というより「楽観」が満ちている


3.理想化された父親

最大の楽観は、「父性に対する楽観」だろう
父カーディアスは良かれと思ってバナージをガンダムに載せ、祖父サイアムは孫を信頼して箱を託す。そして、バナージはあまり疑念、わだかまりを持たずに、それを受け入れる
父性に対する期待、渇望は従来の福井作品でも見られたが、ここまでストレートに表現されたことはない
富野作品では、親子は対立するのがむしろ常態として描かれる。この楽観も旧ガンダムと一線を引く部分だろう
ただ、父子間の葛藤のなさがバナージのキャラを薄くした印象は否めない。結局、親父たちの引いたレールを予想通りに駆けていったようにしか見えなかった
ヒロインのミネバも、お姫様キャラが予定調和を演じただけであり、ラストの演説も棒読みにしか聞こえなかった。これでは今のガンダムを“子供のガンダム”と笑うことはできないだろう
(そもそもラプラス憲章をネオジオンの人間が訴えても信憑性ゼロなんだよな)


このシリーズの見どころは結局、精緻に描かれたガンダム世界に尽きる。メカや戦闘に関しては、期待以上の描写があって何度も唸らされた
本巻だって、その質自体はまったく落ちていない
問題はやはり、シリーズ構成だ。前巻と本巻は感動シーンが立て続けに書かれても、まるで連動していないから感動がない
ラストにそれぞれの結末を明らかにしなかったのは意図的だろうが、途中で作者が燃え尽きたようにも思える
なんとも、痛々しい終り方だった


全体的に余裕のなさが目立つなか、遊んでいたのがサイアムの基地「メガラニカ」だ
コロニーから切りはなされた姿は、なんと“タイヤ戦艦”(笑)。それもVガンのようなバイク型ではなく、タイヤそのものなのだ!
アンモナイトとも作中に書かれるが、まずVガンからだろう
コロニーの中に戦艦が隠れている、なんて発想は、ヤマトの彗星帝国を彷彿とさせるものだ
作者のオタク教養はなかなか幅が広い(本当か)

前巻 『機動戦士ガンダムUC 9 虹の彼方に(下)』

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