ステーキ! - 世界一の牛肉を探す旅 (中公文庫)
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マーク・シャツカー
中央公論新社 (2015-01-23)
売り上げランキング: 375,920
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ステーキはなぜ、おいしいのか。世界一のステーキを求めて、アメリカのテキサスからヨーロッパ、日本、アルゼンチンと渡り歩き、人と牛との歴史とステーキの変遷をたどる
本書は著者が子供のころに食べた最高においしいステーキがなかなか再現できないことから、おいしいステーキが生まれる秘密を探そうと世界各地の名産地を回る旅に出るというもの。それだけにとどまらず、旅で得た教訓から自らおいしい牛肉を作ろうと自宅での飼育にまで乗り出してしまうのだ!
こと、味の問題であり、個人の嗜好で受け取り方は変わり、各地なりの事情と文化で評価も違うのだが、不思議と共通の“おいしいの法則”が浮かび上がってくる
本来、牛は草で育てられていた。西部のカウボーイは、牛に草を食べさせながら太らせ、街に肉を供給していた
しかし今では大量に生産される飼料用トウモロコシや大豆、小麦によって肥え太らされ、すぐに市場に出せるように若い牛が育てられる。そうした牛はいわばシステム化された工業製品であり、風味も食感も悪い
では昔のように草で育てればいいのではないか。最初の訪問先、アメリカのテキサスでそういう試みがなされていて、著者はその肉を試食するのだが……これがそれほどおいしくない(苦笑)
トウモロコシで育てられた牛はほどよく脂肪がつき、平均的なおいしさがある。草で育てた牛は、おいしさの質の幅が大きいのだ
自らの飼育経験を経て、終章においてこの幅の秘密は分かる。草を食べさせるにもただの雑草ではなく、その組み合わせ、食べさせる時期が重要で、もともと野牛が森で暮らしていたことも合わせて、クルミなどの木の実、リンゴなどの果実もエッセンスとなってくる。かなりの手間を要するのである
日本人として気になるのは、和牛の評価だろう
著者にとっての日本体験は、事前のイメージも相まって鮮烈。自動販売機のコーヒーの質の高さにマグロの脂ののりかたに驚き、日本人をよく悪くも完全主義者と評する
牛肉消費量の割に、日本人は霜降りと脂肪を最上とし、特徴的なのはその赤と白のコントラストの美しさを重視する。たとえおいしさが同じでも、黄色の脂肪のついた肉は高い評価を与えない
もう一つ大事にするのが食感で、その重要性に関しては著者の主義とマッチする。実際、和牛が北米に持ち込まれて飼育もされている
他にも本書からは最古の“カウボーイ”がいたスコットランドのアンガス牛、輸入穀物で質が劣化するステーキ大国アルゼンチンなど、知られざる牛肉事情を垣間見れる