Kindle版で我慢すべきか
9.11同時多発テロを起こした青年たちに、日本のオウム真理教、連合赤軍を見た田原総一朗が悩める若者たちの足跡をたどる
普通の論者がこういうテーマを扱うと、何か共通点を見出して仮説を立てるというムーヴをとるもの
しかし、本書は違う。各章ごとに専門家との対談を載せ、考える素材をゴロンと転がしている。自身による締めの文章が1~2ページで寂しい気もするが、安易な結論に至らないのもひとつの見識だ
アルカイダとオウム真理教には宗教の名のもとでテロの肯定、アルカイダと連合赤軍には権力への武力蜂起、オウム真理教と連合赤軍には超越にいたるためのリンチ事件、とそれぞれ共通点は見いだせる
が、どれも違った時代、世界観を負っているのであって、知れば知るほど安易な法則は作れないのだ
著者は思想家でも作家でもない、かといって純粋なジャーナリストでもないけれど、関係者や専門家から真理を引き出すインタビュアーとしての能力が光る
1.アル・カーイダの貧窮待望論
本書が出版されたのは、2004年。イラク戦争が終わって新政権を組織化する動きがあり、陸上自衛隊が初めて戦闘地域での活動をはじめ、日本人ジャーナリストが殺害されるなど、同地でのテロが盛んなっていた時期だ
対談では9.11の動機について、アルカイダが追いつめられて窮鼠猫を嚙んだのではという
アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンは、しっかりした思想の持主ではない
湾岸戦争の際に祖国サウジへ米軍が駐留していることを大義名分としつつも、アメリカとずぶずぶのサウジ政府を攻撃することはなかった
しかし、結局は祖国を追放されることになり、外国の拠点を転々とするうちに追いつめられたのではという
当然、彼が根拠とするコーランの引用などは、正統とはいえず、こじつけに過ぎない
特に朝日新聞の編集委員・松本仁一が指摘するのは、かつての日本の革命運動が陥った「困窮待望論」に傾いた説。テロで治安が乱れるほど、世界中のムスリムへの風当りが強くなり、自派になびくのではないか、と
この論理は、のちのISとか世界各地の武装勢力にも適応できそうだ
2.オウムの論理と共産主義化
オウム真理教の殺人・テロ事件に関しては、「ヴァジラヤーナ」と「マハームドラー」の教義。チベット仏教にはいろんな経典があり、その中から「ヴァジラヤーナ」が殺人を肯定する解釈を持ち出した
有名になった「ポア」は、死んだあとに魂が本来行く世界よりも、高い次元の世界に転生させる意味があり、殺人がその人の救済につながると加害者たちは信じた
「マハームドラー」は修行のために師から弟子に出される難題で、感情的に乗れない殺人についても、それを乗り越えることで悟りに近づくと後押しした
ここらへんの論理は、連合赤軍の「共産主義化」と通じるものがある
厄介なのは、仏教ではカトリックのようなヒエラルキーがなく、あまりに教えが多様化し過ぎている。なにが正統で何が異端かという論争が発展しづらいのだ
オウムに集まった人々は社会に順応できない「引きこもり」の受け皿であり、教団のなかでも麻原との1対1の関係が基本で、横のつながりはもてなかった
キーになるのは、「思考停止」。麻原に帰依することで、信徒たちは自分で考えることをやめ悩みから解放され、思考を停止できない幹部は事件からは外されたという
3.連合赤軍事件の真相
連合赤軍に関しては、当事者である植垣康博、赤軍派の立ち上げメンバーの花園紀男、第二次ブント分裂で赤軍派と対立した三上治が対談相手に登場する
赤軍派はリーダー塩見孝也が「前段階武装蜂起」をぶち上げるが、あとのことを考えていない
大菩薩峠で大量の逮捕者を出すと、海外に拠点を作る方針に転換。田宮高麿のよど号ハイジャック事件へとつながって、さらに塩見自身も逮捕され赤軍派は壊滅状態に追い込まれる
そんな赤軍を立て直すべく、革命左派との一体化を企画したのが、対談にでてくる花園紀男! ただし、山岳ベースをつくることには反対で、それがみずから孤立を招いたとする
逮捕された塩見のあとを任された森は、武装闘争をそらすために、そのための調練、「共産主義化」からの内ゲバを招いたとする
武装闘争にいかなったのは、物理的に無理だからで、塩見にしてもそれを表明しなかった。それを言えなかったために、「共産主義化」が持ち出された。花園は森こそ典型的な「日和見主義者」とする
三上治の森に対する分析が鋭い。本来は気が弱く運動から逃げた経験のある森は、自分が逃げないために「共産主義化」を持ち出し、他人にも戒律として強要した。自分を恐れ、信用していない人間は「制度の言葉」に救いを求め、制度からはみでる人間の身体や感覚を削ぎ落してしまう。むしろ、その身体性こそが本来は重要なのだが……
革命の名のもとに人を殺した以上は、その幻想のなかで生きようとしてしまう。殺すことに価値があるという発想をもつと、過激なやつほど力をもつと三上氏は語る
海外テロを起こした「日本赤軍」に触れられないのは寂しいが、結びの「流れに、時代に掉さす勇気を持て」の言葉は総括にふさわしい
*23’4/12 加筆修正
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