土方歳三(=岡田准一)は、五稜郭の戦いを前に自らの人生を回想していた。武蔵国多摩に生まれた歳三は、天然理心流を継いだ近藤勇(=鈴木亮平)ともに武士として名を挙げようと、会津藩が募集した浪士組に参加する。浪士組を指揮する清河八郎(=高嶋政宏)は朝廷を後ろ盾にした攘夷へ豹変するものの、歳三たちは芹沢鴨(=伊藤英明)を通じて分派し新選組が誕生させた。隊士の内紛と粛清、不逞浪士との戦いに明け暮れるなか、歳三は女絵師・お雪(=柴咲コウ)と出会うが……
『関ケ原』の監督さんによる司馬作品の映画化
その『関ケ原』同様に、長編小説の尺を詰めこんだために各エピソードが細かいカットで刻まれていて、どうも落ち着かない。1つ1つのシーンが見事な映像美、演技、演出がなされているのだが、ゆったりと鑑賞できないのだ
場面を短くするより、エピソードを絞ることはできなかったのだろうか
それはともかく、岡田准一をはじめ殺陣はバッチリ。鈴木亮平の近藤勇はさすがの説得力である(眼鏡の山南敬助はアレだけど)
密偵の山崎丞を演じた村本大輔の話芸も場を賑わせ、実際の新選組同様にキャストはタレント揃いで、キャラクターがいかんなく発揮されている
それだけに二部構成ぐらいで、じっくり楽しみたかった
細部のこだわりはさすがで、有名な新選組のユニフォーム、白と浅葱色(水色)の羽織は、最初に登場するのみ。歳三がお雪に依頼したデザインは闇夜に溶ける上下黒ずくめで、夜間の尾行、襲撃における隠密性を重視していた
作中では芹沢鴨とその部下が勝手に採用しようとしたところ、規則と違うと歳三が拒否させており、流布しきった俗説を拒否する本物志向なのだ
ドラマ的には、歳三と近藤勇の友情に焦点。勇は歳三の意図に反して、尊王攘夷の活動家になる側面もあったが、新選組の局長として武士道を体現する存在で歳三の作品ともいえた
そんな勇が江戸開城後に出頭したのは、作中では肩に重傷を負い剣を振るえなくなり、武士として切腹すらできなくなったからとしていた
勇を歳三が見送るところが、この作品の白眉だろう
なぜ、新選組や歳三は敗北したのか。勇との別れで突きつけられるのは、水戸学を中心に広まった天皇制イデオロギー。錦の御旗が上がるや、徳川慶喜は戦意を失い、親藩や井伊家のような譜代の筆頭さえ恭順していった
使えると分かれば、洋式軍隊の兵制を躊躇なく取り入れる合理主義者の歳三が、非合理的な因習に敗れるのは、合理が非合理を制す司馬小説の構図が逆転したかのようだった
原作小説 『燃えよ剣』
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