『戦国の陣形』 乃至政彦

「陣形」なんて、なかった


戦国の陣形 (講談社現代新書)
乃至 政彦
講談社
売り上げランキング: 101,212


戦国時代の陣形とは、実際にはどういうものなのか。日本軍事史の空白に挑む
序章にある著者の動機が生々しい(笑)。大河ドラマや小説などで、細かい部分の歴史考証は改善されているが、なぜか合戦の場面だけは講談に留まっていることに対する怒りなのである
それに留まらず、研究の世界でも中世、近世の軍隊に関しての戦術、戦型は、あまり掘り下げられていないという。本書はそうした未踏の地を大胆に踏み込んでいこうとするものだ
話は古代にまで遡る。古代日本は韓三国の戦いに巻き込まれ、唐・新羅の連合軍に大敗を喫する。この事態に対して、唐との関係を改善しつつ、その軍制を学習して農村から徴兵した「軍隊」を作ろうとした
それに沿って唐の“軍法”が導入されるはずだったが、大陸との関係が安定し蝦夷との国内戦に力が注がれるようになると、それに応じた“健児”(こんでい)の制に変更され、陣形の概念は衰えてしまう

平安時代に生まれた健児は、地方ごとの豪族によって編成され、「武士」の前身ともいえる存在だった。豪族の私兵という性質上、組織だった「軍隊」足りえず、それぞれが自分の判断で行動する「軍勢に近かった
そうした傾向は室町時代にまで続くが、足軽の台頭などで軍隊が大規模化していくことで陣形の必要性が生まれていく
合戦ごとに即席の陣形が生まれては消えていくが、著者によると武田信玄によって規則だった「陣形を作る動きが生まれたという。最新の研究によると、偽書とまで言われた『甲陽軍鑑』は高坂昌信が著し始め、春日惣次郎が継ぎ、最後は小幡景憲が完成させたと証明されたそうだ
それによれば、武田信玄は山本勘助から、諸葛孔明の八陣をヒントにするように進言を受け、陣形を工夫し出したという
面白いのが、相手を包囲する陣形とされる「鶴翼」の陣が、V型ではなく八型として伝えられていることだ。最初から包囲殲滅を目的に構えては、相手にバレバレなのである

もっとも、武田信玄の「陣形」は普及しなかった
主流となった軍制はむしろ、その敵である村上義清や上杉謙信の「五段隊形」だった。五段隊形とは、旗(指揮官&旗本)、長柄槍、弓、騎馬、そして新兵器である鉄砲を加えた五つの兵種をそれぞれ集中して運用したものである
「陣形」を軍隊全体の配置とすれば、「隊形」はあくまで一部隊の「隊形。追い詰められた村上義清は、信玄本人のみを倒すことで打開しようと必殺の隊形を編み出し、塩田原(上田原)の戦いでは、実際に信玄を負傷させることに成功した
その村上義清の機転を上杉謙信はシステム化することで、最強の軍勢をつくり上げる。そして、それに対抗する武田や北条に、「五段隊形」の軍法が広まることとなったという
鉄砲というと織田家のイメージが強いが、すでに上杉、武田でも集中運用が始まっており、上杉には三段撃ちどころか六段撃ちの記録まであるらしい
川中島で上杉方が用いたと言われる「車懸の陣」は、別にそういう「陣形」だったわけではなく、あくまで部隊の運用法。戦国時代で組織的な「軍隊」がいない関係上、「陣形」の概念は普及せず、部隊個々の兵種別運用「隊形」が発達した
この軍勢による「隊形」は、朝鮮出兵という対外戦争でも有効だった

戦国時代において「陣形」など、ほとんど意味を持たなかったのに、後世に名が残ったのはなぜだろう
江戸時代初期において、小幡景憲の甲州流軍学山鹿素行の山鹿流兵法にも「鶴翼」「魚鱗」などの名前はなく、後期に講談的想像力で広まったものだった
まして、「鶴翼」の陣が包囲殲滅の陣形というのは、明治以後に西洋の近代戦術が入ったから。著者にいわせれば、関ヶ原の戦いをみてメッケルが「西軍の勝利」と評したのも眉唾という。残された参謀本部の図を見ても、外国人に理解するのは至難の技だからだ
そもそも関ヶ原の戦いで戦場が関が原になったのは、石田三成が小早川秀秋の裏切りが濃厚になった情勢から、大谷吉継の軍勢が孤立するのを恐れて大垣城から引いたためという。とすると、関ヶ原の戦いはハナから東軍の勝利が濃厚の状態で起こったことになる
本書が語る「五段隊形」では、騎馬専門の隊が存在していることになっている。小柄な日本馬が重装備の武士を乗せて動ける時間は限られているはずで、その点では本当に騎兵として運用されたかは疑問。ただそれ以外の部分では、鋭い推論が展開されていて、合戦のイメージが改まる新書である
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