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『河内源氏 頼朝を生んだ武士本流』 元木泰雄

源平合戦だけで語れない中世史



鎌倉幕府の初代将軍・源頼朝を生み出した河内源氏は、いかに平安時代を渡り歩いたか。武士の保守本流の歴史を読み解く

大河ドラマのときに読んどきゃ良かった(苦笑)
河内源氏とは、清和天皇を源流とする源氏のなかでも、武門を代表する存在として源頼信を祖として河内国(現・大阪の一部)を根拠地とした一族
本書では清和天皇の孫にあたる源経基に、その子・満仲から源氏武者の発祥をたどり、平治の乱によって一度滅するまでの栄枯盛衰を取り上げる
強調されるのは、源氏が“武家の棟梁”と言われつつも、その力の源泉は朝廷ならびに摂関家とのつながりによるということ。河内源氏と言われるように、畿内を基盤とする“軍事貴族であり、親戚には摂関家のライバルとなったような権門もあり、国司の代わりに現地の問題を解決する受領」の地位をもつ四位・五位に位置していた
坂東武者とのつながりは、古くからあったものの、その代表者となるのは源頼朝からで、だからこそ革命的な存在といえる


1.皇族発の軍事貴族


清和源氏の祖である源経基は、平将門と藤原純友の乱に参加しながら功を挙げられず、皇族としての政治力で官位だけは確保した
武家としての基盤を築いたのは、その嫡子・満仲から。安和の変で、醍醐天皇の第十皇子である左大臣・源高明の失脚に加担し、摂関家と太いパイプを築き、武門の最高位である鎮守府将軍に上り詰めた
満仲の長男・頼光と三男・頼信は、摂関家の絶頂を築いた藤原道長の覇権に協力。頼光摂津国を根拠地に、東国への玄関口である美濃を抑えて、子孫に多田源氏、美濃源氏を残す。荒々しい頼信は、東国で平忠常の乱を平定して、源氏と関東の縁を築いた。この頼信が河内源氏の祖となる
面白いのは、その子の源頼義桓武平氏の嫡流である平直方から嫁をもらい、鎌倉の地とその郎党を引き継いだこと。この頃の平家は、土着した平家である平忠常の乱の鎮圧に失敗し、源氏と明暗を分けていた
後に頼朝が頼義の故事を踏まえた鎌倉入りも、元は桓武平氏から譲られた土地であり、武士の争いを源平合戦で見ていくと実態から離れていくのだ


2.奥州十二年合戦と頼家の蹉跌

高評価を受けた源頼義であっても、まだ坂東武者を動員できる立場にはなかった前九年の役には、安倍氏の抵抗に苦戦し、出羽の豪族・清原氏の大軍がなければ勝利できなかった
後三年の役での源頼家は、朝廷から私戦と見なされたことから、奥州藤原氏が成立したことを見守ることしかできず、絶大な名声を得ながらも官位は頭打ち状態となった。そして、頼家の嫡子・頼親は素行の悪さから都を追放され、後に反乱を起こして一気に河内源氏は没落
河内源氏は摂関家とのつながりが強かったため、白河法皇に始まる院政の時代に退けられた側面があり、頼親の子・為義の代に駆け上がる平家の嫡流・平忠盛(清盛の父)とは立場が逆転してしまう


3.保元の乱と親子の相克

為義の息子・義朝母が白河院の近臣であり、為義が摂関家を優先させたせいか、廃嫡同然で東国の安房国(現・千葉の一部)へ下向する
そこで源氏の貴種として見出され、豪族間の調整役として常総氏、三浦氏、千葉氏といった坂東武者に認められる。院と関係の深い熱田大宮司・藤原季範の娘と結婚して、検非違使の父・為義を超える「受領」就任を果たした
保元の乱では、摂関家の藤原忠実・頼長父子についた為義に対して、義朝は妻の実家のつながりから後白河天皇の旧院政派について、父と兄弟を処刑することになった
大きく貢献した義朝だったが、もともと高い官位をもつ平清盛との差は埋まらず、保元の乱の首謀者だった藤原信西も平家を重視してしまう


4.平治の乱と頼朝の流刑

そこで平治の乱では、反信西派によるクーデターに乗り、藤原信頼が二条天皇と後白河上皇を確保して、義朝は播磨守頼朝は天皇の側近となる右兵衛佐と異例の出世をした
しかし、義朝は河内源氏を継ぎながらも、その勢力圏は東国。天皇と上皇が脱出すると、西国と畿内で動員できる平家に抵抗できず、義朝は落ち延びた先で討ち取られてしまう
同じ源氏でも、多田源氏の源頼政は以仁王に巻き込まれるまでは、平家政権下で生き延びたし、義朝の嫡子・頼朝熱田神宮という母の実家、上西門院(後白河天皇の姉、准母)の蔵人というつながりから生き延び、他の兄弟たちの多くも助命される
平治の乱は摂関家の内紛、私戦とみなされたことから、保元の乱ほど処分は厳しくなかったそうだ


本書は源氏、平家、天皇家、摂関家と複雑に入り乱れた血縁と人間関係を細かくたどって、公家対武家という二項対立、教科書的な史観を退け、時代が進むごとに分離し専門化していく構図を導き出している。また、皇族も武家も主がなくなると、その未亡人が廃嫡の権利まで握るという(北条政子が好例)、武家でも母系社会ならでは習俗が残るのも興味深かった


*23’4/5 加筆修正

保元・平治の乱を題材 → 『後白河院』(井上靖)

前九年・後三年の役を題材 → 『炎立つ』(高橋克彦)




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