ルポ 電王戦―人間 vs. コンピュータの真実 (NHK出版新書 436)
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松本 博文
NHK出版
売り上げランキング: 232,901
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人とコンピュータ将棋の戦いはいかなる過程を経てきたのか。コンピュータ将棋の黎明期から電王戦にいたるまで、ソフト開発者と将棋棋士の関わりを振り返る
初出が2014年6月で、第3回電王戦後。当然、最後の五対五の対抗戦である第4回電王戦、山崎叡王とPonanzaの二番勝負となった“第1期電王戦”はフォローされていない
それでも1960年代に始まったコンピュータ将棋と、それに対する将棋棋士の反応が辿られているのは貴重。1967年に11手詰みの詰め将棋を7、8秒で解くに到っており、当時の加藤一二三“八段”が早くも「アマ初段の腕前」と評価していた
1990年に第1回コンピュータ将棋選手権が開かれる。「森田将棋」「柿木将棋」「永世名人」といまや懐かしい将棋ソフトに、第2回大会には電王戦にも出場したYSS(「AI将棋」)が登場している。市販にまで辿りつけば印税は入るものの、ほとんどの開発者はあくまで本業をこなした上で、余暇を割いて取り組んでいる。名利ではなく「楽しさ」「挑戦欲」が彼らを支えているのだ
本書は特に将棋界、開発者ともに敬意を払いつつも、著者が東大将棋部OBであることからか、Ponanzaの開発者・山本一成に紙数が割かれている
一軍半の将棋部員だった山本と嫁の詳細過ぎる馴れ初め(笑)、コンピュータ将棋大会での涙の敗北、勝ったら100万円の企画に結婚資金を割く、などの変人ぶりが書き綴られている
第2回電王戦のPVでは、子供に将棋を教える佐藤慎一四段に対して、ソフトの貸し出しを「やーです」と断る台詞を抜き取られ、ボンクラーズの伊藤氏ともにヒールの役割を背負わされたとチクリ。「勝ちたいです。もの凄く勝ちたいです」という台詞も、電王戦ではなくコンピュータ選手権に向けての発言だった
あの挑発的なPVは、かなり面白おかしく偏向させたものと見なすべきだろう
他にもいろんな、エピソードが拾われている第1回電王戦の時点で、電王戦は五年間に一局ずつ行うと決まっていて、次に登場するのは加古川青流戦を優勝した船江恒平四段(当時)と内定していたという
しかし、第1回電王戦が終わった後の打ち合わせの間に、一年に5局の団体戦になった
このサプライズは短い打ち合わせの間に出たものというより、ドワンゴの川上会長が電王戦の反響を見ての腹案だったのだろう
数少ない叡王戦に不参戦の棋士、橋本崇戴八段は、第2回電王戦に500万円の対局料で依頼されていた。A級棋士として出るなら、進退をかける戦いになり500万円では割りに合わないと拒否したという
第3回電王戦に関しては、「悲壮感がありませんでした」との感想を漏らしている
いまや、電王戦は叡王戦のための口実になっていて、人間が負けても本人以外衝撃を受けていない。タイトル戦ばりの7番勝負にするとか、決着戦はしっかりやってもらいたいものだ