『ホワイト・ジャズ』 ジェイムズ・エルロイ

悪党たちへのレクイエム


ホワイト・ジャズ (文春文庫)
ジェイムズ エルロイ
文藝春秋 (2014-06-10)
売り上げランキング: 421,124


ディヴィッド・クラインはロス市警の警部補の身で、弁護士資格を持ちつつ不動産業を営み、袖の下も怠らない多芸な汚職警官。麻薬課と深い関係を持つカフェジアン一家へ、変質的な強盗が押し入ったことから、刑事部長エドマンド・エクスリー直々に捜査を命じられる。麻薬課を中心に隠然とした勢力を持つ強盗課警部ダドリー・スミスを追い落とすためだ。クラインは一家の身辺を調べるうちに、相棒のステモンズ・ジュニアに不審を覚えて……

『ブラック・ダリア』に始まるLA暗黒街四部作の最終巻である
文体が特殊である。視点となる汚職刑事ディヴィッド・クラインに思考と完全にリンクしているがゆえに、やたらと文章の間に「‐」「;」「/」「=」と記号が使われて、詩のように短いセンテンスが積み重なっている
そこに余計な説明や冷静な分析はない。それだけ主人公クラインがしたたかながらも刹那的な世界に暮らしており、欲望に流されつつも鋭い勘でピンチをくぐり抜けていく。まるで暗黒街の住人をVR体験しているかのようだ
正直読みにくいことは、読みにくい(苦笑)。日本語と英語の記号が入り混じるがゆえで、原語ならばこそ生きる表現なのかもしれない
カフェジアン一家も単に犯罪者というだけでなく、人間関係も悪徳の極みといえるドロドロの世界にいる。そして、それに対峙するクラインもまた、それに匹敵するドロドロから這い上がった人物で、新しい悪事を働くことでそれを相対化していく狂気を持ち合わせる
はたして、人はどこまで堕ち続けていくことができるのか。堕ちた先に何が待っているのか
エクスリーが主役なら、もっと普通の文章になっただろう。しかし、打算と狂気を行き来するクラインだからこそ、巨悪ダドリーを刺せるのだろう

巻末の解説に乗るように、暗黒街四部作をダドリーの王国とその栄枯盛衰の物語と読むことができるが、それぞれがアメリカの変貌を映している
1958年を舞台とする本作では、マフィアの世界でも世代交代が起きる。ユダヤ系のミッキー・コーエンが脱税での収監をきっかけに没落し、イタリア系のサム・ジアンカーナが勢力を伸ばしていて、クラインもその仕事を受ける
その一方で、上院議員のジョン・F・ケネディが反マフィア運動に力を入れ、FBIを動かしてロス市警を揺るがし、エクスリーはダドリーを葬る口実に利用する
ダドリーのように薬の売人と釣るみながら、出る杭を打つ式に組織犯罪を押さえるという、犯罪者と警察の境界が曖昧な時代が終わり、エクスリーのような官僚が組織の利害を中心に動く時代が始まっていく。いつか見た映画、『県警対組織暴力』と同じテーマが隠れているのだ
当時、ニューヨークのブルックリンに本拠地にしていたドジャーズが、ロサンゼルスへ移転しホームグラウンド用地の立ち退きがワンシーンにあったりと、戦中戦後の混乱が良くも悪くもある種の秩序に収まっていくという時代の移り変わりを暗黒街シリーズは活写していた


前作 『LAコンフィデンシャル』

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