『実録!関東昭和軍』は、『ギャンブルレーサー』の田中誠による高校球児のヒューマン・コメディ。『週刊モーニング』で2006年から2008年まで連載した
いわゆる普通の野球漫画ではない
野球そのものの技術には触れず、球児たちの人間関係、監督・コーチからのしごき、先輩からの憂さ晴らし・雑用に、ひいては高校野球に関わる業界の闇にまで、切り込んでいくのだ
練習してたら監督からパンチ、練習後には2年生からケツバット、と陰惨な場面が続くのだが、それを見せられるようにしているのが、コミカルな作画とブラックユーモア!
ジョークの種類としてはストレート勝負ながら、言っているキャラクターの人間性とシナジーして、ひきつったような笑いをプレゼントしてくれるのだ
一年のなかには、喧嘩の強さと野球センスから山棟蛇(やまかがし)、キレると手を付けられない大砲・鶴嘴(つるはし)といった強烈な人間がいるが、だいたい視点を担っているのが、常識人の桶谷
彼の語り口調は「……であります」と兵隊のそれで、監督の指導、地獄の寮生活を淡々と語っていく
のところで、参考資料として『のらくろ自叙伝』が挙げられていた。『のらくろ』のふわっとしたセンスも、本作に影響を与えているに違いない「とにかく関昭野球部というところは、言い訳の類は、一切通らないところであり、世間一般的に考えられている正義だの真実だのというものも、ここでは通用しません」(p81)
平成の高校野球は、いまだ軍隊であったと言わんばかりで、連載当時はは「高校野球の一部を全体のように表現している」と、抗議があったそう。作者から言わせると、これでもかなり控え目に書いていたそうである
そんな関昭にも、一条の光が差し込む場面がある
夏の甲子園へ向けての地方大会で、ベンチ入りメンバーが決まったところ、それまで足の引っ張り合いをしていた2年生たちが、ベンチ組を応援しだすのである
「関東昭和が簡単に負けてしまったら、そのベンチにも入れなかったオレたちの評価が下がってしまう」。自分の評価を上げるためにも、試合に出る人間には頑張って欲しい
個人個人のエゴがチーム全体を後押ししてしまう、チームスポーツならではの不思議な魅力も表現されている
次巻 『関東昭和軍』 第2巻