『勇魚』 上巻 C・W・ニコル

シリアスながら、アクションシーンもあって娯楽性も高い


勇魚(いさな)〈上巻〉
勇魚(いさな)〈上巻〉
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C.W. ニコル
文藝春秋
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幕末の紀州、太地の村鯨取りで知られていた。鯨を仕留める刃刺を継ぐと目された甚助は、アメリカの捕鯨船との遭遇に胸を躍らせるもつかの間、鮫に襲われて片腕を失ってしまう。外国船打ち払いの切り札として鯨取りに眼をつけていた、紀州藩士・松平定頼は、やさぐれる甚助に外国の鯨取りになる代わりに、個人的なスパイとなるように求められるが……

『風を見た少年』などで有名なC・W・ニコルの長編歴史小説
ジュブナイル向けの小説や自然に関するエッセイしか読んだことがなかったから、こんな本格小説を書いているとは知らなかった。昔のホーキンスのCMに出ていて、靴はホーキンスと決めているほどなのだが(苦笑)
主人公は紀州太地村に暮らす兄弟。たくましい刃刺の兄・甚助に、船を華やかに彩る絵師となる弟の三郎で、兄は松平定頼の密偵として江戸、琉球、上海と旅して、弟は村に残って度重なる災害から家族を守っていく
驚くべきはほとんどの場面が日本人の視点で描かれていて、なんら違和感がないことだ。1年間、太地村に住んで取材を重ねたといっても、これだけ当時の捕鯨の様子、日本人の価値観を捉えきる透徹した視線には恐れ入る
当然ながら、アメリカ、イギリスから見た日本人の在り様も、ややひいき気味ながらも語られていて、多面的、重層的に幕末日本を眺められる労作なのである

鎖国か通商開国か、佐幕か尊王か政局で語られる幕末維新を、捕鯨という日米の共通点から切りこんでいるのが新鮮だ
ペリーが浦賀にやってきたのは、直接的には捕鯨船の寄港地が欲しいから。当時のアメリカは工業化が始まり、機械の潤滑油や照明用のランプの需要が激増していた
アメリカの捕鯨は鯨油の採取専門であり、鯨油を抽出するために大量の薪木と水を必要となったのだ
アメリカ人が巨大な帆船とカッターで追いつめるのに比べ、太地村の鯨取りは組織力で仕留めにいく。勢子役の船が鯨を網へ誘導して動きを止めさせ、銛を投げ入れて生命力を削っていく
鯨は必死に逃げようとするので、トドメとして「鼻切り」をしなければならない。鯨の鼻とは潮を吹く噴気孔のことで、ここを傷つけると呼吸ができなくなるから一気に弱っていくのだ
この鼻切りはたいへん危険であり、銛を刺す「刃刺」の中でも最も名誉な役目である
日本人は鯨の各部位を使い切った。鯨肉はいうまでもなく、臓物も珍味で腸は「龍涎香」という高価な香料となる。髭や骨は手工芸品となった
そんな日米の捕鯨が血なまぐさくも大迫力で描かれるのが本作である。到底、映像化は不可能だろうが(苦笑)
片腕を失った甚助は定頼の密偵となることで、琉球、そして海外へ旅立っていく。欧米の文化にのめりこんだ甚助、攘夷主義者でありながら、松平定信の子息、次期将軍の紀州藩士という立場から井伊直弼に仕えるはめになる松平定頼、幼子の名誉のため兄の残した恋人と結婚した三郎がどうなっていくか。史実の流れは分かっても、物語の結末は読めない


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