『中国近代史』 岡本隆司

タイトルは近代史だけど、何百年の過程を扱う


近代中国史 (ちくま新書)
岡本 隆司
筑摩書房
売り上げランキング: 222,313


なぜ中国の近代化は遅れたのか? 経済の面から西洋化との軋轢を分析する
題名は近代中国史だが、実質的には中国経済史である
本書では伝統的な中国社会を、古代から中央政府が人民の上層としか関わらない‟士”と‟庶”が分離した社会と紹介する。科挙試験により‟庶”から‟士”への昇格はゼロではなくなったものの、その構造を変えるものではなく、あくまで‟士”は‟庶”とは隔絶していた
中国の官僚制は民間の有力者から「徴税」するのみであり、庶民は必要の応じて「徴用」(=肉体労働)を強いられた。直接に税金を取られないものの、有力者の税金の元手を搾取されるわけで、その規制に役人は関わらない
王朝の財政はほとんど軍事費で、役人の人件費すら低く抑えられており、役人は他の社会からは汚職としか言えない賄賂収入で生活を賄っていた。民間の細かい行政は地方の有力者に丸投げの徹底した「小さな政府=チープガバメントだったのだ

長江流域の商業化により茶・絹・磁器を中心とする伝統経済は明代に完成する
明の前の元朝は、中国大陸の経済を海と陸からユーラシア大陸に連結したが、世界規模の寒冷化「14世紀の危機」をきっかけに没落する
明の太祖・朱元璋は分断統治されていた華北と江南の格差を縮めるべく、現物主義を導入する。華北では元朝の紙幣制度が崩壊しており、江南の高度経済を混乱する華北に合わせる必要があった。朱元璋が行った粛清と明朝の秘密警察には、こうした統制を実現するためにあったといえるようだ
ただし、こうした政策は「中華の一体感」を出すためには良かったものの、経済効率の悪さは否めない。新しい貨幣が作られないために、各地方で独自の貨幣が作られ、地域間の交易には銀が使われる。貿易を規制したために密貿易が横行して、大航海時代には西洋のみならず、日本からの銀の流入が沿岸部の経済発展に貢献した
この王朝の制度とは別に、各地域が独自の貨幣、特産物、交易を展開する様が本書のいう中国近世の「伝統経済」なのだ
清朝の満州族は遊牧民との交易を欠かさせない商業習慣をもっていたことから、明清交替も多くの地域で歓迎されたようだ

清朝の乾隆帝が「地代物博」を誇ったように、中央の官僚は中国は自給自足できると考えていたが、実際の各地域は外国との交易が盛んであり、華僑たちは「東洋のユダヤ人」ともいえる地位を築きつつあった
19世紀、イギリスの交易が茶の輸入で赤字となり、インドから綿花やアヘンが中国へ持ち込まれることで解消されていた。が、ランカシャーの綿工業が発達するつれ原料の綿花の輸入が必要となり、アヘンへの比重が求められることとなる
中国へアヘンを持ち込んだのはイギリスだが、中国側には「小さな政府」に食い止められない非合法集団、中間集団が存在した。官許の商人と違って外国の商社からの買い付けに応じる非公認の華人商人=買弁が動き回っていたのだ
中国大陸では18世紀から人口が激増して、清朝既存の体制で取り締まる能力を失っていたともいえ、香港や上海の外国人居留地も彼らの治外法権に任せるしかなかった

こうした「小さな政府」が変貌するきっかけが、太平天国などの反乱太平天国も清朝に統制できない中間勢力が国家を志向したものといえるが、それを倒した曽国藩の湘軍、李鴻章の淮軍といった義勇軍も中間勢力だった
彼らの義勇軍に中央政府から軍事支出が降りるわけもなく、地域の商人から軍費を拠出させる釐金(りきん)によった。「小さな政府」では補足できない金の流れを押さえるために、非公認だった商人たちが公認され、反乱陣営にまわっていた中間勢力を寝返らせた
この義勇軍が、中国の近代軍閥」の起源である
彼らによる群雄割拠は普通の近代史からすると逆行のように思えるが、清朝の「小さな政府」という事情からすれば、著者はやもえない過程とする
袁世凱政府は海外からの外債を引き受けつつも、国内の軍閥を討伐し地域ごとに違う通貨を統一し始め、そうした動きは蒋介石の国民党政権へと引き継がれる
蒋介石の政権は浙江財閥を基盤としており、上海から離れた地域では地方軍閥の生まれる余地が残った。それが東三省の張作霖→満州国であり、中国共産党と対立する原因ともなった

本書では国民党政府地方財閥や青帮という中間勢力に依存した旧態依然の組織であり、その構造を打倒した意味で中国共産党を評価する。土地改革と管理通貨を実現して「伝統経済」から離脱させたわけであり、その意味では中国史のなかでまさに革命的なのだ
しかし、方向性が正しいからといって中国の人民が幸福だったかはまた別であり、経済成長どころか飢餓状態に陥った毛沢東の統制政策を認めるわけではない
また、‟士”と‟庶”の隔絶という中国社会の伝統的な構造が解消しきったわけでもなく、世界なしに中国が存続できるかのような「地代物博」な態度は今も健在であり、本書で示された近代中国の性質は現代にも残存しているのである
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