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『真説・長州力』 田崎健太

幼少期から2015年まで



長州力とは、いかなる存在だったのか。数十人の証言からその歴史をたどる


2015年長州力が現役のうちに出された半生記。いわゆる立志伝ではなく、多くの証言から光と影を描くノンフィクションである
プロレス関係者の証言はその時々で、内容が変わるので、著者も長州力の話を疑ってかかっていた
しかし、実際に長州の証言には嘘がなく、“謎掛け”のような言葉で投げかけてくる。本書はその謎を解くべく、走り回った著者の記録ともいえる
関係者が書いた自伝や告白本は信ぴょう性が怪しく一番信用できるメディアがまさかの「東スポ」(!)だったという。昨日の試合を翌日の記事に出すので、加工する時間もなく生の空気を伝えてくれたという
知られざるアマレス時代、革命戦士の誕生、現場監督時代、WJの挫折……と長州自身のことにくわえ、UWFの誕生と変遷といった周辺のことまで詳細に触れられるので、まさに一冊でプロレス史ともいえる内容なのだ


ミュンヘンオリンピックの韓国代表


山口県徳山市に生まれた長州こと、吉田光雄は、桜ヶ丘高校のレスリング部に進学。恩師・江本孝允の働きかけで、インターハイへ出場、さらには韓国籍ながら長崎国体へも出場し、75キロ以上級で優勝する
専修大学でも全日本学生選手権でグレコローマン90キロ級を優勝したが、国籍から日本代表としてオリンピックには出られない
吉田を専修大に引っ張り込んだ鈴木昭三監督は、在日本大韓体育協会の会長・町井久之へ頼む
町井自体も専修大出身だったが、鈴木の熱意からソウルの選考会に吉田を押し、結果を残したことからフリースタイル90級の韓国代表となる
しかし、兵役経験者もいる他の代表選手たち、言葉の問題、減量に失敗したことから1勝2敗で敗退。「黒い九月事件」の煽りを受けるなど、不完全燃焼に終わった

町井久之は終戦直後の混乱した時代に、愚連隊を結成。60年代には構成員1500人誇るようになる「東声会」を組織した
山口組の田岡一雄と盃を交わし、右翼のフィクサー、児玉誉士夫の側近となって、日韓の水面下のパイプ役として暗躍した



“革命戦士”への道

営業本部長・新間寿にスカウトされ、新日本プロレスに入団したが、競技とプロレスの違いに悩む。レスリングは相手の背中をつければ終わりだが、プロレスはそこから始まり、勝てばいいという単純な世界ではない
猪木に「長州力」と命名されたが、比較されたジャンボ鶴田と差をつけられ、年の近い藤波辰爾に、タイガーマスクの登場に影が薄くなっていく
そこから転機になったのが、1982年の「噛ませ犬事件
はっきりとは言わないものの、長州も仕掛け人は猪木としている。当事者の1人、藤波も猪木の懐刀だった新間も知らぬサプライズとして、長州は仕掛けに乗った
その後アメリカへ渡航し、マサ斎藤と行動をともにする。現地でヒールを演じるマサから、プロレスラーとして覚醒、自立した
アントン・ハイセルの不振から来た、1983年のクーデター事件の余波から、大塚直樹によるジャパンプロレスの旗揚げに加わり、馬場の全日本プロレスを舞台に旋風を巻き起こす


新日現場監督とWJの旗揚げ

ジャパンプロレスは売上が上がらないわりにレスラーのギャラが高止まりし、バブル経済から事務所の土地問題が持ち上がる。土地所有者の竹田社長、大塚ともめて長州は大会を突如として、欠場
長州は「全日本と新日本を天秤にかけた」といい、1987年、マサ斎藤に従って新日へ復帰する
同じく舞い戻っていたUWF勢は、前田日明が長州の顔面を割ったことで解雇され、団体のど真ん中へと近づいていく
89年に坂口社長就任で、長州は現場監督を任され、越中詩郎を側近として、UWFインターとの対抗戦などで辣腕を振るった
98年に引退するものの、新日本の興行が振るわないことから、新日は大仁田厚の参戦に踏み切り、それに応えるかのように現役復帰
しかし、猪木の格闘技路線により、武藤敬司らの全日移籍をきっかけに、悪い意味で伝説(!)の団体「WJを旗揚げす
「WJ」についてはいろんな媒体で語られているとおりだが、取材で油断ならない人間とされているのが、『地獄のアングル』で有名なゴマシオこと、永島勝司
『地獄のアングル』の中でも矛盾する部分があり、マンガ化したときに一部を訂正するなど、記憶を改ざんするプロレス関係者の典型として描かれている


大仁田劇場の真実

脇の話でも驚かされることは多い
特に大仁田劇場は見ていた人間からは衝撃で、テレ朝のアナウンサー、真鍋由との絡みが完全なアドリブだったという。特に長州力にこだわりはなく、受けてくれれば猪木でも良かった

「俺がやってきたのは、大仁田厚という素質がないプロレスラーをいかに開花させるかということ。プロレスというエンターテイメントは、力ある者だけがのし上がれるという格闘技とはまた違った不文律がある。俺はプロレスラーとして“強い”象徴ではない。長州力は違う。自分とは対照的な長州力を電流爆破に入れることができた。長州さんをリングに上げるだけで、俺の中では長州戦は終わった。上げるだけでよかったんだから。もし長州さんが復帰せずにあのまま引退していたら、長州力伝説になっていた。俺は伝説にさせたくなかった。長州伝説で終わらせないための悪巧みだったんだよ」(p369)

猪木は大仁田を「死なない男」「負けても勝つ男“毒物”と見なし、長州の復帰に「第ニの引退をする機会」を失うと警告したが、その懸念は見事に当たったようだ


長州の言葉は、ぶっきらぼうで言葉足らずながら深い
波は大勢でなければ起こせないが、波の上に乗るのは1人というのは、いろんな世界であてはまるのではないだろうか
エピローグで、猪木について触れている。かなり難解なのだが、猪木のプロレスは「すべてがシュートとし、長州が重視していた「(客への)インパクトと通じていて、長州のなかに猪木は深くを根を下ろしていることを伺わせる
本書はインタビューにプロレスメディアのライターは入っておらず、良くも悪くも業界と一線を画してるが、それだけに透明なフィルターで虚像を背負う人間に迫ることに成功している


関連記事 『地獄のアングル-プロレスのどん底を味わった男の告白』


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