1953年のソ連・モスクワ。モスクワ・ラジオの演奏を気に入ったスターリン(=エイドリアン・マクラフリン)は、スタジオに録音テープを寄越すように命じるが、ピアニストのマリア・ユーディナ(=オルガ・キュリレンコ)はそこに罵倒する手紙を忍ばせた。手紙を見たスターリンは興奮し、脳卒中を起こして昏倒してしまう。放心する最高幹部たちを尻目に、秘密警察を指揮するベリヤ(=サイモン・ラッセル・ビール)と中央委員のフルシチョフ(=スティーヴ・ブシェミ)による、ポスト・スターリンの主導権争いが始まった!
ソ連版『お葬式』!?
舞台はスターリン体制下のソ連。疑わしき人物を次々と粛清してきた独裁者が倒れたことで、その提灯持ちだった部下たちは大混乱に陥る
医者を呼ぼうにも、まともな医者たちは毒殺の疑いをかけられて監獄のなか。無理矢理、引退した医者を徴発し、診察させる始末だ
そもそも冒頭にスターリンの命令で、生放送だったラジオのオーケストラを再演する珍事が起こっており、批判が許されない無謬な指導者を仰ぐ体制をこれでもかと笑いの種にしている
NKVDが絡むとだいたい関係者が拉致されて、「スターリン万歳」の声とともに銃声が響くというかなりブラックな演出がなされており、笑いに昇華しきれているかは微妙なところ
管理人は気に入ったが、かなり人を選ぶ映画ではあるだろう
スターリンのもとで絶大な権力を振るったベリヤは、自分が一番恨まれる存在なのを理解していた。いち早くスターリンに提出した粛清リストを確保して、都合のいいように改訂してしまう
書記長代理の立場から中央委員会の議長となったマレンコフ(=ジェフリー・タンバー)に取り入って、ナンバー2の立場を維持する
フルシチョフもそれに対抗した外務大臣で粛清リストに入っていたモロトフ(=マイケル・ペイリン)を取り込もうとするが、ベリヤは先手を打って粛清されたはずのモロトフ夫人を釈放し、モロトフ自身をリストから外した
こうした政治的な鍔ぜり合いが本作の見所。フルシチョフは鉄道などの運輸関連に葬儀委員長を任されて閑職に追いやられてしまう
しかし、葬儀の最中に起死回生の展開が!
赤軍総司令官ジューコフは、NKVDが警備を独占したのに憤慨し、フルシチョフと影の盟約を結ぶのだ
このジューコフのキャラクターが最高で、スターリンの息子であることを振りかざして周囲を困らせるワシーリーを鳩尾(みぞおち)への一撃で撃沈。史実よりラテン系で若々しく、分かりやすく力の化身といった豪傑なのである
権力を確立したフルシチョフは、スターリンの娘スヴェトラーナに対して手のひらを返した態度をとる。一寸先は闇の政治の世界、独裁権力の怖さを示すラストシーンなのだった