ベスト&ブライテスト〈中〉ベトナムに沈む星条旗 (Nigensha Simultaneous World Issues)
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デイヴィッド ハルバースタム
二玄社
売り上げランキング: 250,303
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なぜ、ケネディが集めた俊英たちが、アメリカを泥沼のベトナム戦争に送りこんでしまったかを追う、伝説的レポートの中巻
ケネディ政権のもとで軍事顧問団の派遣が決まり、南ベトナムの首都サイゴンに援助軍司令部が作られる。この援助軍司令部は本国にきわめて楽観的な報告を送り、アメリカ政府に情勢判断を誤らせる
しかしケネディの暗殺直前には、仏教徒のデモに弾圧で返したゴー・ジン・ジェム政権が問題視され、CIAの秘密作戦で使嗾された南ベトナム軍部のクーデターを黙認する決断をした
ダラスの暗殺事件後には、副大統領のリンドン・ジョンソンが大統領職につき、ベトナム政策を継続。次期大統領選に向けて、ベトナム問題がマイナスにならないように、トンキン湾事件から北爆を実行するのだった
1.統計の鬼、ロバート・マクナマラ
タイトルにあるスマートな‟賢者”の代表格、ロバート・マクナマラが前半ではクローズアップされる
彼は第二次大戦中にアメリカ陸軍航空隊に入り、戦略爆撃の解析、立案に従事。太平洋の対日戦では、B-29の大量投入を統計学の視点から立証した
戦後は、GMに押されていた自動車メーカー、フォードの経営陣に迎えられ、赤字と不採算に悩むメジャー企業を徹底的なリストラと工場閉鎖でV字回復させた
しかし、マクナマラは民間企業に要求される人間臭さ、非合理性を嫌って、多大な役員報酬を捨ててケネディ政権に国防長官として入閣する。この統計と‟合理性”への偏愛がマクナマラと‟ベスト&ブライテスト”の特徴だ
マクナマラは国防長官としては異例なほど、ベトナムに足を運んだが、援助司令部の粉飾した報告を見抜けず、そのもっともらしく作られた数字から、ベトナムへの介入政策が正解であると信じてしまった
上巻でエスタブリッシュメントの長老が、‟賢者”たちを「彼らが少しでも選挙の洗礼を受けておれば、より安心なのに」と評していたことが偲ばれる
2.戦時下の文民統制の限界
ベトナム戦争の引き金はケネディ政権の時代に引かれていたが、新大統領リンドン・ジョンソンはそれに拍車をかけた
実際、より強い介入を働きかけたわけではなかったが、次の大統領選で勝利するためには、ベトナム問題に腰を引くわけにはいかなかった
国共内戦を中共政府が制したことで、ときの大統領トルーマンは第二次大戦に勝利したにも関わらず、再戦を阻止されてしまい、国務長官アディソンは敗北者の汚名を負った。政治家としてそんな烙印を押されてしまうのは、避けたかったのだ
CIAの秘密作戦が誘発したトンキン湾事件から、その海上戦力へ報復する空爆を承認し、かつて院内総務を務めた上院議会からは戦争の白紙委任状ともいうべき法案を通させた
本来は人気にとぼしい新大統領は、トンキン湾事件直後には85%もの支持を集めたという。このとき、「宣戦布告なしに戦争の権利を委託してしまった」「アメリカの憲政を破壊する」と警告して反対した議員は二人に過ぎない
一度、戦時に入ってしまうと、軍部は独立した勢力として活動を始めて、あらゆる情報を自分の有利な側に管理してしまい、大統領も議会もその脚を引っ張るように見られることを恐れてしまう。文民統制は戦争が始まる前までしか機能しない、というのが本巻の教訓であり、政治家は安易に軍へ動かしてはならないのだ
*23’4/12 加筆修正
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