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『刀伊の入寇』 関幸彦

盆前後は、コロナやら何やらで更新が空いてしまった
ぼちぼち頑張ります



1019年、摂関政治の全盛期に起こった刀伊の入寇。それが日本にもたらした影響を探る

教科書のなかで、ひっそりと書かれているだけの刀伊の入寇
日本古代・中世で数少ない対外戦争である「刀伊の入寇」は、藤原道長が摂関政治を確立した時代に起こっており、その後の武家政治と年代が離れていることから、その位置づけが宙に浮いていた
本書は、刀伊(女真族)の侵略に対する王朝政府の対応に、律令国家による徴兵制度から、封建制における武士の動員への過渡段階を見出す。自立した武家への前身として“兵(つわもの)”と呼ばれる存在があったのだ
武士の“起こり”とされるのは、平将門・藤原純友の反乱(承平天慶の乱)とその鎮圧した武人たち。その中心になったのは、高位の貴族に仕える軍事貴族たちで、武装した配下ともに乱を鎮圧し、地方に土着化して有力者としての力を蓄えていく
「刀伊の入寇」に対しても、土着化した軍事貴族の末裔たちが大活躍するのだ


貞観の新羅海賊襲撃

「刀伊の入寇」の前段として語られるのが、貞観11年(869年)の新羅海賊の侵略「貞観の入寇
9世紀半ばの新羅王朝は疫病、天変地異から来る不作、そして地方の反乱と混迷を深めており、食料確保のために王朝も海賊行為を公認していた
俘囚鎮圧の経験があった対馬守の文屋善友がこれを迎撃しており、この時代においては律令国家の徴兵制度が機能したとされる
ただ文屋姓の武人が「刀伊の入寇」にも参加しており、中央からの武官が土着化した一例として解釈できるとか
この経験は平安朝の記憶に残り、「刀伊の入寇」に対しては、摂関政権では「貞観の入寇」を先例として対応が決められた
また、古代日本の主な対外戦争は、蝦夷討伐であり、降った俘囚たちへの活用(!)として、各地に兵士として配置されていたとか。これも、武士の起源のひとつに数えられそうだ

*wikiによると、そもそも兵(つわもの)という言葉には、王朝に逆らった者という悪いニュアンスがあり、王朝の側に立って鎮圧する者を”武士””武芸ノ士”と呼ばれていたとか。しかし、承平天慶の乱後には、武士の側もその残虐さから貴族に忌避され、武士=兵(つわもの)と同じ意味合いになってしまったという


東アジアの混乱と女真族の海賊行動

新羅の海賊行為が王朝末期の混乱、宗主国・唐の衰亡とか変わっていたように、「刀伊の入寇」も高麗王朝の混乱と関わっていた
女真族たちは友好関係だった渤海王朝契丹に滅ぼされており、交易相手を失った女真族は南に活路を見出すべく、海へ乗り出す
鬱陵島の于山国を滅ぼすと、それを拠点に朝鮮半島沿岸を荒らして、日本にもやってきた
新羅海賊の前例から、日本側は女真族を当初は高麗と同一視するところがあり、「刀伊」の名称も「東夷」に日本の文字を当てたものという
高麗側も女真族に反撃しており、日本側の疑いを解くために、捕えられた日本人の送還を行っている


道長との政争に敗れた男が対応

この侵略に対応したのは、藤原北家の藤原隆家。武官としてのキャリアを積んで若くして公卿に列していたが、関白となった父・道隆や叔父・道兼が亡くなると暗転
藤原道長が内覧・右大臣となり、花山院の袖を射抜く事件で失脚
復権後に眼病の治療も兼ねて、中国に近い太宰府を任地とする太宰権師となっていた。天下の「さがな者」(荒くれ者)として有名であり、“殺人→穢れ、不信心”と都人から忌避されるとはいえ、公家と武家がまだ分離されていない象徴といえる存在だった
女真族は、対馬・壱岐を荒らしてその住民数百人を拉致し、北九州各地に上陸するが、この隆家と大蔵種材らに指揮された土着の「住人」、“兵”たちによって撃退される
女真族の略奪対象は“人間”であり、背景には大陸の“奴婢市場があった。なるべく健常な者を船に乗せるため、その都度、選別して老衰者を海に落とすなど酸鼻を極める現実があった


本書では東アジアの情勢から俯瞰した視点で、各国で律令国家が形骸化して封建制度へと移る時代性を踏まえて、「刀伊の入寇」と“兵”の台頭が読み解かれている
教科書で単語だけしか知らない出来事に、このようなドラマが詰まっているとは思わなかった。歴史の空白を埋めてくれる良書であります





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