ベスト&ブライテスト〈上〉栄光と興奮に憑かれて (Nigensha Simultaneous World Issues)
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デイヴィッド ハルバースタム
二玄社
売り上げランキング: 15,409
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ケネディが集めジョンソンが引き継いだ「最良にして最も聡明な」エリートたちが、なぜアメリカを泥沼のベトナム戦争に引きずりこんでしまったのか。アメリカ政治の本質を射抜く伝説のレポート
本書はベトナム戦争とそれにアメリカが深入りする過程を、ケネディ政権からジョンソン政権まで追いかけた、ディヴィッド・ハルバースタムの代表作である。ベトナム戦争に「泥沼」という言葉が続くようになったのは、彼のレポートに始まるという。上巻ではケネディ政権がその政権幹部の陣容を整え、ベトナムへ軍事顧問団の派遣を決定するところまでが描かれる
ジョン・F・ケネディはキューバ危機の冷静な対処とその劇的な死から、戦争に本格介入したジョンソンに比べてリベラルな印象が強い。しかし本書でのケネディは、単なる理想主義者ではない
むしろ、左右の支持層を無難に集めようとする秀才肌の政治家であり、大統領に当選後はリベラル層の支持を確保できたので、CIA長官をダレスからジョン・マコーンに変えるなど保守派の取り込みに気を遣った。ケネディの虚飾を剥がす上巻なのである
1.自由と民主主義への信仰
子供の頃から神童のような実績を持つマクジョージ・バンディ(国家安全保障担当大統領補佐官)に代表されるような人材が、なぜベトナムに首を突っ込んでしまったのか。上巻である種の答えが示されている
それはアメリカこそが、途上国に対する近代、自由と民主主義をもたらせ、現地のベトナム人もそれを望んでいるという‟信仰”である。フランスは植民地の支配者として舞い戻ろうとして失敗したのであり、植民地から独立した歴史を持つアメリカはそうした批判を受けないと、勝手に思い込んでいたのである
中国の共産化がアメリカに衝撃を与え、50年代に赤狩りが巻き起こったように、ベトナムの共産化が東南アジア全体の赤化を招くというドミノ理論が浸透して、世界を二色に分ける先入観が首脳陣や世間に流布してそれに反対することは困難だった
実際にはアメリカが近代化しようと援助した南ベトナムのゴ・ジン・ジェムは、一族で政府や軍隊を私物化しかえって、旧態依然とした家族主義を保全してしまい、かえって外国の援助がナショナリズムを刺激して解放戦線を勢いづかせる「奈落へと向かう渦巻」に陥ってしまった
2.ケネディの軍事顧問団派遣
ケネディは単純な反共主義者にはほど遠く、国際政治の多様性を理解していたが、ベトナムへの軍事顧問団の派遣を決定してしまう
それは彼が理想主義者というより、優れたバランサーである所以で、ベトナムへの介入する声が内外で高まるなか、その口を封じるためにお飾りではない規模の派兵を決めてしまった。ケネディが軍部と喧嘩して暗殺されたという筋書きは、本書によれば通用しないし、ピッグス湾の失敗もあっていろいろ妥協もしていたのだ
著者はベトナムについてケネディ生存当時から舌鋒鋭く批判しており、大統領から部署を移動するようニューヨークタイムズへ圧力が掛けられたという
朝鮮戦争を戦ったリッジウェイ将軍は、少数の軍事顧問団の派遣だけでも、一度派遣してしまえば引くことは困難だと反対した。数千人の派遣が数年後には数十万人に膨れ上がり、簡単にはやめられなくなることを洞察していた
しかし、軍部には第二次大戦の成功(してないんだけど)から戦略爆撃で敵陸軍を制圧するニュールック=空軍無敵論者が多く、フランスの失敗を深く考える者は少数だった。ベトナム戦争への導火線は、ケネディとその幹部たちによって引かれたのだ
*23’4/12 加筆修正
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