『勇魚』 下巻 C・W・ニコル

『盟約』『捜敵海域』『特務艦隊』の三つの作品へ続く


勇魚(いさな)〈下巻〉
勇魚(いさな)〈下巻〉
posted with amazlet at 20.02.08
C.W. ニコル
文藝春秋
売り上げランキング: 670,003


琉球から上海に渡った甚助は、イギリス人船長フォガティーの信用を得て、一流の船乗り“ジム・スカイ”として活躍していく。その一方で、日本は風雲を急を告げ、大老・井伊直弼が暗殺されたことで松平定頼は再び浪人の身となり、攘夷の同志・伊藤をすすめで薩摩に身を寄せることとなる。絵師として有名になった三郎は太地村の不漁から仕事が激減し、慣れない船仕事に取り組むこととなった

上巻は片腕を失った刃刺・甚助の悪戦苦闘が中心だったが、下巻では甚助が栄光の階段を登っていくのと対照的に、時代の波に取り残されていく定頼と三郎の悲哀が目立つ
定頼は長州過激派の暴走による禁門の変を、体制を守る薩摩藩士として参加するが、戊辰戦争では官軍として幕府軍と戦う。松平定信の子孫である彼にとって、自らのアイデンティティを破壊する行為であり、外国から流入した銃器で日本人同士が殺し合った現実に打ちのめされて心に深い傷を残した
西南戦争のとき、定頼は新政府についていけない伊藤ともに、西郷のもとを目指す。その旅路を運ぶのは、ジム・スカイ”こと、かつての甚助。いつ交わるかと期待した二人がまさか、こんな邂逅を果たすとは……

太地村は海流の変化、外国の捕鯨船の活動から、鯨の獲れ高が下がり寂れていく
絵師として生計を立てていた三郎も、描く船がなくなってきたことから、自ら鯨取りとして船上の人となる
甚助への遠慮から、妻のおよしと距離を置いていた彼だったが、絵を通して愛情が高まり二人の子をもうけるように
そこに来て甚助が突然の里帰り!
甚助は三郎とおよしの関係にショックを受けるが、およしが三郎を立て、三郎が甚助の生き方を認めたことで、兄弟の溝は一瞬で埋まる。甚助はフォガティー家のスーザンと結婚すること決め、アメリカ国籍をとることを決意したのだった
しかし、その十数年後に太地村に悲劇が襲う。不漁からタブーである鯨の母子をとりに出かけたことから嵐に巻き込まれ、太地の鯨取りは壊滅する。1878年(明治11年)の大背美流れである
太地村は400年続いた古式捕鯨の担い手を失い、近代捕鯨に転換せざる得なくなった。そして、三助は……(泣

下巻における甚助は、ジム・スカイの名を得たことで日本人離れした活躍を見せる。まるでメジャーへ行ったプロ野球選手の如し
その豪快な生き様は、作中にも登場するジョン万次郎に近く、同時代に外国へ出たまま帰れなかった者もいたことだろうし、各国を渡り歩いた作者の人生とも重なって見えた
甚助の不屈の闘志は、イギリス的なのである
それとは対照的に、伝統を重んじる弟の三助や定頼は桜のようにはかなく散っていく。この二つの精神を雄大に描き切ったことが何より素晴らしい


前巻 『勇魚』 上巻

深重の海 (集英社文庫)
集英社 (2018-09-07)
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太地村と大背美流れに触れた小説
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