世界各地に謎の宇宙船が現れた。言語学者のルイーズ・バンクス(=エイミー・アダムス)は、ウェバー大佐(=フォレスト・ウィテカー)に連れられて調査にあたる
黒い“シェル”の中にいる地球外生命体「ヘプタポッド」は、触手から吐かれた墨から彼らの言語が目指されたが、長期戦から各国の世界情勢も逼迫し、宇宙戦争の危機が迫るのだった
かなり不思議な映画だった
『ブレードランナー』の続編に、『デューン 砂の惑星』シリーズのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品で、もとはテッド・チャンの短編小説『あなたの人生の物語』を原作とする
異質な宇宙人が登場するフィクションは、H・G・ウェルズの『宇宙戦争』しかり、「対立」の関係に発展しやすいが、本作は異質なものへの「読解」と「対話」がテーマとなる
その分、大ダコ星人「ヘプタポッド」の宇宙船との往還が続いて、かなり地味なシーンが続き、他の大作映画に比べてセット代も節約できたんだろうなあ、と違うところに目が行ってしまった(苦笑)
兵士の暴走でC4爆弾が仕掛けられるが、視聴者にとっては助かるアクセントだ
話をもたせているのは、唐突に挿入される“幻の娘”との回想シーンで、時空を遡行するかのような感覚に惹きつけられる
以降はネタバレになってしまうので、ご注意を
ルイーズが産んでいないはずの娘が出てくるのは、「ヘプタポッド」の表意文字を解読したことに端を発する
タコ星人は時間を、直線的に流れるもの(因果論)ではなく、どうなるかが決まっているもの、計画されたもの(目的論)として認識されており、彼らの文字を解読するうちに、ルイーズは(決定された?)未来を見る能力を得た
この能力を駆使して、ルイーズは宇宙戦争勃発の危機を回避してしまい、アニメもびっくりというデウス・エクス・マキナである
ここで問題になるのは、映画の冒頭から赤子を生み、娘が育ち、病に死ぬ場面が描かれるところ
実はこれ、赤子を産んだ時点から、娘との未来を見ているのだ
運命は変えられないものなのか。ラストはハンナと父親となる男に口説かれる場面で終わるが、後の別れを予期して抱きしめ合うシーンは、ハッピーエンドなのに苦さが残る
少し気になるのが、人民解放軍のシャン上将
ルイーズは彼と交渉することで、宇宙戦争の危機を収束するのだが、本来は人民解放軍の将軍を説得してどうにかなるものではない
民主主義国家でも最高司令官は国民の代表であり、中国の人民解放軍だって共産党の強力な統制下にある。説得の対象は、ときの国家主席だか党主席だろう
なんで、間違った考証を通したのかというと、おそらく中国での上映を視野に入れてのことと思われる。フィクションであれ、自国の元首が他国の学者に説得されて靡くというのは、ちょっと許されない
そんな政治的事情により、浪花節で世界が救われたのであった